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株式会社トラジェクトリー
代表取締役 社長 小関 賢次 氏
日本の航空管制システム開発に長年携わってきた代表・小関氏の経験を背景に、空の利活用を促進することにより社会課題を解決することをミッションにスタートアップとして設立された株式会社トラジェクトリー。物流や点検など平常時のビジネスのみならず 、災害時にも対応可能な「空の社会インフラ」構築を目標に、天竜川流域でのドローン航路整備や飛行ルール策定、運用システムの開発などを一貫して担当。その取り組みは、日本でもいち早く実用化が進む先進的な事例として全国から注目を集めています。
当社が浜松市モビリティサービス推進コンソーシアムに参加したのは、浜松市の「ファンドサポート事業」に採択されたことがきっかけです。この支援を通じて浜松市との関係が生まれ、ちょうどそのころ立ち上がったばかりの本コンソーシアムにお声掛けいただきました。本コンソーシアムはスズキさんや遠州鉄道さんといった地域を代表する大企業と浜松市が連携してモビリティサービスを社会実装するという動きが設立当初から非常に活発でした。当時は当社のようなベンチャー企業が単独では実現が難しい天竜川流域での遠隔医療・医薬品配送実験が参画したタイミングで企画されており、それに参画させていただいたことが幸いしてモビリティ関連のスタートアップとして認知していただき、それをきっかけに、ドローンの実装実験やフィールド運用の機会を得るようになりました。
ドローン航路の設計
当社が特に力を入れているのが、天竜川上空にドローン航路を構築するプロジェクトです。これは経済産業省の「デジタルライフライン全国総合整備計画」の一環で、浜松市が本事業の先行地域として選定され、当社では航路の設計から運用ルールの策定、そして飛行管理システムの構築まで、全てを一貫して手掛けています。これまで、当社では「ドローンの管制は民間が担う」という世界的な潮流を受けてドローンの管制システムの開発に取り組んできましたが、その過程での必要性からドローンの運航も手掛けてきました。しかし本コンソーシアムでは、ハマキョウレックスグループのHMK Nexusさんが運航を担ってくださるので、トラジェクトリーは本来の専門である「ドローン航路」の構築と「管制サービス」による安全管理に専念できるようになっています。
実証実験
当社にとって、本コンソーシアムへの参加は非常に重要な契機となっています。コンソーシアムを通じて、ドローン航路という仕組みを提供するだけでなく、さまざまな企業からドローンの活用に関する具体的なニーズや課題を直接聞くことができるからです。
いくら制度やインフラを整えても、現実にドローンが活躍する場面がなければ、現場での活用には至りません。しかし、この浜松市のドローン航路では、実際に物流を担っている地元の事業者が、医薬品など必要とされる物資を運んでいます。このことは技術面での前進にとどまらず、他の企業がドローン活用に踏み出す大きな追い風になるはずです。
浜松市の企業とお付き合いしていていつも私が感じるのが、ただ情報を聞くだけでなく、実際に自分たちで試してみようとする意欲の高い企業が多いということです。この「やらまいか精神」が、これからも浜松発のドローン活用事例を生み出す原動力になると確信しています。
ドローンはまだ“特別な機器“として見られがちですが、私たちはこれを「空を使った社会インフラ」として、もっと身近な存在にしていきたいと考えています。災害時の被害把握や救援物資の輸送、今後の人口減少社会における物流の一翼を担うなど、ドローンが果たせる役割は非常に大きいはずです。浜松市には、大手の輸送用機器メーカーやロボット製造企業、鉄道会社など「陸海空」全てのモビリティ分野に強みを持つ企業が集結しており、こうした多様なモビリティが有機的に連携する、新しい時代の社会基盤を生み出す可能性を持っています。トラジェクトリーは「空の仕組みを支える存在」として、そんな未来の交通づくりに貢献していけたらと願っています。
取材日:2025年7月25日