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実用化を見据え、世界的に開発が進められる自動運転車。しかしながら、交通量の多い公道や高速道路での自律走行を叶える技術を搭載した車は、高い技術レベルが求められるために非常に高額になりがちです。そんな中、低価格かつ低消費電力の自律走行のソリューションを提供するのが、株式会社モピ(旧PercaptIn Japan合同会社、以下:モピ)です。
モピが解決したいのは、人口減少の著しい地方におけるモビリティ(移動)上の不便。天竜区水窪町において、自動運転のEVを使ったモビリティサービス「Mopi(モピ)」の実証実験を行いました。同社代表取締役の川手 恭輔氏(以下、川手氏)に、当時の様子について聞きました。
川手氏
ーーはじめに、貴社について教えてください。
川手氏:モピは、地域における持続可能かつ自律的な生活交通を実現するため、自動運転のEVを使ったモビリティサービス「Mopi」を開発・提供するスタートアップです。
モピ創業のきっかけとなったのは、PerceptIn LimitedのCEO、シャオシャン・リュウとの出会いでした。彼は2016年に米国でPerceptIn Limitedを創業し、低速走行の車両やロボットのための安価な自律走行システムを実現していました。
この技術を使えば、日本の過疎地域における社会課題を解決できるはずだ。そう直感し2019年8月、リュウ氏と共同でモピを創業。低速の自動運転EVを使ったモビリティサービスを開発してきました。
ーー人口減少や高齢化の著しい過疎地域が抱える社会課題とは、どのようなものでしょうか?
川手氏:利用者の減少により公共交通機関が撤退・衰退し、地域住民の「足」がなくなるという喫緊の課題があります。そこからさらに人口減少に歯止めがかからなくなり、地域自体の衰退を招くのがもっとも本質的な課題だと捉えています。
国土交通省は、現在人口1万人未満の市区町村では、2050年までに人口が半減すると予測しました(※)。そして、人が居住している地域のうち約2割が「無居住化」するそうです。日本の経済や安全、豊かさを維持するためには、由々しき問題です。
(※)国土交通省 国土政策局 総合計画課|国土計画における 過疎地域・集落問題等の位置付け(平成29年12月13日)
ーーそうした背景から、国内の過疎地域や中山間地域に着目し、低速走行に特化した自律走行のモビリティサービスを提供しているのですね。
川手氏:はい。Mopiという名前の由来は、「mobility of the people, by the people, for the people」。つまり、ラストワンマイル問題を抱える地域の⼈々の(権利としての⽣活交通)、⼈々による(⾃律的な)、⼈々のための(持続可能な)新しいモビリティを実現するという意味を込めています。
Mopiの理念は、自動運転の車両を開発しただけでは実現できません。たとえば、毛細血管を流れる血流のように、細やかな拠点にまで配車が行き届くこと。予約した時間に家の前まで車が迎えにきてくれること。地域の課題にあわせてそのようなサービス化を行う必要があり、そのためのプラットフォーム構築をモピが担っています。
水窪町内の旧街道に停車するMopi
ーー地域にあったモビリティのあり方を届けるというのは、貴社に特有のミッションですね。それでは今回、どのような目的で実証実験を実施したのでしょうか?
川手氏:目的は、我々の提供しうるソリューションに対して、地域のニーズが本当にあるのかを確認することでした。そこで、浜松市では中山間地域などの公道で自動運転をテストさせてほしいと依頼しました。
浜松市の担当者さんに多大な協力をいただき、我々として初めて公道での実証実験が実現し ました。具体的には、天竜区水窪町内の旧街道約2キロメートルをMopiが走行するというものです。4日間で総勢120名のみなさんに試乗してもらいました。
ーー今回使用した2人乗りの超小型モビリティにはセーフティドライバーが1名乗車するので、一度に乗車できるモニターの数は1名のみですね。それを1日あたり30名受け入れた計算ですから、Mopiはフル稼働だったのではないでしょうか。それほどまでに地域の注目度を高められたのには、どのような背景があったとお考えですか?
川手氏:市の担当者さんが中心となり、地域の理解を得てくださったお陰です。本プログラムに採択されてすぐに、水窪に来てほしいと言われて現地に向かいました。実は、その時点で、警察や地元のタクシー会社などに話が通っていたのです。
実証実験の許可をもらうつもりで伺ったのに、すでに賛同が得られているかのような状況。「この道がおすすめですよ」、「この区間は危ないから避けると良い」といった前向きなお話をいただきました。
ーー事前に話がまとまっていたとは驚きです。フィールドの許可を得るのに、通常は数カ月ほどの期間が必要だと思うので。
地域づくりを支援する水窪協働センターの職員さんも、地域住民のみなさんへ一生懸命に声をかけてくださいました。実証実験の2日前に、町内の小学校と中学校で自動運転に関する授業を行ったことも奏功したと思います(講義の実施者は、Mopiの運行実装を担う株式会社マクニカ)。
授業の様子
ーー地域のみなさんからは、どのようなニーズや意見を聞けましたか?
川手氏:Mopiに乗った方の約9割が、「こういう移動手段が早くほしい」とのことでした。
水窪の町内を実際に歩いてみると、1人乗りのセニアカーが行き交うのを目にします。買い物や通院のための移動手段です。
町を行き来する自家用車の運転手はご高齢の方がほとんど。聞けば、いずれは自分で運転できなくなる不安を抱えていました。「自動運転のサービスが早く普及してほしい。安心して免許返納の日を迎えたいから」と、切実な声をいただきました。
実証実験中には、Mopiに乗った方だけでなく、沿道の歩行者や一般のドライバーにもヒアリングをしました。今回は安全のために、時速5キロメートルほどの超低速で狭い旧街道を走りました。実際のサービスでは時速10キロから15キロメートルを想定していますが、それでも一般生活者の行動を妨げてしまうかもしれません。
しかし、「邪魔に感じた」などのネガティブな意見はひとつも挙がりませんでした。それほどまでに、地域全体が必要性を感じているサービスなのだと確信できました。
Mopiが走る沿道には人が集い、浜松市長も視察に訪れた
ーーそれでは、今後の展望を聞かせてください。
川手氏:実証実験で得られた水窪地域のニーズを具現化していきたいと思っています。実証実験を終えて引き上げの準備をしていると、地域のみなさんが「もう帰っちゃうの?」と声をかけてくれました。そのときに、Mopiを実験で終わらせてはいけないと、強く思ったものです。
生活のための移動が自由になれば、レジャーや余暇などの新たな移動の目的に対するニーズも生まれるでしょう。若い人たちも流入してきて、新たなニーズを叶えるサービスの開発も進むといいですね。そうした好循環を生むため、Mopiを次なる社会実装のフェーズに進めていきたいと思います。
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