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更新日:2024年7月17日
天竜トライアルオフィスの運営を受託している「山ノ舎(やまのいえ)」代表の中谷明史氏。浜松市天竜区二俣町出身。地元活性化のために東京からUターンし、カフェ「山ノ舎」や駅舎ホテル「INN MY LIFE」をオープン
天竜トライアルオフィス
浜松市の中山間地域と市街地のつなぎ目となる「山と街の交流地点」。木のぬくもりあふれる空間で、リモートワークや打ち合わせに利用できるほか、イベントや交流会も開催されており、地域と事業者をつなぐサポートにも力を入れている
――Uターンした理由や浜松市との関わりを聞かせてください。
以前は「東京R不動産」というところに勤めていました。ちょっと変わった不動産のセレクトショップみたいなところで、一般の方は見向きもしない、使い方がハードすぎるような物件などを紹介する不動産屋です。エリアリノベーションなども得意としていました。その前はバーテンダーをしていて、お酒がある場、コミュニケーションの場を作りたいという思いがあって、それが今にも通じているのかなと。
まだ東京にいた頃、浜松市のリノベーションまちづくりという取り組みがあり、その第1回に参加しました。市街地の空き店舗に対して何人かでグループを組んで事業計画を立てて、オーナーさんに提案するという事業です。それをきっかけに「山ノ舎」がスタートし、浜松市とも関係ができました。
天竜二俣地区は今でこそ少しずつお店ができてきていますが、当時はシャッター街で、地元に帰ってきた時、子どもの頃にあったお店がなくなっているのを見てこれは何とかしなければいけないと思いました。まだまだ東京にいたかったんですけど、寂れた状況を見て今変えないと間に合わないぞというところで、まずは飲食店からスタートさせました。あとは、場づくりや町づくりに興味を持っていたこともあり、そこにもチャレンジしてみたいという気持ちがありました。
その後、浜松市が天竜地域に新ビジネスを次々と生み出すようなトライアルオフィスを設置することになり、その考えに共感し、その運営の募集があった際に自分も手を挙げさせていただきました。
――天竜ならではの特徴や魅力を教えてください。
自然豊かな天竜エリアで事業所をつくりたいと思ったときに、一番最初に困るのが物件情報なんです。空き家が多い、空き地が多いとは言われているんですけど、実際に不動産屋さんにその情報が入ってくるかというとそんなことはない。基本的には信頼ベースで、あの人にだったら貸してもいいよという感じなので、そういった物件情報をわれわれのほうで収集して、それを事業者さんに対して提供する。
あとは、田舎特有のルールみたいなものもあったりするので、そういったところを事前にご案内して、違和感なく地域に溶け込んでいけるようお手伝いします。実証実験をやってみたいという事業者さんに対して、地域の課題として困ってはいるけれど、知らない人が入ってきて何か始めようとすると、やっぱり反発が来るっていうのがあって。そこがスムーズにいくようにアドバイスなどをしています。
そういう地味な活動が多いのですが、それがけっこう実を結んで、このエリア(クローバー通り商店街)に関しては数年間で、パン屋さん、自転車屋さん、餃子屋さん、アイスクリーム屋さん、はちみつ屋さんなど新しいお店ができていて、出店準備中のところもたくさんあります。昔は商店街には地元のおじいちゃんおばあちゃんしかい
なかったけれど、今は週末になるとたくさんの若い方たちが行き来するという状況も生まれています。
外から大きな企業さんを誘致したいというときに、ただの田舎では、やはり皆さんいらっしゃらない。何かしら新しいことや、気配や勢い、魅力を感じてというところなので、まずは泥臭く、地道な関係づくりからという思いでやっています。
天竜トライアルオフィス。木のぬくもりが心地よい
――ここでの交流なども生まれていますか?
