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更新日:2023年2月27日
浜松市浜名区都田町で、バラの生産を行う「takayamarose」を経営。直売所を併設した温室で32品種のバラを年間約30万本を生産する。「幸せを応援するバラ園」をコンセプトに生産のほか加工や販売など、地域に密着した事業展開を行う。(平成29年2月)
障害者支援施設との連携のはじまり |
当園は、浜名区都田町でバラの生産を行っている農園です。栽培のほか、花束やフラワーアレンジメントなどの加工販売、ウエディングブーケや会場装飾といったブライダル事業などを通して、「幸せを応援するバラ園」を理念に経営させていただいています。 当園では、5年前ほどから障害者支援施設の利用者さんに農作業をお願いするようになりました。今は2つの施設からそれぞれ週1回ずつ来ていただき、圃場での色々な作業をお願いしています。また現在、出荷調整作業のひとつとして、収穫したバラの長さを揃える“切りそろえ”の作業についてもお願いできるよう打ち合わせを行っているところです。 障がい者さんに農作業をお願いするようになったきっかけは、5年前に静岡県の農福連携事業の一環で障がい者の農場実習先として選んでいただき、その受け入れを行ったことから始まります。当園では、最初にバラ圃場の掃き掃除をお願いしました。バラの栽培をしていると、栽培棚の下に枝や葉っぱが自然と溜まっていくのですが、これを放っておくと湿気がたまり悪影響が出てしまうため定期的に掃き掃除を行う必要があります。ただ、他の作業に追われているとなかなかまめに行うことができず、悩んでいた部分だったので、とても良いタイミングでした。 |
takayamaroseでは要望にあわせて様々な提案ができるよう、多くの品種のバラを生産している。
障がい者施設との連携によって、農園内にはより明るくやさしい空気が生まれるようになった。
農園で起こった変化 |
圃場の掃き掃除をお願いしてしばらく経つと次第に作業が早くなっていき、むしろ手が余ってしまう状態になりました。そこで、他の作業もできないかと検討し、不要なわき芽を摘み取る“芽かき”という作業もお願いするようになりました。今は必要に応じて色々な作業をお願いしています。 当園に作業に来てくれている障がい者さんたちはとにかくまじめです。こちらの声かけ次第という部分もありますが、とにかくみんながんばってくれるので逆に心配になってしまう時もあります。ですから、何か心配なことがあればしっかりとジョブコーチ(障がい者の作業支援を行う専門員)と状況について話をするようにしています。 また、パートさんたちとのコミュニケーションもよくとれていると思います。パートさんたちはとても面倒見がよくて助かっています。助けてあげないといけないところがある分、自分の子どものような感覚で付き合えているのかもしれないですね。農園内で笑顔や会話もすごく増えて、なんというかやさしい雰囲気ができていると思います。こういったものはなかなか作ろうと思って作れるものではないので、代えがたいことだと思っています。 農園の中での変化も色々とありますが、とにかく「表示をする」ということが習慣になりました。例えば、冷蔵庫のここには何が入っているということを冷蔵庫の外側に表示することで、扉を空けてから探す手間や空調のロスが少なくなりました。それから、バラ栽培の作業する通路は、トゲが刺さらないようバラを一定方向に植えているため、一方通行になっています。通路によってその向きが違っているので、全ての通路に表示を付けました。そのほか、効率よく作業するための道具もこまめに用意するようになりました。自分達だけならちょっとのことは無理して作業してしまうため、いずれもわざわざ改善するという発想がなかったことです。小さなことの積み重ねですが、全体としては大きく効率化できてきました。また、新しく入ってきた人にも分かりやすく、作業のしやすい環境になってきていると思います。 |
左:福祉施設との連携によって農園に生まれた変化のひとつが、通路の進行方向を示すサインの設置。
右:農福連携やブランド戦略など、農園の取り組みを紹介する機会も多い。
「自分しかできない」が「誰にでもできる」に |
こうした農園の中での変化のほかに、僕自身の変化もすごくありました。福祉分野の方というのはとにかく、今できない作業をどう工夫してできるようにするか、という視点でアイデアをくれます。道具を加えることだったり、作業を分解することだったり、色々な角度から工夫をします。それは、今ある作業工程の根本的な改善に直結することが多いのです。だから僕は、ジョブコーチや障がい者のみなさんにより良い方法はないかということを何度も聞くようにしています。自分では気付かなかった作業の欠点や、思いつくことのなかったより良い方法が生まれることを期待しているんです。 障がい者の方々と仕事をするようになって自分自身に起こった大きな変化は、「僕にしかできないと思っていたことが、誰にでもできる」ということが分かったことだと思います。農家にとって、こうした気持ちの変化はとても大きなことなのです。「農業は職人的な作業の連続であって、経験のある自分にしかできない」と思っていたことが、別の視点を加えることで作業の単純化や平準化が生まれ、だれもができる作業へと変化するのです。作業を改善しながら他者に任せるという感覚も次第に身についてきました。 こうした自分自身の変化は、今の農園の経営にもつながっていると思います。以前は、従業員やパートさんに作業をお願いし、僕が全ての作業管理をするという形で運営をしていました。今は、障がい者さんに作業をお願いできる部分が生まれたことで、従業員やパートさんに自分がそれまで行っていた作業管理の部分を少しずつお願いしています。そうすることで、僕が常に農園にいる必要がなくなり、事業連携やブランド戦略など経営に関するより広い分野での活動ができるようになりました。まだまだ改善していかないといけない部分はありますが、組織として良い形が生まれてきてるのではないかなと思っています。 |
ジョブコーチや障がい者さんたちは、既存の農作業に新しいアイデアを生み出してくれる大切な存在。
現在、バラの長さを均等にそろえる出荷調整作業について検討を行っている。こうした打ち合わせが、現行の作業工程を見直す絶好の機会となる。
福祉と連携したこれからの農業 |
これから先は、労働力がどんどん減っていく社会になります。そういう中で、障がい者さんたちが救世主として、今後大きな役割を担ってくれると思っています。 僕は、いつも障がいのある方は自分が持っていない視点を持った先生のような存在だと感じています。僕たちとは違いできないことがあるからこそ、自分がやれる方法をいつも考えているのが自然で、だからきっと僕たちでは思いつかないようなアイデアが生まれるんだと思います。 一般的に、農業は大変な世界だという印象がやはり強いと思います。そういう中で今後、会社を大きくし、維持発展していくためには、僕たちが働きやすい環境を作っていかなければいけません。これからも福祉関係のみなさんの力を借りながら、みんなにとってより良い環境を作り、たくさんの方の幸せを応援するバラ園をつくり続けて行ければと思っています。 |
妻・晴美さんとともに、フラワーアレンジメントや販売事業を展開。バラを通じた豊かな暮らしの提案を行っている。
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