閉じる

ここから本文です。

更新日:2024年1月1日

株式会社Happy Quality

「農業の新しいグローバルスタンダードを創る」
壮大なビジョンのもと、「農業×AI」で農業の生産性向上を図る

happy1

CEO/代表取締役の宮地誠氏。浜松中央卸売市場で競り人として21年間勤務するも、農業就業人口の減少にともなう生産基盤の弱体化と市場の売上縮小に危機を感じ、「生産から流通の構築」を目指して起業。「高い付加価値を持つ農産物」を誰でも「熟練者レベル」で生産し販売できるシステムを創り出し、国内外から注目されている

 

株式会社Happy Quality

2015年設立の農業スタートアップ。「農業の新しいグローバルスタンダードを創る」というビジョンのもと、生鮮食品では日本初の機能性表示食品である独自ブランド「Hapitoma(ハピトマ)」が主力商品。農家の減少や高齢化により匠の農業技術が失われるといった“農業における社会課題”をテクノロジーで解決するため、データドリブン農業の実践および研究開発を行っている

日本の農業の衰退を食い止めたい。この一心で起業を決意

――まずは起業の経緯と目的をお聞かせください。

 

私は浜松中央卸売市場で競り人として21年間働いていました。そこで見えてきたのは、日本の農業が衰退していく姿でした。農業の現場では価格や生産の不安定さが所得の不安定さを招き、農業就業人口は減少の一途を辿っています。また後継者不足から匠の技術が失われ、若年農家は技術の未熟さから、高品質な農産物の生産に苦戦を強いられる負のスパイラルが起こっています。

農業の衰退は食料自給率が低い日本にとっては、食料安全保障に関わる大変深刻な問題です。「何としても農業の衰退を食い止め、未来へつなげていかなければならない」。この思いは日を追って強くなりました。そして考えに考えた結果、農業人口の減少といった個々の課題だけではなく、生産の現場から流通・消費する所までの全てのサービスを変革しないとこの問題は解決できないという思いに至り、起業を決意しました。

具体的には、生産から流通までのサプライチェーンを構築することで農業の新しいスタンダードを作る、というものです。これを具現化するために、2015年、独自の「マーケットイン農業モデル」の提供を目的とした株式会社Happy Qualityを設立しました。

 

――独自の「マーケットイン農業モデル」というのはどういうものですか。

 

一般的なマーケットインは、消費者のニーズを把握したうえで、自社のプロダクトに落とし込み、販売することを指しますが、私は、消費者のニーズを反映したプロダクトを作るだけでは不十分だと考えました。なぜなら、プロダクトが確実に売れるという確証が、どこにもないからです。売れるプロダクトを作ることと、確実に買ってもらえるプロダクトを作ることは大きな違いがあり、作り手側に全く異なる結果をもたらします。私は、確実に買ってもらえるプロダクトを作ることこそ、マーケットインの真髄だと考えました。

こうした前提のもとに生まれたのが「Happy式マーケットイン農業モデル」です。その仕組みはシンプルで、Happy QualityのFC(フランチャイジー)農家が当社のマニュアル通りに作った作物を、すべて当社が規定の価格で買い取り、前もって契約していた小売店や飲食店に作物を転売するという一気通貫のサービスです。つまり、FC農家は作物の価格変動や在庫で悩まされることはありません。しかも、Happy Qualityが設定している買取価格は一般的な買取価格よりも高額なため、当社のパートナー農家になることで年収1千万プレーヤーになることも十分可能なんです。

 

happy2

「Happy式マーケットイン農業モデル」における一連の流れ

安定して儲かる農業を可能にする高糖度・高機能・高単価トマト「Hapitoma(ハピトマ)」

――なぜ一般的な価格より高く買い取ることができるのでしょう。

 

作物の高額買取を可能にするポイントの一つが、取り扱っている作物が高品質で、なおかつ市場で絶えず求められる商品であることです。当社がFC農家に栽培を依頼している作物は、「ハピトマ」という甘くてジューシー、なおかつ高機能なトマト。ストレス緩和効果のあるGABA、抗酸化作用のあるリコピンのダブル成分を特長とする、生鮮食品では日本初の機能性表示食品です。実際に、消費者から好まれるトマトを通年で扱える点にメリットを感じ、「ハピトマ」を求める小売店や飲食店が数多くあります。

