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更新日:2024年1月1日

株式会社Magic Shields

バイクの衝撃吸収性能を床材に応用
転んだ時だけ柔らかい画期的製品で骨折をゼロに

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「ころやわ」の床に座る取締役の杉浦太紀氏。理学療法士として病院で患者と向き合った経験や思いを製品開発に生かしている

 

株式会社Magic Shields(マジックシールズ)

代表取締役の下村明司氏、取締役の杉浦太紀氏、宝田優子氏がグロービス経営大学院名古屋校で出会い、「ころやわ」を企画・開発。2019年11月に浜松で起業し販売をスタート。「転倒にまつわる課題を独創的な技術と革新的な仕組みで解決する」を理念に、真の健康寿命を実現する製品の開発・製造・販売を展開

人々を病気やケガから守る「魔法の盾」のような製品を

——「ころやわ」の開発のきっかけはグロービス経営大学院在学中にあるそうですね。

 

当時(2018年)、私は愛知県の病院で理学療法士として働きながらグロービスに通っていたのですが、MBAプログラムの中で、チームを組んで半年がかりで行う新規事業立ち上げ計画の課題がありまして。代表の下村やもう一人の取締役の宝田ともそこで出会い、下村がリーダーとなって他3名ほどとチームを組みました。

事業内容を考える上で、最初は漠然と、高齢者の寝たきり問題を解消したり健康寿命を伸ばすことにつながる製品やサービスを作ったりできないかという感じでした。そんな中、私は理学療法士という背景があり、下村は当時ヤマハ発動機でバイクの衝撃吸収技術の開発に携わっていたので、それらの経験を絡めて何か生まれないかと具体的に考えていったのがきっかけです。

 

——製品化に手応えを得て、起業されたということでしょうか。

 

高齢者が寝たきりや介護状態になる原因に、転倒による骨折があります。実際に高齢者の転倒骨折は国内で年間100万件も発生しているんです。これは、寝たきりになった本人だけでなく家族や社会にとっても大きな負担となるので、とにかくそれを防ごうとアイデアを出し合いました。そこで得た着想が「歩く時は硬く安定していて、転んだ時は柔らかく衝撃を吸収する床材」の開発です。何度も試作品を作り、事業計画を練り、ビジネスコンテストに出たりする中で「これなら事業として成立しそうだ。さらに法人を設立してやる価値がある」と全員が実感し起業を決めました。

 

——製品の詳細はのちほど詳しく伺いますが、社名に込められた思いをお聞かせください。

 

Magic Shields(マジックシールズ)、直訳すると「魔法の盾」です。世界中の人々を病気やケガから守る魔法の盾のような製品を世の中に送り出し続けたいというのが社名の由来ですね。シールドに”s”が付いて複数形のシールズになっているのがこだわりです。まず第一弾がこの「ころやわ」で、これからどんどん新しい製品を生み出すつもりです。

 

——浜松市に事業の拠点を置かれた理由は。

 

決め手はいくつかあります。まず代表の下村がこの遠州・浜松市に隣接する磐田市在住であること。そして、浜松市がスタートアップ支援に手厚いという情報を知っていたことです。さらにグロービスの名古屋校に通っていた先輩方に浜松在住の起業家の方が多くいらっしゃったということが大きいですね。あと、やはりものづくりの街なので人材採用や実際の製造となった時に有利な点が多い。交通の便もいいし、東京に比べて賃料も安いし、いろんな面でものづくりスタートアップとして始動しやすい環境でした。

「普段は硬く、転倒すると柔らかい」の両立をとことん目指す

——では、製品について。御社のWEBサイトで拝見しましたが、「通常は硬く安定し、転んだ時だけ柔らかい」という利点の両立はとても難しいと感じました。重要視した点は。

 

まずは、ちゃんとケガを防げるだけの性能があるかどうかです。ただ、ケガを防ぐだけとなると既存の柔らかいスポンジマットで事足りるでしょう。けれど、それだと柔らか過ぎるので、その上を歩いたり車椅子を使ったりできないんです。その不便さを私自身も病院の現場で経験していたので、そこの両立を目指しました。「普段は歩きやすい硬さで、いざ転倒すると衝撃をしっかり吸収して骨折を防いでくれる」床が必要だった。この「ころやわ」のアイデアが生まれてから実際に現場に納品するまで1年半ぐらいかかりました。

