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MetCom株式会社

GPSの弱点を補う革新的な垂直測位技術で、救急隊員の現在地をリアルタイム把握

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消防活動時における隊員の安全確保は重要なテーマです。部隊運用を正確に指揮するためにも、隊員の現在地把握が欠かせません。

 

しかしながら、建物構造や発煙・発火状況が千差万別な現場において使用できる技術は、確立が困難でもありました。

 

そんななか、垂直位置(階数)を含めた垂直測位サービス「Pinnacle(ピナクル)」を提供しているのがMetCom株式会社(別ウィンドウが開きます)(読み方:メットコム)です。「垂直測位技術を活用した消防隊員の屋内三次元位置把握」を提案し、採択されました。

 

取締役・CFOの荒木勤(以下、荒木氏)氏に同社の取り組みについて聞きます。

 

GPSでは測位困難な高さを捉える独自技術で、消防隊員の安全を確保する体制構築に挑む

――位置情報と聞くと、多くの方はGPSサービスを思い浮かべるかもしれません。

荒木氏:GPSは地図アプリやカーナビにも使われている技術で普及していますが、高さ方向の精度が弱いのが弱点です。また、屋内や地下といった場所での位置情報取得も苦手です。

 

私たちは、そのようなGPSの弱点を補う独自の「垂直測位技術」を使い、“緯度”と“経度”に“高さ”を加えた正確な位置情報を取得できる、シームレスな位置情報サービスのインフラ化を目指しています。

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出典:Pinnacle 垂直測位サービス|MetCom株式会社(別ウィンドウが開きます)

 

――今回、浜松市の実証実験に応募されたきっかけは何でしたか?

 

荒木氏:もともと、弊社のサービスは公共性が非常に高いと考えており、防災分野での活用も視野に入れていました。そんな折、あるピッチイベントに登壇した際、偶然にも浜松市の方が私のプレゼンを聞いてくださっていて、本事業の存在を教えていただいたのです。

 

その後、すぐに本事業の公募が始まり「位置測定技術を活用した消防活動の円滑化」というテーマを発見。まさに弊社の技術が貢献できるテーマだと確信し、応募した流れです。

 

火災現場は非常に危険な環境であり、消防隊員の方々はつねに命がけで活動されています。しかし、正確な現在地を把握できないことが要因で、消防隊員の方が命を落とす悲しい事故も起きています。そうした課題解決のお役に立ちたいと思いました。

専用デバイスや管理ビューワーも本事業のために開発、実利用のイメージも持ちやすく

――今回の実証実験は、具体的にどのように進めたのでしょうか?

 

荒木氏:まず、今回の実証実験の実施内容として、変動要素の大きい火災現場ではなく、平時における技術検証を行うことにしました。この点については、浜松市の皆さんにもよく理解いただき、消防局庁舎と市役所本庁舎の2箇所をフィールドに設定しました。

 

そのうえで、段階的なアプローチを設定。ステップ1ではスマホをベースとした仕組み、つまり複数のスマホ端末の三次元位置情報を遠隔地点からリアルタイムに把握する仕組みの開発と検証を、ステップ2では専用デバイスをベースとした仕組み、つまり複数の専用デバイスの三次元位置情報を遠隔地点からリアルタイムに把握する仕組みの開発と検証を行うことにしました。

 

――なぜ、2段階に分けたのでしょうか?

 

荒木氏:消防隊員の装備品にはスマホが含まれないので、実利用を想定した評価のためには専用デバイスで垂直測位の精度検証を行うことが重要と浜松市より伺っていました。そのため、ステップ1で技術的な基盤を確立し、ステップ2で実際の使用シーンを想定した検証を行うこととし、開発が比較的容易なスマホアプリから試験し、つぎに実利用を想定した専用デバイスでも実証を行うことにしました。

 

  ステップ1 ステップ2
目的

今回の実証フィールドにおける

垂直測位技術の精度と有用性の

初期的実地確認

実際の使用状況に近いシーンでの検証
使用デバイス スマホ 専用デバイス
アプリ・ソフトウェア

スマホアプリ

管理者ビューワー

デバイス制御ソフト

管理者ビューワー

狙い

専用デバイスに比べて速く

開発できるため、

早期に取り組みを立ち上げる

実際の消防活動で消防隊員は

スマートフォンを帯同できないため、

実利用により近いシーンで検証する

 

――実証にあたっては、ほかにどのような準備が必要でしたか?

 

荒木氏:気圧分析のための基準基地局の設置、スマホアプリと管理者ビューワーの開発、そして専用デバイスの制作などがありました。

 

弊社のPinnacleでは、基準となる気圧計のデータと、測位対象デバイスに内蔵された気圧センサーの情報とを比較し、高さを計算します。そのため、フィールドの近隣に気圧の基準点となる基地局を設置する必要がありました。あわせて、指令官が指示を行う実際の活動現場を意識して、管理者ビューワーも制作しました。

 

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(実証実験で使用した実際のビューワー画面。パソコンなどの画面上で、消防隊員の位置情報をリアルタイムに確認できる 協力:株式会社ゼネテック)

 

――周辺の開発も行ったのですね。苦戦したこともあったのでは?

