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更新日:2024年7月17日
代表取締役の小池昭史氏。静岡大学電子工学研究所において、次世代放射線イメージングの可能性に強い関心を持ち、研究開発にまい進。ANSeeN設立時に取締役として参加。2012年に代表
取締役就任
株式会社ANSeeN(アンシーン)
フォトンカウンティング放射線検出器技術により、次世代型X線イメージングデバイスであるCdTe(カドミウムテルライド)半導体放射線検出器の設計・開発・販売を行う静岡大学発スタートアップ。「見えない不安を見える安心に」をミッションとし、最先端のセンシング技術により、原子核の力から発現される放射線、ガンマ線、中性子線の可視化を実現し、不安を可視化することで世の中に安心を届けることを目指している
――まずは起業の経緯と目的をお聞かせください。
静岡大学情報学部4年次の研究室配属の際、高専出身ということもあり、もう少しものづくりに携わりたいとの思いから電子工学研究所を選択しました。そこで、CdTe半導体を用いた次世代放射線イメージングの可能性に強い関心を持ちました。また、研究を通じて医療の分野でX線に関する大きな技術革新がないことも知ったので、なんとか検査業界の課題を解決するような製品を世に送り出したいと思い、起業することにしました。
――具体的に医療の大きなニーズとは?
人間の体は気軽に開いて中を見ることができないので、いかに非破壊で正確に体の中を見ることができるかが重要なのですが、これまでは、本当に見たいものがはっきりと見えないという課題があったんです。例えば、レントゲン写真の読影は、医師個人の技量によるところが大きいという問題点があります。そこで、もっと簡単に、より鮮明な画像が写るX線カメラを開発したいと思いました。それが実現すれば、検査も楽になりますし、医師の技量に頼らずより正確な診断ができることで、頻繁に受診する必要もなくなりますから。
――2011年に設立し、その後、2020年11月に浜松市のファンドサポート事業に採択されていますが、それ以前にもAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業に採択されています。このあたりになると事業の中心は医工学の分野になっているんですね。
そうですね、その頃、国が医療費削減のために、医療と工学を融合し、先端技術を取り入れることで医療機器にイノベーションを起こすことを推進していました。そんな機運の中、装置メーカーから声を掛けていただいて、「私たちの技術が役に立つのであれば」という思いで、医工学に注力するようになりました。
――医工学の分野に進んで、事業の進展はありましたか。
起業して3、4年は放射線計測機器の販売を中心に受託関係を結んでもらいながら事業を回しつつ、元々目指していたイメージャー開発について、助成金を割り当てながら取り組みを進めました。そして2017年頃には人材とノウハウが集まり、あとは資金さえ確保できれば製品化できるという手ごたえを得られました。そこから本格的に資金調達を開始し、NEDOの助成事業を活用しながら、VCから資金調達を実施しました。現在、そのお金で設立時からの目標であるセンサーカメラを作るための製造技術開発および製品化をメインに事業活動を進めています。
「課題解決こそスタートアップの成長エンジン」と熱く語る小池氏
——浜松市のファンドサポート事業に採択されているスタートアップとして、同事業に対する評価と成果、さらに起業の地としての浜松の魅力をお聞かせください。
起業の地としての浜松の魅力はやはり、ものづくり産業集積地ということです。つまり、ニーズに近いという点ですね。それと輸送機器関係の会社が多く、国内でも大きな産業の中心のような所ですので、R&D的な意味で言うと先進的なものを取り入れてくれる会社が多いこともスタートアップにとっては魅力だと思います。大学にいると、大企業の意思決定権を持っている方に簡単にリーチすることができる土地ですし、R&Dの予算規模も市としてはかなり大きいですね。毎年R&D関係の助成事業が実施されており、大変助かります。金融機関の支援も手厚く、ものづくりを始めるならば、かなりいい地域だと思います。
――ファンドサポート事業で得た交付金は主に何に使いましたか。
当社の場合は、R&D用の医療用パネルの製作と、そのパネルと連動した医療計測機器の開発のためにお金を使わせていただきました。特に浜松市のファンドサポート事業は多岐にわたってお金を使えるような枠組みになっているので、特許の権利化にも使わせていただきました。
また医療機器を製造し市場出荷するには、医療機器製造販売業許可や製造業登録が必要となるので、それらに対応できるような体制構築をするための資金としても使わせてもらいました。そういったことに使うことができたのは他の支援事業とは大きな相違点ですね。
――つまり他の支援事業に比べお金の使い道に対する縛りが少ないということですか。
ここまで自由にお金を使える支援事業は他にないと思います。国の場合、基本的にR&Dにしか使えませんが、浜松の場合は特許の出願だけではなくて権利化の費用にも使えますし、バックオフィスに関する人材採用も予め計画されていればOKという枠組みなので、その辺は他の行政とはまったく違いますね。国や象徴の外郭団体の支援事業の場合は基本的には使い道がR&Dに限られます。
特許に関しては、例えばアメリカ、ヨーロッパ、中国の3地域で権利化まで行うと、1件の特許で1000万円くらい掛かってしまいますから。当社の場合、現在13件の特許を取得していますから、徹底してやれば3地域の権利化だけで1億数千万円掛かることになります。今回はその一部にもファンドサポート事業のお金を使わせてもらっています。
当社はこれまで様々な助成事業を利用してきましたが、直接特許の権利化まで使える事業はほとんどなく、特許をベースに事業展開しようとするスタートアップにとっては非常に悩ましい問題でした。当社も設立当初はお金がなくて、基本となる特許でも国内のみの権利化で、国際的には申請できていません。主要国、特に自分たちが製造・販売しようと考えている国に関しては権利化まで行っておいたほうがベターであることは自明の理。しかしスタートアップは起業当初の資金不足は当たり前です。その点では浜松市の場合、まるまる特許費用に使ってもOKなくらいですから、ありがたいですね。
――浜松はものづくりのまちと言われますが、ものづくり企業が成長していくためには、特許の権利化といったサポートも非常に大事なんですね。
そうですね。製造会社にとっては製造ノウハウがすごく大事なわけで、そのノウハウ自体の権利が他国でも保証されるかどうかは結構大きなポイントになります。そう思うと、そのノウハウを安全に行使するために特許は大きな武器になり得ます。スタートアップの場合、何かネタを持って海外進出することが多いと思うので、「きっちり権利化できています」と言いながらその国に入って行けるというのは大きな強みになると思います。
――起業に際して、創業の地として検討した他の自治体はありますか。
起業を計画している知り合いが東京にも地方にもいますが、そういう方々から見ても助成事業の規模としては浜松市、静岡県両方ともに非常に大きいという認識を持ってますね。東京でもスタートアップの助成金制度はありますが、競争率が高く、また個人的には金額レベルも浜松市の方が高いと思います。
また、ものづくりのスタートアップにとっては、助成金額の多さや使い道の幅広さだけではなく、例えば新たに装置の筐体が必要になった際、近場の板金屋さんに簡単な設計図を渡すだけで、望んだ通りのものを作ってくれる便利な地域であることも大きな魅力と言えるでしょう。
被写体の内部を鮮明に映し出す高精度のX線照射装置
X線照射装置によって映し出された電子基板の内部画像
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