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更新日:2024年1月1日

株式会社YAMADA

「Hamamatsu Incubator 2021」優秀賞受賞
信用と人脈、提携先を得て、ビジネスが拡大

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「e-foot」を手にする代表取締役の山田好洋氏。柔道整復師としての経験と知識、「歩く喜びを届けたい」という思いを製品に込めた

 

株式会社YAMADA

柔道整復師として病院で装具療法やリハビリに従事したのち、1993年に浜松市南区で山田接骨院を開業。リハビリデイサービスやトレーニングジムを同時運営する中で、ゴムの力で歩行をサポートする補助具「e-foot(イーフット)」を開発、2020年に株式会社YAMADAを設立した。歩行研究所として歩行訓練や筋力トレーニングの指導にあたりながら「e-foot」の普及活動に努めている

人工筋肉をイメージし、「e-foot」を開発

——自力歩行補助具「e-foot」の開発のきっかけをお聞かせください。

 

これまで病院や開業した接骨院で治療やリハビリに従事し、義肢(義手・義足)を使う装具療法にも長年携わってきました。患者さんには、脳梗塞やパーキンソン病、頚椎の病気が起因で歩行困難な方、片麻痺の方、加齢に伴う筋力低下で歩きづらい方などが大勢いて、日々歩行訓練などに取り組みながら「こういった方々をもっとなんとかできないか」と考えていました。時には、大手企業が開発した歩行支援ロボットでの歩行体験なども行っていたのですが、ある日、ロボットを使っても歩くことができず、非常に落胆してしまった患者さんがいまして。あまりの様子に「なんとか歩かせてあげたい!」と手元にあったチューブやベルトで思うままに補助具を作ったのが始まりです。1週間ほど費やしましたが、それが「e-foot」の“一号器”ですね。

 

——トレーニング用のチューブでしょうか。それでその方は歩けた…と?

 

そうです。筋力トレーニングで使う細いチューブゴムです。で、歩けたんです。自分でも本当に驚きました。以降、さまざまな症状で歩行が困難な患者さん100人くらいに試してもらったら、みなさん歩けたんですね。中には走れる方もいて。症例は弊社のサイトにたくさん動画を載せていますのでご覧いただければと思いますが、この器具の原理や構造は他にないかもしれないと専門家に相談し、特許を申請。4年7カ月を経て昨年10月に無事特許が取れました。

 

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チューブゴムの伸縮性を筋肉に見立てて応用。開発当時は既存のベルトを用いた

 

——「e-foot」はどういう仕組み、原理で人の歩行をサポートしているのでしょうか。

 

筋肉が伸び縮みすることで関節が動き、我々は体を動かすことができています。ゴムも伸びると縮みます。原理は同じです。いわゆる人工筋肉のイメージ。それを外から脚に装着して、足りない筋力を一瞬で補うという技術です。

太ももの大腿四頭筋やすねの前頸骨筋など歩行に使う筋肉(筋繊維)の走行に合わせ、運動学や機能解剖学の視点で作っています。脚が軽く上がって歩きやすく、姿勢も良くなり、つま先も上がって転倒予防にもなる。歩幅が広がり筋力も付きますし、膝関節を支える設計になっているので膝のひねりを予防して歩行が安定、坂道や階段で効果を発揮します。

実際にこの器具がサポートするのは筋電図で測るとわずかなのですが、ほんの少し助けるだけでもともとの筋力が反応するんですね。「この筋肉を使うんだな」と神経レベルで自分の筋力を引き出してくれるので、想像以上に歩くことができるのです。

 

——装着がとても簡単とのことですが、ポイントを。

 

腰にベルトを巻いて腹圧を上げて安定させ、ゴムを脚に着けていきます。まずつま先を上げて装着して下ろし、次にかかとを上げて装着して下ろす。両脚に付けたら、膝のところで前と後のゴムを結合する。これだけです。身長や体型に合わせて長さの調整は必要ですが、40秒ほどで着けられます。85歳の私の母親も自分で着けて歩いていますよ。

 

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つま先が必ず上がるように設計。装着後は膝や股関節などが自動的に上がる感覚が得られる

ビジネスの基礎が学べ、行動範囲や人脈が広がった

——「Hamamatsu Incubator 2021」(Next Innovator育成事業)に応募されたきっかけや動機は。

 

「e-foot」が完成して接骨院やデイサービスに来られる方に使っていただき、いい評価や感想をもらっていたので、こういう器具があることを周知したくて応募しました。診察やリハビリ、新たな装具を考えることはできても、PRや販売のノウハウがありません。プログラムを紹介してもらい、「何かのきっかけになれば」と応募するに至りました。

 

——このプログラムでは実際にどういうことが行われたのでしょう。

 

起業家向けのサポートを受けました。メンタリングの勉強会や模擬ピッチなどを通して事業プランのアイデアを頂いたりブラッシュアップしてもらったり。私は、いわゆる「ビジネス」に関して素人でしたので、プレスリリースの作り方などもイチから教えてもらったほどです。いろんなコンクールやアワードイベントなどの発表の機会も紹介いただいて、どんどん行動範囲と人脈が広がっていきました。素晴らしい実績を持つメンターの方々からアドバイスをたくさん頂き、ビジネスの基礎の部分も支援してもらいました。本当に感謝しています。

 

——最終的にプログラムにおける優秀賞を受賞されました。大きな変化はありましたか。

 

受賞してすぐに浜松医科大学さんが来てくださいました。即日に買って使ってくださって、「歩けるね」と。そこからデータ収集や治験の協力を頂けるということで契約し、今に至っています。他にも大手企業からたくさん問い合わせや提携のお話を頂きました。厚生労働省の「障害者歩行サポート」というのに選ばれたりして、受賞するってすごく大きな実績になるんだと実感しましたね。自分だけじゃ今まで関わることのできなかった自治体や企業とつながることができています。

 

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製造は浜松市内の企業に委託。職人の手で一つ一つ作られている。屋外でも使えるように改良を重ねた

歩ける喜びをみなさんに届けて、健康寿命を伸ばしたい

——本プログラムをはじめ、浜松市の支援・施策に対しての感想や意見をお聞かせください。

 

何かを新しく始めるために頑張っている人を支援する取り組み、素晴らしいですよね。人や社会に役立つものを地道に作っている方も、こういうインキュベーターのような施策を利用すればビジネスを広げるチャンスになりますし、認知を上げるためのツールになるんじゃないかと思います。何より勉強になり、成長させてもらったことが大きいです。

 

——現在の課題や目標があればお聞かせください。

 

長年抱いてきた「歩けない方を再び歩けるようにする」という思いを基にこの「e-foot」を開発しましたが、私の根本には「健康長寿」があります。自分の脚で歩き、買い物に行ったり旅に出たり。自分でトイレに行ったり、身の回りのことをしたり。これってとても大きなことで大切なことなんですね。とくに、今フレイルやサルコペニア(*)の状態にあって体力が落ち、外出が億劫になっているような方に「e-foot」を着けてあげて介護状態になることを止めたい。

SDGsのNo.3に「すべての人に健康と福祉を」という目標がありますが、それを目指しています。「歩ける喜び」をみなさんに届けて、生活の質を高めて健康寿命を伸ばしたい。これは国の医療費や介護費の削減にもつながりますから。この製品をもっと知っていただけるよう販促活動に努め、歩行研究所の充実を図りたいと思います。

 

(*)フレイル=加齢とともに筋力や心身の活力が衰え、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと。健康な状態と要介護状態の中間に位置。

(*)サルコペニア=加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態のこと。

 

 

  • 本記事のインタビューは2023年1月に実施されたもので、記事中の内容・人物の肩書等は全てインタビュー時点のものです。

 

 

 

 

 

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