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コロナ禍で落ち込む外食需要を喚起するべく、浜松市はデリバリーの普及や飲食店への来店を促すキャンペーンを多数展開しました。
そんな中、客の属性や行動データを飲食店が直接管理できるプラットフォームの提供により、外食需要の掘り起こしに取り組んだのが、飲食店経営のデジタル化を手がける株式会社favy(ファビー、以下:favy)です。
favyは、店舗横断型のサブスクリプションサービスを展開し、市内飲食店の集客・売上向上を目指しました。同社の執行役員 足立成彦氏(以下、足立氏)にお話を伺います。
――飲食店DXに取り組む貴社では、飲食店メニューが定額制で頼み放題になる「favyサブスク」のサービスを展開していますね。まずはfavyサブスクのサービス内容について教えていただけますか。
足立氏:favyサブスクは、飲食店が、月額固定サービスを提供でき、それに応じた顧客管理や分析ができるサービスです。
飲食店さまには、一定のメニューが定額制で「〇〇放題」になるプランを組んでいただくことで、再来店を前提としたお客様との関係構築が可能になります。favyサブスクのプラットフォーム上には、広告の閲覧から来店し会計を終える段階までエンドユーザーの行動データが集まります。そうしたデータを来店の動機づくりや接客に活用いただけることが、favyサブスクの提供価値です。
favyサブスクの導入店では、月額定額制のコーヒーサブスクから飲み放題定期券まで幅広いサブスクが展開されている
――2019年6月のサービス提供開始から、すでに3,200店舗(※2022年5月現在)も導入されているとか。
足立氏:都市圏を中心に導入数が増え、とくにコロナ禍で需要が伸びました。コロナ禍による実来店客数の落ち込みは、地方でも顕著だったと思います。弊社としてもfavyサブスクのモデルが地方都市で機能するか検証したいと考えており、浜松市実証実験サポート事業へ申し込みました。
――favyサブスクにとって初の地方展開となったのですね。普及にあたり、都市圏と異なる点はありましたか?
足立氏:大きな違いは、来店の導線だと思います。浜松駅の周辺にも飲食店がたくさんありますが、車社会ということもあり郊外にも人気店が点在しています。駅などの施設を利用するついでに飲食店へ立ち寄るのではなく、お店そのものを目的に来店が発生するエリアだといえるでしょう。飲食店を起点とする周辺住民の生活圏へ溶けこみ、来店きっかけを作ることがポイントだと考えました。
favyではユーザーの属性や行動を精緻に分析、本事業期間中も市内横断型の訴求ではなく来店客を対象にプロモーションする方法に切り替えた。 出典:favy
――具体的にはどのようにサービスを展開しましたか?
足立氏:「やらまいかパス」という浜松市内の対象店舗で横断的に使えるクーポンをリリースしました。月額500円で会員になると、対象の飲食店に来店するごとにドリンク1杯・大盛りなどの店舗特典を受けられるという内容です。
出典:やらまいかパス公式サイト
最終的には51店舗に参加いただき、会員の利用回数は合計で459回となりました。会員1人あたり月2回以上利用いただくことを見込んでいましたが、実際には平均1.29回に着地。コロナ禍ということもあり、想定する利用回数には至りませんでした。
――コロナ禍で来店動機をうまく作れなかったことが要因ですか?
足立氏:たしかにインセンティブは改善の余地があったかもしれません。今回は参加店の裁量で自由に決めていただきましたが、「肉料理1品無料」などコンセプトを立ててもよかったと思います。ですが、インセンティブはドリンク1杯とほかの店舗と変わらないのに、毎日のようにお客さまが来店したバーもありました。
より本質的な課題は、ほかに2つあったと考えます。1つは、ユーザーにリーチする手法を誤っていたこと。他都市と同じく浜松市でもSNS広告でユーザーを募集しましたが、リーチできる母数が都市圏の5分の1以下と想定を大きく下回りました。ユーザーにリーチする方法は、もっと開拓する必要があったと思います。
もう1つの課題は、ユーザーに事前登録から本登録に移行してもらう際のインセンティブが弱かったことです。やらまいかパスのリリース前に宣伝を兼ね、事前登録を募集しました。そこから本会員に転換した割合は約20%と、非常に低い数字だったのです。
本登録するメリットをよく設計し、キャンペーンを実施すべきだったと分析しています。
出典:favy
――そのような中、飲食店が51店舗も参加されたのは1つの成果といえそうです。
足立氏:浜松市から協力いただいたお陰です。方向転換が必要なときは、すぐさま相談に乗っていただき軌道修正できました。参加店舗を増やすにあたっては、「はままつ安全・安心な飲食店認証(※)」を取得している店舗からアプローチするようアドバイスがあったほか、複合施設の管理会社さまや飲食関連イベントの主催者さまをご紹介いただきました。
浜松市のみなさんは、スタートアップと同じスピード感で、事業やサービスをどう作ればよいかを一緒に考えてくださいます。コロナ禍で浜松の現場へ行けない日が続く中、たくさんのサポートをいただき大変励みになりました。
政府が示す「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」にもとづく感染症対策を実施し、一定の基準をクリアした飲食店に対して浜松市が付与する認証。
足立氏自身も浜松市出身
――広告手段に違いはあるものの、飲食体験をより豊かにするサービスは地方都市でも求められていると感じます。favyサブスクをより普及させるために、今後どのようなことが必要だと分析されていますか?
足立氏:favyサブスクがプラットフォームとして機能していけるとよいと思います。たとえば、浜松は餃子が有名ですよね。餃子に絞った飲食体験ができるようなサブスクサービスを展開できたら、浜松餃子のファン層を取り込めたかもしれません。
――それでは、今後の展望について教えてください。
足立氏:本事業では、店舗を起点としたユーザーの来店誘致・リピートに関する行動データが得られました。これにもとづき、店舗・施設ベースの集客やファン作りにおいて、favyサブスクのサービスを磨いています。
その結果、本事業の終了2カ月後には、Suicaをお持ちのお客さまにご利用いただけるサブスクリプションサービス「JREパスポート」をJR東日本さまと本格的に開始できました。
JR東日本のエキナカ・駅ビルを中心に16の業態・131店舗でサブスクサービスを楽しめる(2022年6月現在)。 出典:JREパスポート公式サイト
「(店舗名)+サブスク」といったキーワード検索が会員化や来店に繋がっており、JREパスポートが購買行動の新たなきっかけとなりました。プラットフォーム上に集まるユーザーデータを追いながら、これからの施策をJR東日本さまとともに考えていきたいと思います。
このようにエンドユーザーのデータを飲食店が活用することで、来店したくなる動機づくりやより豊かな飲食体験を提供できるようになる。そうした世界観を全国に浸透させていきたいと思います。
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