この食味が抜群で、高機能な「ハピトマ」の安定的な生産を支えているのが、私たちが開発したマニュアルと技術です。当社は、データ・ドリブンにより高品質なトマトを作るための栽培技術をマニュアル化し、FC農家と共有しています。

 

happy3

「ハピトマ」は、平均糖度は8度以上(通常4~5度)、リコピン含有量は通常のトマトの2倍以上。年間2千トンの注文が舞い込んでいる

農業×AIで独自のスマート農業を実現

――高品質で高付加価値な農産物を誰でも簡単に生産できるとのことですが、どんな栽培技術を用いているのですか。

 

収量と品質の両立には、より再現性の高い栽培ノウハウが必要となります。当社が試行錯誤を経て辿り着いたのが、土壌の代わりに「ロックウール」を培地に用いる栽培方法です。ロックウールは建築物などの断熱材に使われる人工繊維ですが、これを6センチ角のキューブ状にして根を納めることで、水と栄養の吸収を集中させる仕組みです。土壌栽培と違って極めて少量の培地で栽培できる他、保水性や排水性に長け、病害リスクを回避しやすいなどのメリットがあります。

さらに、静岡大学や名古屋大学、産業技術総合研究所などと連携し、数々の独自技術を開発。それらのシナジー効果によって、誰にでも栽培できる仕組みを構築しました。その1つが、トマト栽培で最も難しい水やりを自動化した「AI自動灌水技術」です。一般的に、トマトは水やりを控えてストレスを与えるほど糖度が高まりますが、水量が少なすぎると枯れるため、その見極めは経験と勘が頼りとされていました。そこでまず、定点カメラで常時トマトを撮影し、葉のしおれ具合から水分量を感知します。センサーで温度や湿度、日照量などの環境データを取得し、トマトが水を必要とする条件をAIに学習させ、適切なタイミングで自動的に水やりを行う技術を開発しました。これにより、高糖度トマトの可販果率は75%から95%に向上しました。

 

happy4

AI技術を用いた灌水制御によって枯らすことなく適切な水ストレスを与えることができるAI自動灌水システム

 

 

さらに、生産者の努力の見える化と品質の担保を図るため、「近赤外線センサー選果機」を開発しました。従来の近赤外線センサーと異なり、糖度や大きさや形、傷の有無だけでなく、リコピンの含有成分まで全量計測できます。リコピン含有量を測定できる選果機は世界初で、得られたビッグデータは栽培にも活用できますし、糖度別に選別することで小売店ごとに変わるユーザーの好みに合わせて卸すことが可能となりました。

これらの研究開発はすべて、全世界的に「あったらいいね」ではなく、「無くてはならない」存在を目指すという、Happy Qualityのビジョンを実現するために行っています。

 

happy5

生産者の努力の見える化と品質の担保を図るため、「近赤外線センサー選果機」を開発

スタートアップ育成の地として浜松は非常に肥沃な土地

――起業の地としての浜松市の魅力ならびにファンドサポート事業についての評価をお聞かせください。

 

スタートアップを育てる土壌として、産学官金からの手厚い支援という意味では非常に肥沃な地域だと思います。そうした好条件を備えた環境であるにも関わらず、東京と比較すればまだまだ田舎なんです。しかしその分、雨後の筍のようにスタートアップが存在する東京に比べ、目立った成果を収めればすぐに知名度を上げることができるという戦略的なメリットもありますね。

また、スタートアップとして様々な苦労を重ね、シリコンバレーでスタートアップの本質を知り、その結果確かな成果を上げているLINKWIZの吹野さんがメンターとして存在しているという点も有利な環境だと感じます。

ファンドサポート事業に対する評価としては、交付金の額の大きさと、その使い道に関する自由度の高さを大いに評価します。当社の場合は、AI自動灌水システムの研究開発にほとんどを使わせてもらいました。

さらにお金だけではなく、行政の人がスタートアップ支援のために動いてくれたのはありがたかったですね。つまり、人も金も動く土壌が、ファンドサポート事業によって作られていると思います。

 

 

  • 本記事のインタビューは2023年1月に実施されたもので、記事中の内容・人物の肩書等は全てインタビュー時点のものです。

 

 

 

 

 

浜松市のベンチャー支援制度に関して、ご不明な点があればお気軽にお問い合わせください。

ご相談・お問い合わせ窓口はこちら

ページの先頭へ