川廷さんとともに学ぶ 未来を変える浜松のSDGs/【対談記事】株式会社平出章商店

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今回訪問したのは、製菓材料や製パン材料、パッケージ、製菓機械の専門商社である平出章(ひらいであきら)商店。同社は、廃棄される規格外のフルーツなどを製菓製パン材料として商品化し、生産者とスイーツ店をつなぐ事業もしています。

 

代表取締役社長の平出慎一郎さんと、つながり創造事業部 社長室室長の泰澤友和さんから取り組みの背景など、お話を伺いました。

 

【SDGs達成に向けた取組のポイント】

  • 地元の農産物を使いたい製菓製パン店と、規格外の農作物の活用を考える生産者とをSDGsでつなぐ取組である。
  • 生産者、障がい者支援施設、製菓製パン店といった多様なステークホルダーと価値観を共有して取り組んでいる。

 

 

地域に寄り添い、人をつなげながら未来を共創する

創業から受け継がれる、地域への思い

川廷昌弘さん(以下、川廷):平出章商店は昭和24(1949)年に創業されたそうですね。

 

平出慎一郎さん(以下、平出):私の祖父が創業し、今年で75周年になります。薬剤師だった祖父は、戦前、満州病院で働いていました。終戦を迎え、なんとか日本へ帰ってきたのですが無一文だったため、人工甘味料を仕入れ、パン屋さんに販売しました。当時、砂糖も小麦粉もなく、作ることができる甘いものはアイスキャンディーだけでした。お菓子屋も、パン屋もたいへんな状況の中、甘いものを食べて喜んでほしいという思いで創業したといいます。その後、製菓店などとのつながりを大切に、原材料の調達などをサポートする今の仕事につながっていきました。

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代表取締役社長の平出慎一郎さん。社長を引き継ぎ、10年になる

 

川廷:お祖父さまから続く会社を受け継ぎ、社長として大事にされていることは何でしょうか?

 

平出:「地域に対して信頼される」「ずるいことはしない」「本物を売る」というところは、変わらず大事にしていきたいと考えています。特に、「地域貢献」は、代々大切にしてきたものです。これは父から聞いた話ですが、祖父はよく「日本という国が守られたから、満州から帰ってこられたし、郷土の土を踏むことができた」と、口にしていたそうです。そんな思いが根っこにあるので、利益を出して税金を納めることはもちろん、日本や地域に貢献するのは当たり前のこととして教えられてきました。

 

10年前、私が社長になったときに経営理念を新しくしたのですが、「社員の幸せ」「企業の永続」「社会への貢献」という言葉を取り入れたのも、祖父から受け継いだ思いがありますし、SDGsの取り組みにも通じている考えです。

 

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経営理念として「社員の幸せ」を第一に掲げる。

 

川廷:事業そのものが、人と人をつなぐ仕事ですね。

 

平出:はい。経営理念の中に、『「つながり」創造企業』という言葉を掲げています。先日も、焼津に移転オープンするお菓子屋さんから、オープンまでの1ヶ月間、お店の職人を研修に出したいというご相談を受けました。そこで、弊社の社員が浜松市内のお菓子屋さんに相談し、おつなぎすることができました。

 

営業担当は、お客さまからの相談に応えられたことをとても喜んでいました。また、彼が「これが『つながり創造企業』なんだと理解しました」と言ってくれたのが、何よりもうれしかったですね。

 

川廷:お客さまとの距離が近く、良い関係性を築けているからこそ実現できたことですね。人を育てることはとても大事なことで、組織が変わっていくきっかけの一つだと思います。

 

 

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インタビューをする川廷昌弘さん

一冊の本から始まったSDGsへの取り組み

川廷:SDGsに取り組もうと考えられたきっかけを教えてください。

 

平出:SDGsが今のように知られていない頃、家族で動物園に行きました。『ゾウの森とポテトチップス』という本を買ったら、ゾウにエサをあげられるイベントをしていて、息子がどうしてもしたいと。本に興味はなかったのですが、せっかく買ったのだからと読んでみると、パーム油が動物や自然を傷つけているという内容で、とてもショックを受けたんです。

 

パーム油をはじめ、会社が取り扱っている植物性油脂やチョコレートにも、似たような背景があることを知りました。このままではまずいなと思い、知り合いで、この本を出版しているNPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンのスタッフと話をしている中で、SDGsについて教えてもらい、取り組みを始めることにしました。

 

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SDGs取り組みのきっかけになった『ゾウの森とポテトチップス』(横塚眞己人、そうえん社)

 

川廷:お子さんの一言がきっかけだったのですね。社内でSDGsの取り組みは、どのように進められてきたのですか?

 

平出:地元の信用金庫の方を招いて、SDGsの勉強会をしたのが最初だと思います。あと、私が社長になったタイミングで、レクリエーション委員会や5S委員会など、全ての社員が参加する社内委員会を立ち上げました。その中にSDGs委員会があり、活動の一つとして社内へ情報共有するための「SDGs通信」を発行しています。

 

泰澤(たいざわ)友和さん(以下、泰澤):弊社主催の展示会をしたとき、脱プラスチック製品など、材料メーカーさんが取り組まれているSDGsに関連した製品を紹介するコーナーを企画しました。しかし、2018年当時、SDGsはあまり知られてなく、製品がほとんど集まらないということもありました。

 

 

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つながり創造事業部 社長室室長の泰澤友和さん

 

川廷:国連事務総長はSDGsの取り組みについて、「本業そのもので、課題を解決してほしい」と言っています。御社ではどのような事業で取り組まれていますか?

