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更新日:2024年1月1日

リンクウィズ株式会社

高い志のもと、最先端のロボティクスで
働き方の革新を目指す浜松スタートアップの雄

 

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代表取締役の吹野豪氏。大学で情報通信工学を学び、卒業後、浜松の電子応用機器・装置メーカーで3Dスキャナ事業開発を担当。産業分野における3Dカメラの大きな可能性を感じ、2015年、リンクウィズ株式会社を設立。浜松を代表するスタートアップの社長として、多くの後進の起業家から慕われ相談相手になっている

 

リンクウィズ株式会社

3D形状処理エンジンを活用した産業用ロボットの自律化を展開するスタートアップ。「人の業を受け継ぐロボティクスで働き方を革新する」というコーポレートミッションのもと、ソフトウェアによって「ロボット自体が考え、動きを補正する」という新しい価値を産業界に提供している

3次元計測に対する思いを結実させるために起業を決意

――まずは起業の経緯と目的をお聞かせください。

 

大学の情報通信学部を卒業後、浜松の電子応用機器・装置メーカーに入社し、3次元測定という新設の部署に配属されました。そこで、3次元スキャナ事業を担当したことが、その後、当社の中核技術である3次元形状処理技術につながることになります。

3次元スキャナは、普段私たちが使っている、2次元情報を取得するカメラと違って、撮影した時に立体の奥行きだとか形が認識でき、データを取れるというそれまでにない機能を持っていたのですが、当時はまだ開発や販売も含め試行錯誤状態でした。しかし、3次元データの処理技術は今後産業の中ですごく重要な技術になるという確信めいたものを感じていました。

当時この非接触で立体を撮る3次元スキャナは、国内でもISOでも規格がなく、各国の各メーカーが任意で実験をやっている段階で、取得した3次元データをどう活用するかもわかっていない状況でした。そこで大手自動車メーカーが中心になってコンソーシアムを組んで、ものづくりにおける立体測定に関する規格を作ることになったんです。そういうのを見ていった時に、「新しいビジネスってこうしてできていくんだなあ」という感慨と、「3次元計測という技術が存在しない時代とそれが確立した時代とでは、ものづくりの在り方自体が変わっていくんだろうなあ」という予測とともに、時代の目撃者的な感覚を覚えて、そこから3次元計測に関する仕事に使命感を抱くようになりました。

 

――その後移籍したソフトウェア会社はどういう事業をしている会社なのですか。

 

3D-CADの設計ソフトを作る会社です。設計ソフトというのはパソコン内で、1000分の1ナノみたいなすごい小さな単位のデータで構成されていることで精緻な設計ができるのですが、一旦それが製造現場に落ちていくと、職人さんが手で金型を削っていたりとか、ミリ単位の修正がアナログ的に行われていたりするんです。ここにすごく格差があって、それをつなぎ格差を埋める何かが製造業には絶対必要だろうという思いが芽生え始めました。

実はそれ以前に、私たちが現在行っている事業の前身とも言える事業が存在しました。浜松市内の企業がジョイントベンチャーを組む形でロボットとデジタルデータの融合を図るプロジェクトを実施しており、そこに私はエンジニアとして関わっていたんです。その事業は失敗してしまいましたが、その後、日本の産業界で人手不足が問題になり、ロボットに対するニーズが高まったことで、ロボティクスを事業とするなら今なんじゃないかっていう強い思いが私の中で生まれてきました。その思いを結実させる形で起業を決心したのが2015年だったのです。

シリコンバレーでスタートアップの本質を知る

――起業した2015年に経産省主催の「始動 Next Innovator」シリコンバレー派遣メンバーに選ばれていますね。スタートアップの視察が目的ですか。

 

それが視察というより、私たちがスタートアップしてやっていくためにはどういうメンタルセットが必要なのかとか、投資家に向けてはどういう話をしないと資金調達に結びつかないのかとか、市場向けにはどういう話をしないとビジネスが広がらないのかなど、視察というより結構実務的でシビアな研修の意味合いが強いものでした。

 

――投資を受けるにはどうしたらいいかとか、どういう企画書を提出したほうがいいよとか具体的なことを習ってきたわけですね。

 

理想はそうだったんですけど、実際のところレベルが全然違うんです。私を含めいっしょに研修を受けた3人は元々エンジニアなので、プレゼンといえば全てが製品のスペックの紹介だったんです。で、現地の投資家の方に反応を伺ったところ、「お前たちが何を言っているのか全然わからない。自分の言いたいこと喋る時間じゃないんだよ。世の中にはどういう課題があって、当社の技術を使うとどの部分が解決されて、何人がこれをハッピーだと思うから、世の中が変わるんだという説明がされていない。3時間やるから書き直せ。すぐにその場を出ていけ」と言うんです。だからもうカフェで3時間必死に書き直して・・・みたいなことが2週間ずっと続くといった、そんな研修だったんです。この経験で私はスタートアップに対する考え方ががらりと変わりました。それまでは、お客さんが言ってくれるものをただその通りに一所懸命に作っていただけの会社でしたから。

