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更新日:2020年3月26日

筍を掘る人

この時期の筍は黄色い。勝手に「黄金の筍」と名付けたんですよ。(PDF:284KB)

竹やぶの心地よさ

筍を手にする人まだ肌寒い2月初旬。「筍(たけのこ)はもう少し先かな」など思っていたのだが、すでに早いところでは筍が出始めているという情報が入った。これはぜひ取材したいと思い、筍を育てている人を紹介してもらい、訪ねることにした。春の食材のイメージが強い筍。地中は、春の準備が始まっているのだろうか。寒い2月とはいっても、節分も過ぎて二十四節気でいえば立春だ。この2月の筍の話を聞いて、古くから使われている二十四節気が、日本人の暮らしに即したものであると、改めて感じさせられた。

天竜区只来のとある竹やぶで待ち合わせ。私たちを待っていてくれたのは、中谷さんというお父さんだ。軽トラックに帽子、腰には地元の人たちが”ぼうら”と呼ぶ籠を提げていた。優しい笑顔で迎えてくれた中谷さん。実は「蜂の巣取り名人」としても地元では知られている。

「この竹やぶは、近所の人のものなんですよ。数年前まで荒れ放題でね」と中谷さんは、ここで筍を採るようになった経緯を話し始めた。手入れが出来なくなったやぶを、持ち主に代わって整備するようになったことがきっかけ。いのししの住み家だったというやぶは、今では陽の光が差し込み、人が自由に歩き回ることができるまでになった。竹やぶ全体は、切り出した竹で作られた柵で囲まれているが、これは中谷さんが一人で手掛けたそうだ。「ちゃんと作らないとウリ坊が隙間から入っちゃう。手間をかけなきゃ、筍も自分の口には入らない」と苦笑いした。

柵で囲った竹やぶそれにしても、これだけの柵を作るのは骨の折れる作業だろう。「一気に何十本も切った後に、肩が痛くなって接骨院に行ったら『あんた、何やったんだね。重いものでも提げたの?』とすぐに見抜かれた。それからは、少しずつやるようにしてるんだけど」と中谷さんは笑った。

竹やぶに足を踏み入れると、ふかふかとした感触。視覚的には日本の「和」を感じさせる風景だ。きっちりと手入れされた竹やぶが、これほど心地よい空間であるとは正直知らなかった。「笹がじゅうたんみたいでいいでしょ。たまに孫が遊びに来るけど、小さい子でも安心して遊べるよね」と中谷さんは優しく目尻を下げた。こんな場所で自由に駆け回ることができたら、子どもたちは楽しいだろうな、とうらやましい気持ちになった。

春の宝探し

わずかに土から顔を出した筍筍掘りといえば、地表から少し顔を出したものを掘り出すイメージだったが、2月の筍探しは、足の裏の感覚に頼るという。「3~4ミリの小石を踏んだ感覚。その感じを探してみてください」と中谷さん。ふかふかとしたやぶの中を慎重に歩いて回るが、なかなか手応えならぬ”足応え”がない。何だか、小さい頃にプールでやった「宝探しゲーム」をしているような懐かしい気分だ。「ここ、ここ。ちょっと踏んでみて」。私が、なかなかお宝にありつけないのにしびれを切らした中谷さんから、ヒントが出され、やっと”その感覚”にたどり着いた。「えっ」と思わず、声を出してしまうほど、わずかな感覚。「この感覚を探して回るわけです」と中谷さんはにんまりとした。その場所の笹と土をよけると、親指の先ほどの筍が顔を出した。中谷さんの小石という表現は、決して大げさなものではなかった。

よく見ると竹やぶには、何本も木の串が刺してあった。これは、中谷さんが筍を見つけた場所に目印として立てたものだ。その数は100本ほど。1月下旬にやぶに入ると、筍が一気に出始めていることに気がついたそうだ。「今年の冬は、暖かかったからかな。例年よりも早い」と中谷さん。「でも、実は、筍は8月くらいから土の中で成長し始めるんだよ」と教えてくれた。早い時期の筍は、まさにイノシシとの競争。「人間は勝手に入って筍を掘っていくようなことはないけど、シシは別。勝手に採っちゃいかんって、ほんとシシに言って回りたいよ」と大きな声で笑った。

「ちょっと見てごらん」と案内されて後をついていくと、中谷さんが作った竹の柵の向こう側は、イノシシが土を掘り返してひどい有り様だった。「ここは、川が近くて土がいいから、いい筍ができる。イノシシは川も渡るし、鼻も利くから」と中谷さんは説明してくれた。それを見て、手間をかけてでも柵を作る理由がよく分かった。

田舎暮らしのオールラウンダー

手入れが行き届いた竹やぶで筍掘りをする人中谷さんがつるはしで土を掘り始めると、黄色い筍が出てきた。ここで採れる筍は、ほとんど人に配ってしまうそうだが、その色に驚く人が多いという。「筍の皮はこげ茶とか黒だと思っている人が多いのね。だから、スーパーのものとは品種が違うのかと聞かれることもある。僕のは、陽に当たる前に採るから黄色い。だから勝手に”黄金の筍”と名付けてるんですよ」と中谷さんは、筍を手ににこりとした。筍はアク抜きが面倒なイメージがあるが、この時期のものは湯がかずに食べる方が香りが立つそうだ。「味噌汁に入れると一番違いが分かる。茹でたらうまくない」。竹冠に旬と書くたけのこは、まさに春の香り、旬の味だ。これ以上の贅沢はない。

筍のほかにも、タラの芽を作ったり、川で釣りをしたりと何でもできる中谷さん。今年は地元の自治会長も務めた。また、名人といわれる蜂の巣取り歴は35年以上。暮らしにおいて、広い守備範囲を誇るが、いずれも自分なりのやり方を熱心に研究している。「やってるうちに自然に気づくことがある。日々、勉強です」という言葉は、中谷さんの生き方そのものだ。中谷さんのような人に会うと、田舎の人たちのオールラウンドかつマルチプレイヤー的な暮らしぶりが格好よく映る。次に会うときは、とても珍しいというオオスズメバチの巣の写真のことや、6月まで採れ続けるという魔法のタラの木の話もじっくり聞きたい。どの話もきっと一級品で面白いはずだ。

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