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株式会社ORANGE kitchen

慢性腎臓病の重症化予防プログラムで、自治体の医療費適正化と本人のQOL向上を目指す

 

糖尿病や高血圧などを起因とした慢性腎臓病になる方が増えています。腎機能は一度失われると基本的には回復が難しく、腎機能を維持するためには、医療機関への通院および服薬と、適切な食事管理を含む生活習慣の改善が必要です。

慢性腎臓病が進行すると、体外で血液をろ過する医療行為「人工透析」を生涯受け続けなければいけません。人工透析患者はこの30年で4倍ほど増加しており(※)、患者1人あたり約500万円/年の医療費がかかります。日本全体では約2兆円/年の医療費が投じられ、国の医療費を押し上げる要因の一つです。

上記のような課題を解決するために、株式会社ORANGE kitchenは、2〜3カ月間のオンラインによる重症化予防プログラムを開発しました。同社代表取締役であり管理栄養士の若子みな美氏(以下、若子氏)にお話を聞きます。

透析患者数は34万7,671人にのぼる。日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2020年度)」より

専属の管理栄養士がオンラインで2〜3カ月間の食事改善を伴走

――貴社が慢性腎臓病の重症化予防プログラムの展開により、どのような社会課題の解決を目指しているか教えてください。

 

若子氏:日本の医療費適正化です。人工透析にかかる医療費は1人あたり約500万円/年と非常に高額です。しかも腎機能は一度失われると、回復することはほぼありません。結果、毎年約2兆円もの医療費が人工透析のみに拠出され続けています。

 

――慢性腎臓病の悪化を防ぐためには、どのような予防策が必要なのでしょうか。

 

若子氏:慢性腎臓病の進行をいかに抑えられるかが重要で、そのために大切なのが医療機関への通院および服薬治療だけでなく、塩分摂取量のコントロール等をはじめとする食事管理です。

出典:ORANGE kitchen

 

――治療の一環とはいえ、生活習慣の一部となっている食事を改善するのは難しいことですよね。

 

若子氏:隣のご家庭が普段どのようなものを召し上がっているのかわからないように、食事の内容は家庭ごとにさまざまです。画一的な指導では行動変容につながりにくいため、毎食ごと個別具体的な食事管理が必要になります。そこで、専属の管理栄養士がご本人に伴走し、生活習慣改善サポートを行うサービス「しおみる」を考えました。

 

浜松市実証実験サポート事業(以下、本事業)に採択いただいたのは、「しおみる」のビジネスモデルアイデアができて、実証を進めようとするタイミング。私たちにとって重要なステップとなりました。

浜松市で得られた失敗の経験をもとに事業を改善

――どのような内容で実証実験を進めたのでしょうか?

 

若子氏:2〜3カ月間にわたり慢性腎臓病の方の生活習慣改善サポートをオンラインで行うプログラムになります。参加者自らが伴走する相手の管理栄養士を選び、寄り添い型の食事改善指導を受けていただきます。

出典:ORANGE kitchen

 

日々の体重・血圧・食事の写真などのデータを送信いただき、管理栄養士が栄養価計算を含めた食事評価等を実施します。さらに細やかなフォローを行うため、お顔を見ながらカウンセリングを行うオンライン面談を週に1度、取り入れています。

自治体や健保組合を契約先とすることで、参加者本人は無料で参加できる。 出典:ORANGE kitchen

 

――プログラムはすべてオンラインで完結できるのですね。参加者はどのように募集したのでしょうか?

 

若子氏:今回は実証実験として行ったため、天竜区にある浜松市国民健康保険佐久間病院との連携により、腎機能の低下している患者さまへリーフレットを郵送いただきました。また、水窪協働センターの保健師もご協力くださり、該当者へ電話案内などをしていただきました。いずれも、浜松市の紹介によりご協力を得た形です。

 

中山間部エリアには人工透析を行える医療機関が少なく、いざ人工透析が必要となると、患者は遠方の医療機関に通わなければなりません。すると、医療費以外のコスト負担もほかの地域と比べて大きくなってしまいます。

 

そうした背景から中山間地域で実証実験を進める形になりましたが、実際にプログラムに参加いただいた方は0人という結果になりました。

 

――オンラインのやり取りは、ハードルが高かったのでしょうか。

 

若子氏:たしかにそのようなご意見もいただきましたが、原因は別のところにありました。参加者募集に用いたリーフレットです。

 

対象者から「郵送されてきたリーフレットを読んだが、何をしたらいいか分からず参加申し込みに至らなかった」とフィードバックをいただいたのです。今振り返ると、本事業で使用したリーフレットは、私たち目線でサービスの説明を記載しており、参加者目線で作成できていなかったと思います。

 

そこで、ナッジ理論や消費者行動論の知見を取り入れ、参加者目線でのリーフレットに改良しました。具体的には、表紙にご本人の名前を記載して読んでいただくきっかけを作ったり、腎機能の状態をグラデーションで図示したりしました。また、リーフレットを見てそのまますぐに申し込めるようにUXも整えました。

 

本事業を経て、他自治体におけるモデル事業に採択いただき、令和3年度には「しおみる」を事業組成できました。プログラム内容は本事業とほとんど変えていませんが、改良したリーフレットを用いるようにしただけで、多数のお申込みやお問い合わせをいただいたのです。

 

――ひと目で何の案内なのか伝わることと、受け取ったご本人が自分事として捉えてもらうことが重要だったのですね。

 

若子氏:本事業で得られた大きな知見です。リーフレットの伝え方・デザインに改善が必要だとわかり、他の自治体で実施する前にリーフレットの改善に取り組むことができました。

実証実験からサービスローンチへ、導入実績の壁を超える

――本事業における重症化予防プログラムの実証結果は、その後貴社のサービス展開にどのような影響を与えましたか?

 

若子氏:自治体向けサービスを立ち上げる場合、実績のない状態から実績を作っていくフェーズに移るまでに大きな壁があります。「しおみる」の内容が患者の行動変容につながるかは、本事業に参加させていただく前に仮説検証を済ませていました。

 

しかし、ビジネスモデルとして市場にフィットするかを確認するためには、実際のフィールドでサービスを実証できる場が必要でした。

出典:ORANGE kitchen

 

事業は仮説検証の繰り返しです。事業成長の大きな壁となる実績づくりをご支援いただけるのが浜松市の実証実験サポート事業の大きな価値であり、それにともなう手厚いサポートを得られるのが利点だと思っています。浜松市民のみなさまにとても感謝しています。

 

――ありがとうございます。最後に、今後の展望について教えてください。

 

若子氏:本事業を通してサービスを磨いたことで、ほかの自治体さまでの事業受託やモデル事業採択に繋がりました。浜松市で「しおみる」を導入するには至っていませんが、いつか市民のみなさまにサービスを提供できることを願っています。

 

これからも、人々の健康づくりを通して、医療費が適正化され、次世代へ投資が増える仕組みづくりの一助になるよう事業を続けていきたいと思います。

 

お問い合わせ

浜松市役所産業部スタートアップ推進課

〒430?8652 浜松市中央区元城町103-2

電話番号:053-457-2825

ファクス番号:053-457-2283

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