ここから本文です。
国内でも普及の進む電気自動車(EV)。インフラとして欠かせないEV用の充電スタンドですが、その利用料は充電に要した時間単位の「時間課金制」が主流なのをご存知でしょうか?
そんな中、充電に利用された電気量に応じた「従量課金制」にすることで、EVバッテリーのスペックに寄らない公平な充電インフラの実現を目指しているのが、株式会社GREEN CHARGE(別ウィンドウが開きます)(グリーンチャージ)です。
本事業により「サービスインに必要なフィードバックが得られた」という同社の取り組みについて、企画部長の鈴木孝典氏(以下、鈴木氏)に聞きました。
――はじめに、貴社について教えてください。
鈴木氏:私たちは、自動車部品の製造販売を手掛ける株式会社アツミテック(別ウィンドウが開きます)の100パーセント子会社です。トランスミッションやシフタ―といった部品を製造している親会社とまったく別の新業種を開拓すべく、2022年4月に設立。「1kWhあたり○○円」という形で、充電した分だけ利用料が発生する従量課金制のEV充電器の開発および充電スタンドの運営を行っています。
――どのような着目点でEV用充電器の開発をスタートしたのですか?
鈴木氏:充電に要するスピードは、充電器からの出力や、EVに搭載されたバッテリーのスペックに依存します。そのため時間課金制のスタンドでは、電気を受け入れる能力の高いEVほど同じ時間により多く充電でき、安い料金で利用できることになるのです。
また、EVの充電サービスが次々と誕生している中、月額会員制の「充電認証カード」または各充電サービス専用アプリのインストールを義務付けるサービスがほとんどです。すると、ユーザー側は契約している会社のスタンド以外使えないことになってしまいます。
そこで私たちは、充電した分だけ課金される「従量課金制」で、かつ、スタンドに立ち寄った誰もが面倒な会員登録やアプリのインストールをしなくても、自由にEV充電を行えるようなサービスを展開したい、と考えました。
――まさにユーザーファーストなサービスですね。本事業には、どのような経緯で参加しましたか?
鈴木氏:弊社のEV充電スタンド「グリーンチャージ」は、2021年から2022年にかけて開発が完了していました。次はサービスインを目標に、プロトタイプを制作・設置し、ユーザーのフィードバックを得る機会を探していたのです。
2022年度に、創業間もない事業を対象とした成長支援プログラム「Hamamatsu Startup Incubator(別ウィンドウが開きます)(浜松・スタートアップ・インキュベーター)」に参加していたことで、当時お世話になった浜松市の担当者さまが、「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)によいプログラムがありますよ」と本事業について教えてくれました。
――本事業が貴社のフェーズに合致したのですね。
鈴木氏:はい。しかも、実証実験用に用意されたテスト環境ではなく、実際の生活圏をフィールドにリアルなユーザーの声を拾える機会はそうそうありません。またとない機会だと感じ、応募しました。
――どのような計画で実証実験を進めましたか?
鈴木氏:まず、スタンドを設置できる場所はあるか浜松市の担当者さまに相談したところ、さっそく市の関連施設をリストアップしてくれました。
その中から、すでに充電スタンドが設置されており、ユーザーの利用が見込まれる施設を選ぶと6カ所ほどに絞り込まれました。さらに、駐車場の広さやユーザーの滞在時間などで条件を絞り込み、花川運動公園(中央区西丘町)にフィールドが決定しました。
(キャプション)東名高速道路の浜松西インターチェンジを降りて約4分、大きなテニスコートで親しまれる花川運動公園
実証時間中は、利用料金を自由に設定・変更し、利用状況の変化を見ることに。そして、ユーザーにはアンケートを実施し、リアルな感想を収集していきました。
(キャプション)2023年6月19日に充電スタンドを設置。アンケートは同年6月19日~8月10日の2カ月間収集した
――取り組みの結果はいかがでしたか?
鈴木氏:サービスインを目指すにあたり、重要な結果が2つ得られました。1つ目は、料金によって利用者数に変化がなかったことです。弊社が用意した価格帯であれば、いずれも十分に利用してもらえることが分かりました。実際のアンケートでも、「従量課金制のスタンドが増えてほしい」との声が多数でした。
2つ目は、必要な機能拡張を行えたことです。たとえば、精算画面を表示するタッチパネルが小さすぎるという意見や、タッチ決済を追加してほしいという意見をいただき改良しています。プロトタイプの時点ではそぎ落としていた機能ですが、やはり必要だったことが分かり、拡張の決断ができましたね。
――なるほど、貴社サービスがインフラとして普及するイメージが思い浮かびます。
鈴木氏:結果として、1カ所のフィールドかつ開始から約2カ月という短期間に、サービスインに必要な実証を行うことができました。この実績がもとになり、2023年10月には、地元の老舗菓子メーカーである有限会社春華堂さまの「うなぎパイファクトリー」に1台目を導入いただけることに。
その後も営業を広げていき、2024年2月までに市外を含む計6カ所に導入が決まりました。本事業を経て、「グリーンチャージ」は営業に注力できるフェーズへ移行できたと感じています。
――総じて順調に進んだ様子ですが、貴社にとっては今回がはじめての実証実験でした。苦労したことは、ありませんでしたか?
鈴木氏:一番の心配事はフィールド選定で、実は、当初に検討を進めていた施設は見直しを余儀なくされました。充電スタンドを使ってもらえなければ意味がありません。そのため、想定するユーザー層の来場が見込めるフィールド探しには時間をかけました。
ですが、浜松市の職員さまが各施設の指定管理事業者へコンタクトを取ってくださったため、やり取りはスムーズでした。実機の設置から料金設定の変更まで、職員の皆さまには弊社の希望をよく汲んでいただいたおかげで、理想的なフィールドが見つかったと思います。
――そのほか、本事業で感じたメリットはありますか?
鈴木氏:広報支援の一環として、実験開始式を開き浜松市長にご出席いただいたことです。当日の様子は3媒体に取り上げられたほか、動画サイトでも情報が拡散され、「従量課金制のEV充電器」としてグリーンチャージの認知度が高まりました。
また、本事業を含め、浜松市は事業の創業前後から独り立ちまでをサポートするプログラムが充実しています。アツミテックからスピンオフするとき、最初に困ったのが事務所探しでした。そのときも、浜松市が運営する舞浜サテライトオフィスを紹介してもらい、スムーズに創業できました。
(キャプション)舞阪サテライトオフィス。27平方メートル~53平方メートルの6部屋を事務所として貸し出し、いずれからも浜名湖が一望できる
鈴木氏:「充電器設置企業の本社が集まる首都圏の方がよいのでは」と考えたこともありましたが、浜松市のエコシステムのおかげで、地元の基盤を活かしながら事業を育むことができました。本事業を経て拡販のフェーズに入れたことは、非常にありがたいことです。
――これからが楽しみです。最後に、今後の展望を教えてください。
鈴木氏:本事業で従量課金制のEV充電スタンドがマーケットインし、弊社にとって初となるスタンドの設置実績ができました。これから営業活動を強化し、2024年度には全国で100カ所の設置を目指します。
浜松発のサービスとして、これからもユーザーファーストを重視しながら、全国展開へ向けた動きを加速していきたいと思います。
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください