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更新日:2022年3月31日
「獲ったで、今。シカ2頭」
「今日も獲ったの、ミツさん。おとつい(一昨日)も獲ったもんね。あれ、昨日は?」
「昨日はな、デスクワークだ。ニホンジカの管理捕獲の集計と書類作成をやってたでよ」
楽しそうな会話を続ける二人は、宮澤三明(みやざわみつあき)さんと野牧綾乃(のまきあやの)さん。ぱっと見、優しいお父さんとそのお嬢さんのよう。
「そう、そこを右に行った送電線の近くだ。70mはあった(離れてた)な。散弾銃で仕留めたぞ」
「すごいね」
宮澤さんは龍山町瀬尻で暮らす63歳。猟師歴42年の大ベテラン。地域の人たちからは「ミツさん」の愛称で親しまれている(以下、ミツさん)。
職業は大工…いや「この時期は、猟師だな」と、笑みをこぼすミツさん。一方、野牧さん。
彼女は「浜松山里いきいき応援隊」として龍山町に赴任し、まもなく1年。狩猟の免許状を取得し、地域の課題を解決しようと活躍中。しかも、ミツさんの一番弟子だ。
「ほら、これ」
野牧さんが見せてくれたのは、刃渡り7cmほどのナイフ。”さばく”(解体処理)のに使うのだと、説明を続けようとしたその時
「もう、研いでは使って、使っては研いで、だいぶ短くなっただぞ」とミツさん。
俺も同じものを使っているだよと、うれしそうにもう一つ見せてくれた。
「同じものが二つあってな。だから綾乃に渡したんだ。話せば長くなるだが、もう一つが俺のもとに回ってきてさ」
21歳から猟師をしているミツさん。そのきっかけを尋ねると「宮澤家代々、猟師」とのこと。
小学生の頃から「親が獲ってきたものをさばくのが仕事だった」というのだから、この道50年以上のキャリアになるミツさん。
「シカが増えたのは、ここ20年くらい。山の手入れが行き届かなくなり、山にエサがなくなってシカが里まで下りてきた。人と動物との”境界”がなくなってきたようだね」と語る。
時代とともに、環境や生活様式、そのほかさまざまなものが変化してきた。聞けば最近、猟師仲間がイノシシにまれたらしい。
ミツさんもこれまで何度かピンチがあったそうだが「今日まで、ほら、無事だよ」とにっこり。
なぜ事故に遭遇しないのか。その秘訣を聞いてみると「まぁ、虫よけスプレーくらいはやってるよ」とのことだ。
仲間のアクシデントを聞いては現場に出てそれを予見する。そして「いざという時はな、一瞬で、しっかり考えることだ」と言い切るミツさん。
その真剣なまなざしに、野牧さんも大きくうなずく。
「ほかの猟師よりもうまいよ、さばくのは。へんな”クセ”がなくていい。数をどんどんこなしていけば、綾乃はもっともっと、うまくなる。俺なんか2時間あれば(さばくことが)できる。時間が経てば経つほど、鮮度は低下していくし、もちろん、適正な管理も大事だで」と力を込める。
「さばき方の違いで、肉のうまみは全く変わってくる。おっと、これはだれにも教えちゃダメだぞ」
ミツさん流の”究極の業”があるのだ。これを、そっと一番弟子だけに伝授する。
「これで、”龍山のジビエはうまい”って、評判になること間違いなし!そんなシナリオになるんだがな。今、ジビエが注目されている。どこにも負けん味が龍山にはあるって。でも、残念ながら、解体処理施設の整備がこれからなんだよ。もう少し待ってな」とミツさん。
計画は密かに進められているようだ。
ミツさんとその一番弟子の目には、その先の龍山の味がはっきりと見えている。
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