ここでは、都市部の事業者さんが中山間地域の事業者さんとミーティングしたり、在宅勤務の方がコワーキングスペースとして利用されたりしています。他にも、異業種交流会を定期的に開いたり、市外の事業者さんと地元をつないで事業がスタートしたり。地域の方と外の方がつながることが重要だと考えています。
いろいろなビジネスアイデアが集まる空間として、たとえば、愛媛県今治市の老舗企業に雇われて社長になって立て直しをした方が天竜に縁があり、いま話が動き始めています。また、さまざまな企業が集まっており、「熊」という地域でNPOさん等とWeb3.0関係の事業について話し合いをすることもあります。この場所がなければこういった話は出てこなかったと思うので、そういう意味では新しい風が吹いているのかなと。
熊は私の移住先でもありまして、そこに「くんま水車の里」という道の駅があります。ここができたのは90年代で、当時はまだまだ田舎の男社会という感じだったんですけど、地元のおかあさんたちが立ち上がって施設を作ったんです。若い人たちや企業の新しいチャレンジを受け入れる土壌がここにはあります。
おもしろいことが起こるエリアというのは、外から人を呼ぶ、接続する人がいることが大事で、最近も熊に地域の核となるようなNPOが作られました。そこで、かつて幼稚園だった場所にカフェと保育環境を整備しようと話しているうちに、いろいろなアイデアが生まれて。このNPOの活動がうまくいけば、他の中山間地域にも広げていけるだろうと思っています。
――天竜といえば林業はどうですか?
天竜はほとんどが山で林業が盛んな地域ですが、なかなか今は手が入らないような状況で、それが原因で災害や獣害などの課題も発生しています。課題というのは正面から捉えると大きな壁に感じるんですけど、そこはビジネスチャンスでもあります。
天竜の山は日本三大美林とも言われていて、木を切ったら確かに売れるんですけど、山主さんが分からない土地があったり、急傾斜地の問題があったりもします。昔から続いてきた林業という観点だけでなく、他の山とは違った価値を感じられるような事業を考えていく必要があると思っています。
国ではカーボンオフセット制度が設けてありますが、自分たちでも民間のそういう制度を作ってしまおうということで、そういうところがこれからの時代のチャンスになるのかなと思います。ただ、「林業のまち」という一つの筋だけではなくて、他産業も活性化したほうが良いかなと、個人的には思っています。
天竜トライアルオフィスのコワーキングスペース
――スタートアップという観点でいえば、天竜は本田宗一郎が生まれた町ですよね。
私が卒業した中学校の校訓も、本田宗一郎の金言がもとになった「試す人であれ」でした。そういう土壌みたいなものがある町ですよね。
私の好きなエピソードがありまして、本田宗一郎のお母さんが買い物で山を下っていく大変そうな姿を見て、あの自転車にエンジンがついていたらどんなに楽だろうと思って、ポンポンを開発するきっかけの一つになったそうです。そういう「誰かのために」というのがビジネスの原点かなと思います。そういう意味では、この中山間地域というのはいろんな困りごとが眠っているので、それを探しに来てほしいなと思っています。
人がいなくなってきているということはフロンティアになってきているという部分もあると思うので、何かを試すという点ではすごく良いエリアです。困りごとがたくさんあるということは、新しい事業の種もたくさんあるということです。
また、若い人たちにとっては本当にチャレンジしやすい町だと思います。事業をやろうと思ってもかなり少ないコストで始められますし、仮に失敗したとしてもまたやり直せる。人が少ない分、注目されやすいので、メディアに取り上げられることも多く、浜松から出世じゃないですけど、そうやって一気に広がっていくことも可能かなと思います。
天竜は開拓する余地がたくさんあります。まっさらな海が、まさに天竜美林のように広がっている。それを支えるための準備はこちらで整えますので、ぜひチャレンジの第一歩を踏み出してみてください。
天竜トライアルオフィスのある建物の1階にはカフェ「Kissa&Dining山ノ舎」がある
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