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更新日:2024年8月26日

ヤマハ株式会社 ✕ 株式会社ワンライフ

「浜松アクセラレーター2021」を機に広がった
最新技術と障がい者eスポーツの可能性

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ヤマハ株式会社研究開発統括部第2研究開発部部長の鈴木克典氏(左)と株式会社ワンライフ代表取締役の市村均弥氏(右)

 

ヤマハ株式会社

世界最大の総合楽器メーカー。音・音楽を中心にした事業を通じて磨いてきた感性と多彩な技術を融合し、楽器、音響機器、部品・装置の領域でグローバルに事業を展開。研究開発部門で開発した伸縮する変位センサー技術の応用分野を探索するため「浜松アクセラレーター2021」に参加

 

株式会社ワンライフ

2014年設立。群馬県を中心に、障がいのある方を対象とした障害福祉サービスを展開。介護施設や児童発達支援施設の運営のほか、eスポーツを通して障がいのある方の就労を支援する就労継続支援B型事業所「ONE GAME(ワンゲーム)」を全国に拡大中

個々の障がいの特性に合わせたデバイスの実現を

——まず、ヤマハさんが「浜松アクセラレーター2021」に参加するに至った経緯や背景をお聞かせください。

 

谷高氏:研究開発部門にて開発したゴムのように柔らかく伸び縮みするユニークなセンサーがあるのですが、端的に言えば、このセンサーの「社外での用途を探りたい」というのが参加理由ですね。

もともとこのセンサーは楽器を演奏する運指を計測し可視化するなど、主に社内で活用してきました。いずれ新規事業に展開したいと研究を続けてきたのですが、なかなか新しい用途が見えてこなくて。技術としてはとても斬新で可能性のあるものなので、我々が知らない分野での使い道がもっとあるんじゃないかと。浜松市から話をいただき「事業の一歩手前の段階のものでもよければ」と参加しました。スタートアップとのオープンイノベーションで、弊社の技術をさらに鍛えていけるのではと思った次第です。

 

——では、ワンライフさんがこの浜松市の施策とヤマハさんの提案を知ったきっかけ、そして応募に至った経緯をお聞かせください。

 

濱川氏:弊社代表の市村均弥がインターネット経由で浜松市の施策を知ったのが始まりです。弊社は障害福祉サービス事業を行っていますが、新しく、eスポーツで障がいのある方の就労を支援する施設をスタートさせました。運営にあたり、ゲーム機の障がい者用デバイスに多く触れてきましたが、限界があると感じていたんです。例えば、同じ障がいでも右手だけ、左手だけが動く人もいれば、両方動かない人もいるので、個々に合うようもっと細分化できないかと考えていました。そこで今回、ヤマハさんのセンサー技術や活用例を見て、可能性があるかもしれないと思ったんです。障がいのある方にはかなり力が弱い人もいます。微弱な力でも押せるボタンみたいなものが実現したら、できることが増えるのではと考え、応募を決めました。

 

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プログラムに携わった、ヤマハ株式会社研究開発統括部第2研究開発部部長の鈴木克典氏(左)、主任の飯塚茜氏(左から2人目)、主幹の谷高幸司氏(右)と、株式会社ワンライフのeスポーツ責任者、濱川博成氏(モニタ)

 

——多くの応募があったかと思います。ヤマハさんがワンライフさんを選ばれた理由は。

 

谷高氏:25社ですかね。思っていた以上の応募をいただいて、たくさんの方に興味を持ってもらえたことが単純にうれしかったですね。

そんな中、ワンライフさんは障害福祉に取り組んでおられて、障がいのある方がeスポーツをもっと自由に楽しめるようにならないかと模索されていた。我々としても、会社の在り方と言いますか、そもそも楽器もいろんな方に楽しんでもらいたいという思いが根本にありますので、障壁のない理想的な社会の実現のためにも、弊社のこのセンサーの技術を使えば何か改善につながるかもしれないと協業に至っています。

 

——具体的にどんな技術がどう生かせると思われましたか。

 

鈴木氏:この伸縮センサーは非常に薄くて柔らかく、ごくわずかな動きでも変化、反応するんですね。耐水性もあり人体に直接貼ることもできます。何より大きな特徴は、個々の体や動きの個性に合わせられるという点です。

 

飯塚氏:センサーをテキスタイルに複数搭載し、その人に合った装具をカスタマイズすることができるので、何らかのシグナルを装具からコントローラーに送ってつなぐことができれば、わずかな力でもゲーム機を操作できるというイメージです。

 

——ワンライフさんはこういった応用性のお話を聞いて、実際にイメージは膨らみましたか。

 

濱川氏:はい。「わずかな力でも」とか「力が要らない」という点は障がいのある方にとって本当に大きな可能性なんですよね。重度になるほど筋肉が落ち、一般的なボタンでもカチッと押せなくなるんです。そこを、例えばわずかな指の動きだけでスイッチをオン・オフできるのであれば汎用性がすごく広がります。足に着けたり腕に着けたりしてゲームを行うイメージが描けました。

