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2020年1月、内閣官房は東京圏に住む人の約5割が地方移住に関心を持っているとのデータを公表しました。しかしながら実際に移住を叶える人の割合は、移住関心層のうちの約2.2%ほどだそうです(※)。
そんな中、地方移住にまつわる課題を読み解き、移住促進のためのプラットフォームを運営するのが株式会社FromTo(フロムトゥ)です。CEOの宮城 浩 氏(以下、宮城氏)は、自身も東京から浜松市へ移住し、実証実験を行いました。
FromToは、実証実験の開始早々に事業プランの変更を迫られることになった1社でもあります。宮城氏に、本プログラムへの採択から事業を確立するまでのチャレンジについてお聞きしました。
「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書」より推計、東京圏在住者を対象
出典:flato公式サイト
ーーはじめに、貴社の事業についてお聞かせください。
宮城氏:地方移住支援プラットフォームの「flato(ふらっと)」を運営しています。flatoは移住を検討している人が、移住検討先での暮らしの実態について気軽に相談できる場。現地に暮らすアドバイザーとオンラインでつながり、本音やアドバイスを直接聞けます。現在、全国で総勢200名以上のアドバイザーが登録しており、その9割以上が移住経験者です。
地方移住について調べると、移住後に現地のコミュニティへうまく溶け込めず、出戻るケースがとても多くありました。そこで、移住前から現地のキーパーソンとつながっておき、情報収集できる機会を提供したいと考えました。
ーー地方移住は大きな決断であり、ハードルの高いイメージがありますね。それだけに現地に詳しいアドバイザーがいることは、移住検討者にとって心強いと思います。それでは、本実証実験における目的は、flatoのニーズ検証でしたか?
宮城氏:いえ。実は、採択当時は別の事業についてニーズ検証を実施する予定でした。当初、考えていたのは、宿泊体験のできる空き家を移住検討者に紹介する仕組み。いうなれば「おためし移住」のサービスです。行政とタイアップして、地域内の空き家を有効活用できればと考えていました。
ただ、実証実験が始まって比較的早い段階で、その事業プランは「絵にかいた餅」であるとことがわかり、行き詰ってしまったのです。
ーーどのような点が「絵にかいた餅」だったのですか?
宮城氏:そもそも、空き家の有効活用が現実的ではありませんでした。ほとんどが個人の持ち物である空き家に関与することは、行政を通じても難しかったのです。空き家に泊まって
移住検討先の暮らしを体験してもらうはずが、民営のホテルに泊まってもらわざるを得ないのが現実でした。
とはいえ、「おためし移住」のニーズだけでも確かめようと、宿泊費を無料にしてモニターを募集しました。引き合いは多くありましたが、移住に至ったモニターはなんとゼロです。そのとき、この事業プランにおけるマネタイズポイントを見失ってしまいました。
正直なところ、「おためし移住」のビジネスモデルが甘かったと思います。実証実験が始まって3カ月後の2020年2月には、そのことを確信できたでしょうか。ピボット(事業の方向転換)が必要だと、すぐさま事業の再構築に取り掛かりました。
ーー事業プラン自体に無理があることに気付いてからは、何を手掛かりにピボットを進めていきましたか?
宮城氏:ニーズ検証をやり直しました。そのときに私自身の移住体験を振り返りました。実は、本プロジェクトの採択とあわせて、私自身も東京から浜松へ移住をしていたのです。
ーー宮城さんご自身にも移住の実体験があったのですか。
宮城氏:はい。移住に関連した事業を興そうと考えていたので、本プログラムの採択前から移住は検討していました。ただ、移住に踏み切るきっかけは掴めずにいたのです。「スタートアップが盛り上がっている神戸が良いかな」「東京近郊の山梨や長野も住みやすそうだな」、そんなイメージで止まっていました。
そんな中、浜松市を薦めてくれた知り合いがいました。「起業の文脈なら浜松がおすすめですよ。今後、浜松市ではスタートアップ支援が手厚くなりそうだから」と。彼は、浜松に拠点を置くスタートアップ支援の会社の代表で、浜松へ移住するメリットを私目線で教えてくれたのです。
調べてみると浜松市では実際に、資金調達支援やアクセラレーションプログラムが展開されているではないですか。こんなにスタートアップ支援に力を入れている都市なのか、ととても驚きましたね。
そのタイミングで、本プログラムの募集要項を見つけて応募。採択されたのをきっかけに、移住を決断したという流れがありました。
ーーお知り合いの経営者から推薦がなければ、浜松市とは縁がなかったかもしれませんね。
宮城氏:おっしゃる通りです。まさに、現地のキーパーソンとつながることが、移住を成功させる鍵なのだと思い当たりました。
移住に成功した経験者にヒアリングをしてみても、キーパーソンとの出会いが鍵だとみなさん口をそろえて言います。現地での暮らしについて教えてくれ、地域のコミュニティをつないでくれる人がいたから移住で成功できたと。移住した地域に溶け込めるかどうかは、大切な視点です。
出典:株式会社FromTo
ーー移住を促すための重要課題を見つけられたと言って良いかもしれません。そこから先はどう展開しましたか?
宮城氏:地方移住をテーマにしたイベントを開いて、全国各地のキーパーソンを掘り起こしました。みなさん、その地域が大好きです。機会があれば移住検討者の相談に乗ったり、現地のコミュニティをつないだりしたいニーズを持っていました。
そのような人たちを「ふるさと仲人(なこうど)」と呼び、積極的につながっていったのです。そうして、2020年7月にflatoの前身となるサービスをローンチ。サービスをブラッシュアップして現在のflatoの形になりました。
ーー大きなピボットを経てサービスを確立したのですね。実証実験のプランも当初から変更せざるを得なかったと思います。その点について、浜松市とはどのように話し合いましたか?
宮城氏:「おためし移住」のモニターを実施し、ニーズを検証した後にピボットの相談をするようにしました。当初の事業プランではマネタイズが難しいことを、客観的に判断する必要がありましたね。それまでは、当初の実証実験プランを実行しながら、ピボットに向けた検証も同時並行で進めていました。
ーーなるほど、大変参考になりました。それでは、今後はどのように発展していきますか?
宮城氏:flatoは、中・長期的な移住ニーズに応えるプラットフォームとして運営を継続します。一方で、本プログラムにおける私の失敗経験から、「視察ワーケーション」のサービスを立ち上げました。これは、浜松への展開を考えている企業に向けて、現地視察およびネットワーク構築をアレンジするサービスです。
出典:株式会社FromTo
本プログラムにおける私の反省点は、採択前に一度も浜松市へ足を運ばなかったことです。ニーズの検証も現地協力者との関係構築もままならないまま、「おためし移住」の仕組みを描いてしまいました。
実証実験の実施や地域企業との連携などにあたっては、現地のキーパーソンとの関係構築が欠かせません。そこで、私自身がコネクターを務め、市内の企業や起業家、行政の担当者を紹介していきます。
浜松以外のエリアでも現地のコネクターを発掘し、多種多様なアテンド企画を増やしていく予定です。これからも私たちは「人」にフォーカスし、移住検討者が地方の魅力に気付くきっかけを提供していきたいと思います。
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