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更新日:2024年7月17日
グローバル・ブレイン株式会社 Investment Group Partnerの石榑智晃氏。スタートアップへの投資、大企業とのオープンイノベーションの推進に力を注ぐ、最前線のキャピタリストとして活躍する
グローバル・ブレイン株式会社
運用資産総額2000億円超え、創業20年以上の実績を持つ国内大手の独立系ベンチャーキャピタル。徹底したハンズオン支援でスタートアップの成長にコミット。過去には、メルカリ、レアジョブ、ラクスルなどの著名スタートアップの上場を実現
――はじめに、御社の強みや特徴を教えてください。
スタートアップ業界の変遷を20年以上見てきた経験値、フルラインナップの産業への支援、アライアンスやM&Aの実績が示す大企業との連携支援、という3点から、幅広い連携を視野に入れた支援をできるのが弊社の特徴です。各業界のリーディングカンパニー12社とCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も運営しており、実際に大企業×スタートアップのオープンイノベーションから、スタートアップ×スタートアップのマッチングまで、多数のケースがあります。
また、“起業家ファースト”を掲げ、スタートアップの成長を専任で支援する「Value Up Team」の存在も我々の特徴です。知財や広報、採用など各分野の専門的な知識による、手厚いサポートにも力を入れています。
そして、社名にもある“グローバル”な視点。アメリカ、イギリス、ドイツ、中国、韓国、インド、シンガポール、インドネシアといった9カ国、10カ所に事業所を持っており、海外進出を視野に入れた支援も弊社の得意分野です。
――浜松市ファンドサポート事業の認定VCになった経緯を教えてください。
弊社の投資先で、浜松市に事業所を持つリンクウィズさんからの情報がきっかけです。
浜松市ファンドサポート事業は、まず支援金額が魅力的。当然ながら、資金を求めるスタートアップにとって、これほどまでに事業拡大の可能性をもたらしてくれる自治体のサポート体制は、僕の知る限りなかなかないと思います。
VCの立場からしても、ものづくり産業に長けた浜松市とのネットワークを深められることも魅力でした。
――今お話に挙がったリンクウィズについて、投資を決められた背景、支援する中で感じている将来性を教えてください。
ロボットシステムソフトウェア企業であるリンクウィズさんは、産業ロボットによる製造現場の人手不足の解消に大いに貢献できる事業として、興味深く感じました。日本の基幹産業の一つで現場での品質向上を目指す製造業のネックは、なんといっても人手不足です。ロボットをティーティングなしでスムーズに動かせる高い技術力は、製造業の大きなインパクトになる。そう感じ、投資を決めさせていただいた背景があります。
また代表の吹野豪さんの、グローバルな視点、大きなビジョンも魅力に感じました。東京でとある企業をご紹介するアポイントメントがあった際に、「商談などで東京に出てくるのが大変じゃないですか?」と聞いたときのこと。「浜松にいるのも、東京にいるのも、自分にとっては変わりません。アメリカへ行くこともありますし、日本のどこにいるかは関係ないと思っています」との返答が。この言葉に、日本国内のスケールで事業を行っているのではなく、世界進出を視野に入れた“日本代表”としての志の高さが表れていると感じました。自社だけでなく、日本全体を引っ張っていく、未来を変える大きな力となることでしょう。
――その後、御社の投資先であるPREVENTも浜松市ファンドサポート事業に参画されました。PREVENTの将来性、ファンドサポート事業によるメリットをお聞かせください。
PREVENTさんは、スマホアプリによる生活習慣病の重症化予防サービスを開発、運営するスタートアップですが、市場のトレンドの一歩先を追う視点の新しさに、既成概念を変革する可能性を感じました。
増え続ける日本の医療費、ひいては社会保障費の問題があります。PREVENTさんのアプローチは、これまでの生活習慣病予防=未病に対するものではなく、健康診断などで判明した生活習慣病の初期段階に対するものです。
人は未病の段階では実感がなく、危機感は薄いためなかなか行動変容できません。ですが生活習慣病の予兆が出て自分の健康リスクを実感するようになると、誰しも危機感は高まり、何か行動を起こすことへのモチベーションが高まります。
つまり、事前に阻止する水際対策より、危険ゾーンに入った初期段階の方が費用対効果が高い。生活習慣病患者を減らすには、これほど効果的なタイミングはありません。そのためヘルスケア産業の中でも最近は急速に「重症化予防」というキーワードが重要度を増しています。この重症化予防に以前から取り組み、アカデミックなエビデンスを持って事業に取り組んでいるところに変革の可能性を感じました。
PREVENTさんは浜松市ファンドサポート事業に参画することで、浜松市の協力を得て、地元大企業の健康保険組合との連携や、市内の国民健康保険者の生活習慣病重症化予防検証を行う運びとなりました。スタートアップの顧客獲得の架け橋を浜松市が担ってくれたわけです。
ここで注目すべき点が、国民健康保険の顧客獲得です。行政が運営する国民健康保険への営業は、スタートアップにとって高く厚い、いわゆる“行政の壁”があるのが現状です。ところが、浜松市の積極的なサポート体制が、その壁を越える大きな支えになりました。これは浜松市ファンドサポート事業がなければ成し得なかった大きな収穫です。
――2社の事例をお話いただきましたが、ずばり、浜松市ファンドサポート事業向きのスタートアップとは?
古くは、繊維、楽器、オートバイといった3大産業、近年は、光技術、電子技術関連の先端技術産業など、製造業に強いのが浜松市です。リンクウィズさんの例のように、製造業にとっては、関連大企業やスタートアップとの連携のチャンスを見つけやすいのは間違いないといえるでしょう。
そしてPREVENTさんの例のように、行政の取引先を創出したいスタートアップにとっても、スムーズに、積極的に、スピード感を持って関係性を築ける自治体として、浜松市の右に出る者はいないでしょうね。
――制度を利用する中で、感じられた魅力はどんなところでしょうか。
資金的なメリットはもちろんのこと、浜松市のいい意味での行政らしくない姿勢に尽きます。
私見として聞いていただければと思いますが、資本の原理で動いている投資ファンド業務に携わる私としては、行政に対しては明らかにビジネスとは違う原理で動いていると理解しております。また行政には予算確保や手続きに独特のプロセスやルールがあり、意思決定にも時間がかかるケースが多い印象があります。そのような行政のルールをあまり理解していなくて実績も乏しいスタートアップは行政から軽んじられがちです。
ところが、浜松市はそんな私のイメージをいい意味で裏切ってくれました。フットワークが軽く、自由度が高く、行政がガッツリ入ってスタートアップのために汗をかいて、共に事業の発展を目指してくれます。コミュニティ作りにも熱心で、このような自治体は他に例がなかなかありません。
――長きにわたりスタートアップ業界を見続けてきた御社から見て、これからのスタートアップの未来予想図は?
コロナ禍で変化した部分も大きく、東京に住む投資家との面談のために東京にオフィスを持つという発想は今は昔です。スタートアップだけでなく、パソナグループが淡路島にオフィスを移転するなど、東京一極集中に対する遠心力が一部では生まれているように感じます。家賃が安い、自社の産業に強い、といった理由で東京以外の事業所を選ぶということも今後増えてくるように感じています。
ところが、国の施策としてスタートアップが推進されてはいますが、まだまだ各地域のポテンシャルが生かせる体制はできていないように思います。もっと日本全体でスタートアップが挑戦できる環境を作っていかないと、グローバルに活躍できる企業が育っていかない。そんな危機感さえあります。だからこそ、浜松市のファンドサポート事業が日本の先行事例として、全国の刺激になっていくことを望んでいるのです。
――スタートアップが活躍し日本の経済や産業を支える時代を創り上げる上で大切なことはなんでしょうか。
スタートアップ支援政策を、10年、20年といった長期的なビジョンで続けることが大事なのではないでしょうか。スタートアップが軌道に乗るまでには、時間がかかることが大前提です。弊社が支援させていただいた今や著名となっているスタートアップでさえ、スタートアップドリーム実現の兆しが見えるまでには、創業から5〜6年かかった企業もあります。
長期にわたる支援があって初めて、本当の意味でのスタートアップエコシステムが構築できると考えています。
それから、スタートアップと事業会社のアライアンスの多様化も重要だと思っています。M&A、CVC、ビジネスマッチング……と、さまざまな事業連携のパターンがありますが、頭打ちになっている優良中小企業を起業家が買って立て直したり、後継者問題を抱える企業に対してスタートアップがオープンイノベーションを起こすというような取り組みもあってよいのではないでしょうか。
起業家の皆さんにお伝えしたいのですが、ゼロからの起業は確かに難しい。けれど、世の中に存在するさまざまなアセットを利活用するチャンスをうまく使えば成功に少しでも近づくことができます。汗をかいてスタートアップの成長を支援してくれる浜松で、共に新たな産業の変革を目指しましょう。
浜松市のベンチャー支援制度に関して、ご不明な点があればお気軽にお問い合わせください。