 

――スタートアップは志が重要だってことですね。

 

その通りです。いま目の前にいるお客さんというのは、世界の困りごとの一部であって、それをもうちょっと大きな視野で見ることができなければスタートアップとして会社をアピールすることはできないし、誰かから共感を得て資本を提供していただくこともできない、ということですね。つまり、スタートアップの本質を突き付けられたわけです。

シリコンバレーに行って私は確実に変化したと思います。目が覚めたと言ってもいいでしょう。ですから、日本に帰ってきてすぐに創業メンバーの2人に、「うちもやっぱり出資してもらってアクセルを踏みたいんだけど、どう思う?」って聞いたんです。すると2人とも、「それも面白いね、1回きりの人生なんだからやってみようぜ」ってことになったんです。その時初めて当社が真のスタートアップになったような気がしました。

 

――シリコンバレーの件で、世の中にある課題を技術で解決し世界を変えるという話がありました。御社の製品は、世の中のどういう課題を、どういう技術で解決するのでしょうか。

 

はい、例えば浜松に数多くある輸送機器関連の工場では、高齢化による熟練工の減少や、やり直しが利かない溶接の工程で多くの不良品が発生する問題など、さまざまな課題を抱えています。

そこで、こうした課題の解決のために開発したパッケージ製品が「L-ROBOT」と「L-QUALIFY」です。「点群データの高速処理」と呼ばれる当社のコア技術を活用したこの製品は、立体の形状を「見る」3Dスキャナと、形状を「認識・解析」するソフトウェアを組み合わせることでロボットに目と脳を与え、あたかも熟練工のように「正確に認識して動く」という能力をロボットに付加するものです。

これにより、熟練工の減少や不良品の発生といった課題をロボットでカバーできますし、単純作業をロボットに置き換えることで、人はよりクリエイティブな仕事をするチャンスが得られるわけです。

 

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カタチに合わせたロボットの自動コントロールを実現する「L-ROBOT」

 

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スキャンして生成されたデジタルデータをもとに、座標を自動生成し、ロボットへ送信する

起業家に必要な資質は、困りごとを見つける能力

――御社は2015年に浜松で創業し、2019年度に市のファンドサポート事業に採択されていますが、起業の地としての浜松ならびにファンドサポート事業に対する評価や成果についてお聞かせください。

 

浜松での起業に関しては、有利な面もあれば、そうでない面もあります。有利だと思えるのは浜松の方は非常に優しいので、企業経営や事業運営に関する知識や経験に乏しいスタートアップにとっては、いろいろな話を聞いたり相談を持ち掛けたりする際にストレスがないんですよ。みなさんとても親切に教えてくれたり、アドバイスしてくれたりしますね。また、生活のコストも安いですし、インフラもそこそこ整っている。新幹線に1時間半乗れば東京に行け、30分乗るだけで名古屋にも行けるという交通アクセスの良さも魅力的です。総じてスタートアップにとってはいい場所だと思います。逆に不利だと思うのは、人材を集めなければいけない時に、基本的に外から雇用しなければいけなくて、転出転居を伴う採用が多いことですね。

ファンドサポート事業に関して言えば、交付金の額が大きいことと、使い道の自由度が高い点は大いに評価できますね。私たちの場合は、ソフトウェアの開発会社なので、いただいた交付金はほぼ全額人件費に使いました。

 

――最後にスタートアップを考えている方へのメッセージをお願いします。

 

僕はスタートアップを誰にでもお勧めできるかっていうと、そうではありません。なぜかと言うと、スタートアップで成功する確率は非常に低いんですよ。100社あれば98社ぐらいが潰れていく。また、事業が上手くいっている時にさえも実はリスクあって、いい時って、投資家からお金が入ってリッチになっているけど、そのお金の使い道がわからない人が多い。使う能力って大変なんですよ。無駄なことに使えば一瞬で代表でさえも解雇されてしまう契約になっていますから。適正に使い続けなければならないというプレッシャーに耐えられない人が多いのは事実。ですから誰にでもスタートアップを勧めるわけにはいきません。やっぱりそういうさまざまなリスクも含めた上で、本当にやりたいと思えるものを見つけることができるかどうかがすごく重要なんです。

そのやりたいことを見つける能力は、困りごとを探す能力と同じで、子どもの方が優れていると思います。大人になるにつれ、資本主義の中に入っていくと、誰かが困っているから自分が動かなきゃいけないっていう感覚が薄れていっちゃうんですよ。給料をもらえる仕事を優先しちゃうんですよ。ですから大人になっても、困っている人のために損得勘定抜きで自分が動かなければならないって思い続けることができる人であれば、起業すべきだと思います。つまり起業家には世の中をもっと良くしたいという深いところでの使命感が必要だと思うのです。

 

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LINKWIZ社屋内の中央階段両サイドはオフィススペース。開放感あふれる空間が風通しの良いコミュニケーションを実現している

 

 

  • 本記事のインタビューは2023年1月に実施されたもので、記事中の内容・人物の肩書等は全てインタビュー時点のものです。

 

 

 

 

 

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