更新日:2022年12月26日
浜松市ユニバーサル農業研究会インタビュー「障害福祉サービス所だんだん」
障害福祉サービス所だんだん 金田祥史・和田里美
プロフィール
だんだん
医療法人社団至空会が運営する障害福祉サービス事業所。多機能型事業所として就労移行支援、就労継続支援B型、生活介護、生活訓練などその他様々な福祉サービスを行う。
金田祥史(写真左)
精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。だんだんの管理者として施設長を務める。
和田里美(写真右)
精神保健福祉士。だんだんの就労支援員として様々な事業に携わる。
(平成28年10月)
金田
障害福祉サービス事業所「だんだん」は、障がいを持った方の生活や就労の支援を行う福祉施設です。精神科クリニックなどを運営する医療法人社団・至空会が母体にあり、就労移行支援や生活訓練など障がい者支援に関する様々な事業を行っています。ここ数年で法律も大きく変わり、障がいのある方がどんどん自立して社会に出ていこうという機運も高まって事業も多様となってきました。
和田
だんだんには、毎日35名ほどの施設利用者さんが通所されていて、現在製菓や縫製などいろいろな作業を行っていますが、そのうちのひとつに農作業があります。農作業をやらせてもらうようになったのは15年程前になるかと思います。施設利用者さんから「働きたい」という声が非常に多い中で、当時は病院の清掃などをスタッフの個人的なツテでさせていただいていたのですが、なかなか長くは続かないという状態でした。三方原台地にあるだんだんの周りには畑がたくさんありますので、農家さんに「草取りなどの作業があればぜひ手伝わせて欲しい」と飛び込みで入り、スタッフが2,3人の利用者さんを連れて農家さんにお手伝いに行くようになりました。
金田
こちらからお願いしてはじまった農作業でしたが、農家さんからの評判も良く、話を聞いた他の農家さんからも頼まれるなど、次第にたくさんの農家さんをまわらせていただくようになりました。現在では収穫や芽かき、ポットの植え替えなど色々な作業を受託しています。スタッフが利用者さんを車に乗せて小グループで現場に行き、依頼された作業をスタッフが指示しながらみんなで一緒に作業を行うという形で取り組んでいます。農家さんから「助かるよ」という嬉しい声もいただけるのですが、私たちにとっても農業に関わらせていただくことで得られるたくさんの良い面がありました。
|
施設内の訓練のひとつとして、縫製作業などを行っている
地域産「遠州綿紬」を使ったオリジナル商品の制作なども利用者が分担して行う
和田
屋外での作業というのはあまりなかったこともあって、始めたころから農作業は利用者さんたちにとても人気のある作業でした。利用者さんは福祉施設によって特徴がありますが、だんだんには精神に障がいを持った方が比較的多くおられます。なかなか外に出られない人、引きこもっていた人などをイメージしていただければ分かりやすいかと思いますが、そういった方が生活リズムを立て直したり、コミュニケーションの不安を取り除いたりといった目的で訓練を行い、経験を積んでいきます。畑での農作業は、施設内での作業と比べて広い空間で適度な距離感があるので、対人の緊張感や、作業に対するプレッシャーなどが和らぐ部分が大きいと思います。それに、やっぱり自然の中での作業は気持ちがいいですよね。
金田
農作業は開放的ですよね。適度な連帯感の中で、適度に気を抜くこともできるという環境がとてもいい面だと思います。また、生活リズムを作るという面でもすごくいい効果があります。身体を動かしてする外仕事ですから、作業後は適度に疲れます。そうすると夜よく眠れますし、食欲も出る。身体的にも、精神的にも良い循環が生まれるんです。
和田
それから農業にはすごく達成感があります。例えばミカンの収穫などでは、ひとつの木から全部を収穫するということ。それがすごく気持ちが良く、自分でやり遂げたということを感じることができる。それが他の作業だとなかなかない部分だったりします。
|
スタッフが一緒に農場を訪れ、指示をしながら農作業を行う
自然の中で開放感を感じられる農作業は、施設利用者にとって良い循環を生む
金田
農家さんとの間に少しずつ変化が生まれてきたこともあります。農作業に何度か伺ううちに、農場の方で少し工夫をしてくれていることが出てきたのです。
和田
以前伺ったたまねぎ農家さんでは、専用の器具でたまねぎの茎の部分をカットする際、手を切らないようにと鎌の先の部分に色テープを貼ってくれていました。おかげでケガをした人は誰もいませんでした。また、ある花農家さんでは苗を一定の長さに切るために、目安になる棒を用意してくれていました。このくらいの長さ、と言われるとなかなか難しいのですが、「この棒に添えて一回切る」というシンプルな指示になるととても理解がしやすいのです。その後、他のパートさんも同じ棒を使い作業がしやすくなったということでした。
金田
農家さんにとっては、障がいのある方のことを思いやってくれていることなのですが、それが効率の良い作業につながり、結果として同じ時間でもたくさんの成果をあげることができる。単に業務のやりとりをしているだけでは生まれなかった変化が、農家さんと利用者さんが一緒になって作業することで生まれる。まさにユニバーサル農業に繋がっていることなんですよね。
和田
障がいのある方のことを農家さんが理解してくれて、作業しやすい方法を見出してくれる。私たちの意見も尊重していただき、コミュニケーションの中でお互いにとって良い形が作れていることにすごく感謝しています。
|
バラの芽かきを行う施設利用者とスタッフ。適度な連帯感が生まれるのも農業の持つ特徴。
金田
現在のだんだんは事業も多様となってきたこともあり、要望があってもなかなか受けきれない部分もあるのですが、毎日市内の農家さんに伺って作業をさせていただいています。
和田
地域に貢献できる仕事ですごくいいなと思っています。農家さんは「今日も助かったよ」と声を掛けてくれるので私たちもやりがいがありますし、自分たちの携わった作物が直売所やスーパーに並んでいることがあったりすると余計に嬉しいんですよね。車で走っていて、ここのミカンの木は私たちが切ったよね~なんて話をしているとその地域に愛着も湧いてきます。
金田
福祉事業所として仕事を請けているものはたくさんありますが、届いた原料を使って施設内で物を作るといった業務とは違って、農業はこの地域の方々との接点になっているんです。ややもすると地域の中で孤立した事業所になってしまいかねない私たちにとって、農業は大切な橋渡しを担ってくれています。
和田
自然と関わること、人と関わることで、今まで外に出られなかった利用者さんがはつらつと働けるようになるケースもあって、そんな姿を見ていると本当によかったとスタッフ共々感じています。今後も、地域の農業の中で、私たちが良い役割を果たせていければと思います。
|
中央区・三幸町にあるだんだんは三方原台地のため、まわりに畑が多い。
←「ユニバーサル農業について 浜松市ユニバーサル農業研究会」へ戻る
←「はままつの農林水産業」へ戻る