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「ころやわ」内部の可変剛性構造体(メカニカル・メタマテリアル)が変形し衝撃を吸収する

 

——「衝撃の吸収」がキーワードかと思います。その構造の仕組み、イメージを教えてください。

 

下村がヤマハ発動機で研究開発していた、車体の衝撃吸収性能を応用しています。例えば紙コップを真上から軽くトントンと叩いてもつぶれませんが、勢いよくガンッて叩けばグシャッてつぶれますよね。原理としては、物理学で「座屈(ざくつ)」と呼ばれるこの現象で、ブロックが変形することで衝撃を吸収しています。ブロック一つ一つの中は空洞です。意外と硬いでしょう?材料自体は別に特殊なものではなく、形状がカギでした。ブロックの形をどう設計するかが研究開発の肝でしたね。これらが平面に並び、歩いても車椅子でも杖をついても凹まない。人が転ぶくらいの荷重がかかることで初めてつぶれるんです。

 

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「歩行安定性」と「衝撃吸収性」の2つの性質を見事に両立

 

——現時点で2種類の製品ラインナップがあるそうですね。

 

持ち運びができる3分割マットタイプの「おくだけ ころやわ」と、30cm四方に成形したブロックを希望の面積に敷き詰める「どこでも ころやわ」です。前者は組み立て不要で、名前のとおり置くだけですぐに使えます。後者は、簡易リフォームのように既存の床の上にまずブロックを敷き、その上に長尺シートを全面に被せて施工するタイプです。どちらもブロックの厚み2.2cm分の段差が出るのですが、これはバリアフリーの基準とされる12対1の勾配の緩やかなスロープを付けることで解消しています。また、塩ビの長尺シートは病院などでも床材として使われているもの。アルコールや次亜塩素酸ナトリウムでの消毒の耐性もあり、衛生面でも優れています。

 

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「どこでも ころやわ」は居室や施設の床全面など広範囲に設置ができる

 

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病院で「おくだけ ころやわ」が使用されている様子

 

——導入例や実証実験例をお聞かせください。

 

北海道から沖縄まで、病院や介護施設など400以上の施設で使っていただいています。東京から大阪間にかけての導入が多く、浜松市周辺が一番多いですね。また、広島県の病院に実証実験を協力いただき、「ころやわ」以外の場所での転倒、「ころやわ」の上での転倒のデータをすべて提供してもらいました。前者では2400件ほどの転倒が起き、骨折が60件超発生。「ころやわ」の上では約190件の転倒が起きましたが、可変剛性構造体(メカニカルブロック)上での骨折はゼロ(*)。利用者さんの「転んだけどケガしなかったよ」という喜びの声が本当にうれしいですね。

(*)2022年12月時点

資金面だけでなくアフターフォローの要素もとても手厚い

——浜松市のファンドサポート事業に対し、どのような感想をお持ちでしょうか。

 

「ころやわ」の事業は、ものづくりのスタートアップ、いわゆる製造業のスタートアップなので、開発費はもちろん、材料費に加えて製造費も、在庫のための倉庫費もかかります。あらかじめ多くの資金が必要なので、私たちの事業とスタートアップのスタイルとはあまり相性がよくないのかもしれません。ですが、ファンドサポート事業の交付金を材料費に充てられたので非常に助かりました。

また、定期的に事業状況を報告する必要があり、それがいいチェックポイントになっているんです。自分たちの事業計画に対して進捗を振り返る機会にもなるし、ファンドサポート事業の事務局を受託しているデロイトトーマツさんから意見やアドバイスをもらえて成長にもつながっています。株主とはまた違う視点でフィードバックをもらえるので、資金面だけでなく、サポート面、アフターフォロー的な要素もとても手厚いと感じています。さすが、ものづくりの街。材料メーカーや試作品メーカーとの協業がしやすい上、工学的な試験をする施設もあって、行政の支援が整っていると思います。

 

  • 本記事のインタビューは2023年3月に実施されたもので、記事中の内容・人物の肩書等は全てインタビュー時点のものです。

 

 

 

 

 

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