 

荒木氏:そうですね、想定外の課題も多く苦労しました。とくに専用デバイスはベースとなる市販品が見当たらず、電子パーツショップで部品を調達して一から手作りすることになりました。

 

今回は実証実験でしたので、耐熱性などの特殊機能を備えていない最低限のプロトタイプでしたが、ミントタブレットほどのサイズのデバイスを制作し、消防隊員の方に携帯いただきました。

 

MetComの垂直測位技術をソフト・ハードに組み込み、実地で使えるようにするためには、パートナー会社様の協力が必須ですが、今回の浜松市実証実験においてもパートナー会社様にはいろいろと相談に乗っていただき、多大なる知恵と協力をいただきました。

 

――管理者ビューワーには、国土交通省がオープンデータとして提供する3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)(別ウィンドウが開きます)」のデータも活用されたそうですね。

 

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(PLATEAUでは都市空間をX、Y、Zの3Dデータで再現する。さまざまなシステムやデータベースと繋いで利用できる 出典:About│PLATEAUとは_国土交通省(別ウィンドウが開きます)

 

荒木氏:はい。ちょうど浜松市のPLATEAUデータが公開されたタイミングだったこともあり、ユースケースを作れたらと考えました。ただ、ここでも課題が。PLATEAUの3Dデータには街全体の建物が網羅的に表示されるという大きなメリットがある一方で、個別の建物にズームアップすると、浜松市のPLATEAUの3Dモデルでは「地図上に立方体が立っている」ような絵になってしまい、今回の実証実験で検証したい建物の階数までを精度高く判定するには若干課題が残ったのです。

 

そこで、浜松市の担当者さまに相談し、PLATEAUが概況把握に活用しつつ、庁舎の図面をお借りして詳細な3Dマップを別途作成することに。図面の入手に時間を要すると思っていたら、すばやく提供してもらえたので驚きました。

 

そうした浜松市の皆さまの迅速なサポートのおかげで、2024年3月と6月の計2回、当初の計画通りシナリオデモを行うことができました。

 

主目的(高さ位置情報のリアルタイム把握)は達成するも、課題は以外なところに。次なる技術目標はGPSの弱点補完

――実証実験の結果はいかがでしたか?

 

荒木氏:スマホアプリ、専用デバイスともに、高さ方向の位置情報は高精度で取得可能であることを確認できました。

 

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(携帯したスマホアプリ・専用デバイスから取得した高さの位置情報と、実測による高さの位置情報は高精度で一致した。薄色の太い線が移動シナリオ、濃色の細い線が実測データ)

 

荒木氏:一方、意外なところに課題がありました。GPSを水平位置取得のために利用したのですが、GPSを屋内で利用するには多くの課題があることがわかりました。

 

GPSとは、衛星測位システムの代表的なもので、複数の衛星から発信される電波を受信し、かかった時間から距離を図ることで受信地点を特定する技術です。しかしながら、ビルや山などの遮蔽物によって電波が反射したり、天候に左右されたりするので、スマホの地図アプリやカーナビにはGPSを補完する別の技術も組みこまれています。

 

私たちが実証実験用に手作り開発した専用デバイスは、GPSモジュールから得られる水平位置の補正が難しく、水平方向の位置が大きく外れてしまうケースも、実測中に残念ながら多く発生してしまいました。屋内におけるGPS利用の難しさを感じました。

 

あわせて、今回は平常時に実証実験を行いましたが、実際の現場で使おうと思ったときにデバイスの耐火性などを検討する必要があります。

 

――そうした結果を受け、今後の展開はどのように考えていますか?

 

荒木氏:三次元測位というと、縦方向の位置は本当にわかるのか?という点に関心がいきがちで、今回の実証実験でMetComの垂直測位技術の精度が確認できたのはよかったのですが、建物内で活動される消防隊員の三次元位置を直感的かつ実用的に把握できるようにするためには、大前提として屋内における水平位置の適切な把握が重要だと感じました。実証実験報告会で浜松市消防局の方からも、垂直精度よりもむしろ水平精度のほうが気になるという指摘をいただきました。とくにスマホ以外の専用デバイスを利用するケースにおいて、GPSの誤差を補正する技術の向上が今後の課題です。

 

複数の解決手法を検討していますが、その中でも弊社が提供準備中の、地上波方式電波測位サービス「MBS(Metropolitan Beacon System)」の活用が有用ではないかと考えております。MBSはGPSが不得意な「屋内や地下における測位」を解決し、なおかつ、今回の実証実験で検証した気圧分析技術も併用することで、屋外はもちろん屋内・地下においても三次元測位を実現するサービスだからです。

 

水平精度の解決と垂直位置の特定を通じ、消防隊員の方の位置把握に役立てると考えています。

 

ただしMBSサービスは、建物内利用に適した電波特性を有する電波を地上局から発信することによりGPSなど衛星測位の課題を解決するものですので、電波法に基づき国から周波数の割当てを得る必要があります。現在準備中ですが、その際の説明資料やエビデンスとして今回の取り組み内容も活用しようと考えています。

 

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出典:MetCom株式会社

 

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出典:MetCom株式会社

 

――今回の実証実験で、とくによかった点は何ですか?

 

荒木氏:市職員の方の「熱意」と「協力体制」です。

 

たとえば、私たちが現地での計測に伺えないときは、市職員の方が対応してくれました。自ら専用デバイスを1ヶ月間も身に着け、データを計測してくださったのです。驚きましたが、本当にありがたいことでした。

 

――それでは最後に、本事業への参加を検討している方へメッセージをお願いします。

 

荒木氏:課題解決への熱意、手厚い協力サポート体制、そしてオープンマインド――浜松市の皆さんは、スタートアップの事業を加速させるパートナーとなってくれるでしょう。

 

浜松市では、並行してさまざまな事業の検証が行われていますので、そうした取り組みともシナジーが期待できます。そんなフィールドに飛び込み、イノベーションの創出に挑戦してみてはいかがでしょうか?

お問い合わせ

浜松市役所産業部スタートアップ推進課

〒430?8652 浜松市中央区元城町103-2

電話番号:053-457-2825

ファクス番号:053-457-2283

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