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簡単ではないと痛感。だからこそ、やり遂げたい

 

——そうして「伸縮センサーを活用して障がい者eスポーツ環境の改善・充実」を図る協業をスタートさせました。初めての試みですが、新たな気付きや変化などありましたか。

 

鈴木氏:初期の段階の話ですが、まず大きかったのが、可能性を探る際に「このセンサーを入力装置として使えるかも」と発見できたことですね。最初にお話ししたように、これは主に人体の繊細な動きを計測するために使っていました。そこで少し発想を変えて、その人体の動きを別の機器に入力することができるんじゃないかと。しかも、個々に合わせたカスタムも容易だし、微弱な力でも反応するという特徴も生かせる。今回のアクセラレーターというマッチングを通じて、ワンライフさんと会話して気付けたことです。今は社業にも役立てられるかもしれないと思考しています。

 

——一人一人の障がいの特性に合わせてカスタマイズするというのは、一筋縄ではいかないように感じます。

 

谷高氏:本当にその通りです。我々は介護や障害福祉に関する知識がほとんどなく、個々に合わせた装具を作る経験も多くはなかったので、想像以上に難しかったです。試作のさまざまなイメージは描いていたのですが、いざ実際に障がいのある方と向き合ってみると、思った以上に力がなかったり動けなかったり、本当に人それぞれで、「そんな簡単なものじゃない」と痛感しました。だからこそ、やり遂げたいという思いも強くなりました。

 

飯塚氏:今まで経験したことのない事象ばかりですし、勉強になることばかり。ワンライフさんと協業しなければ気付けなかったですし、メーカーとして何ができるのか考えもしなかったかもしれません。会うたびに発見や新たな気付きをもらっています。

 

——今の話をお聞きになって、濱川さんはどのような感想を持たれましたか。

 

濱川氏:私も既存の障がい者用デバイスをいろいろ触ってきましたが、いざ開発となるとヤマハさんと同じ意見を抱きました。同じ名称の障がいでも人によってその状態は全く異なり、まさに千差万別。それがどんどん見えてきて、「障がい者専用デバイスでもうまく使いこなせない」という事実が、障がいのある方にとって、ゲーム機やパソコンを使ったコミュニケーションの壁なのだと改めて実感しました。なので、そこを乗り越えて、用途を細分化したデバイスやツールが増えていけば、障がいのある方の就職といった面でも、もっともっと可能性が広がるのかなと思っています。

 

——ヤマハさん、そういった可能性に関してはいかがですか。

 

鈴木氏:確かに、このセンサーを入力デバイスに応用するとマウスなどいろんな用途に広げられるんです。マウス操作ができればパソコンが使えるようになりますしね。

 

谷高氏:実際、市場には障がいのある方向けにさまざまな製品が出ていますが、それでも使えない人が大勢いることを初めて知りました。研究開発が進めば、有意義な製品をもっと生み出していけると期待が膨らんでいます。

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「変位センサー」という名のこの伸縮センサーは静岡大学工学部と共同開発したもの。「デベロップドイン浜松です」と鈴木克典部長

この事業に関わり、障がい者eスポーツの可能性と夢が広がった

——ものづくり企業とスタートアップの協業を支援する浜松市の施策「浜松アクセラレーター」に対しての感想や意見を伺えますか。

 

谷高氏:とても素晴らしい取り組みだと思います。弊社の事業もそうですが、昔から製造業が盛んですから「モノを作る」という点はかなり優秀なまちだと思います。ただ、新しいアイデアだったりデザインだったりの発想の部分が足りていないと感じる時もあるので、将来を見据えて新しいビジネスを展開するこういった取り組みはずっと続けてほしいです。今は一つの企業で川上から川下までというのは難しい時代だと思います。オープンイノベーションを通した協業、得意な分野を持ち合って新しいものやサービスを作っていく時代が来たのではないでしょうか。

 

——ワンライフさんも今回のプログラムと出会ったことで事業の可能性が大きく変わったと思います。印象や感想をお聞かせください。

 

濱川氏:ヤマハさんと一緒に考えている、障がいのある方が本当に使いやすいデバイスが製品化されていけば、私たちが行っている障がい者eスポーツの市場ももっと活性化します。さらに、オリンピックの種目にeスポーツが加わるのならパラリンピックも、となりますよね。このツールの開発は障がいのある方の夢を広げてくれます。今回、浜松市の事業に関われて、ヤマハさんの提案に出会えて本当によかったと思っています。

 

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  • 本記事のインタビューは2023年3月に実施されたもので、記事中の内容・人物の肩書等は全てインタビュー時点のものです。

 

 

 

 

 

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