 

平出:当社の主要事業は、流通している製菓材料の仕入れ販売です。このため、種類の豊富さや価格の安さで比較されてしまいます。他社との差別化を図るためにも、お客さまのニーズにあった商品、地域に貢献できる商品、他社が扱っていない商品を開発したいと考えていました。

 

泰澤:農家さんから余ったレモンの皮をもらい、焼き菓子に使うレモンミンス(ピール)を作ったところ好評で、大手企業からもっと欲しいという要望をいただきました。ただ、それに応えるためには、2トンものレモンが必要でした。そこで、規格外のため一般に流通しない未利用のレモンに目を付けました。

 

ただ、レモンの皮を大量に集めようと思うと、誰かが皮をむく必要がありますので、障がい者就労支援施設さんと連携し、皮むき作業を依頼することになりました。そのようにして、関わる人たちを少しずつ増やしながら農産物の加工商品を作っていきました。

 

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品質は問題ないものの、形がふぞろいだったり、傷があったりして販売できないレモンを活用。就労支援施設で一つひとつ丁寧に皮をむいていく

 

川廷:規格外の未利用レモンを使うことで、食品ロスの削減だけでなく、農家さんの収入も増え、障がい者の仕事も生まれるわけですね。

 

泰澤:はい。細かな話をすると、作業をお願いする障がい者就労支援施設では、元々みかんの果汁をしぼる作業もしていました。ただ、レモンの旬はみかんと同じ時期なので、施設としては仕事をもらえるのはうれしいけれど、作業量が一時期に集中することは望んでいなかったんですね。

 

話を聞くと、5月は閑散期だと分かりましたので、冬に収穫したレモンを冷凍保存し、5月以降に作業を依頼することで、作業量を平準化し、ニーズに合った仕事と工賃を作ることができました。関わる人の困りごとを解決しながら仕組みを作れたことが、とてもうれしいですね。

 

川廷:そもそも、どうして資材の仕入れ販売に加えて、農産物加工の仕事を始められたのですか?

 

泰澤:私が前の会社で働いていた時に、出会った生産者さんから「自分たちが一生懸命に作っている農産物が、お客さんのところに正しく伝わっていない」と言われたんです。生産者さんが手間ひまかけて育てた野菜も、効率を優先して育てた野菜と一緒くたにされ、同じ価格で売られていました。

 

私はマスコミで働いていた経験もあり、農産物に情報やストーリーを付けることで、正しく売れるようになると感じました。調べてみると、そのような仕事をしている人はいない。だったら、地元のことを大好きな自分がすべきだと感じ、農家さんとお客さまをつなぐ仕事を始めました。

 

川廷:生産者の想いから始まって、流通の課題を乗り越えて顔が見える形で消費者に届くように事業に取り組んでいらっしゃるということで、生産者のモチベーション向上にもつながっていますね。

一人ひとりの自己実現が、課題解決の大きな力になる

川廷:経営理念にある「社員の幸せ」を実現するためには、仕組みが大切ですよね。

 

平出:はい。社員一人ひとりが仕事を通じて、自分のしたいことを実現してくれることが願いです。プライベートでの経験を会社で生かしたり、逆に、会社で学んだことを自分の目標に生かしてもらったりしても構いません。

 

だからこそ、人事理念に記した「人間性を磨き、幅広い見識と経験を重ね、会社だけでなく、社会で活躍できる人材を目指す」という考えを大切に、一人ひとりの成長をサポートしていきたいと思っています。

 

川廷:企業の規模が大きくなると、組織としてSDGsに取り組むことが前提となり、なぜ取り組むのかという社員一人ひとりの動機が明確に整理できていない場合もあります。一方で、中小企業は企業理念を軸に、社員一人ひとりが動きやすい環境を作りやすいと思います。その結果、意図せずともSDGsのゴールにつながる取り組みが生まれやすいと考えています。

 

平出:よく「どのSDGsのゴールを目指しているのですか?」と聞かれるんですが、特定のゴールを意識していないんです(笑)。

 

川廷:その考えでいいと思いますよ。もちろん具体的な目標設定は欠かせませんが、SDGsの本質は人間開発なんです。SDGsは経済発展を通じて一人ひとりが幸せを実現するための仕組みです。SDGsの17のゴールは、一つひとつが独立しているわけではなくて繋がっています。

平出章商店として、社員の自己実現を大切にしながら、様々な事業の「つながり」を通じて社会課題を解決に取り組むことで、流行り物のSDGsではない、本当のSDGsを語れる会社になると思います。

中小企業が大切にしている「企業理念」や「人事理念」、「地域課題とどう向き合っているか」というところを、どのように情報発信していくのか、ここには課題があると感じていますので、自社の理念や取組を発信していただくことは大切だと感じています。

 

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SDGsの取り組み方などについて意見を交わし、真剣に聴き入る平出社長と泰澤さん

 

泰澤:レモンを例に取ると、未利用だったレモンを使わせてもらうことで、出荷してくれるレモン農家さんの数は増えたし、私たちが使うための規格外専用の規格も新たにできました。お菓子屋さんも、この取り組みを価値あるものとして受け入れ、レモンケーキのストーリーとして自社のホームページで大きく紹介していますし、お店の人気商品になっていると聞いています。

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平出章商店のレモンミンス(ピール)を使った菓子巧房ほほえみのレモンケーキ

 

川廷:関わる全ての人が幸せになっていて素晴らしいですね。今後の展開について教えてください。

 

泰澤:農産物加工については、県外で行っている加工を地元で行いたいと考えています。実は近くのトウモロコシ農家さんから、閑散期に加工場を使わないかという声をいただき、イチゴのヘタ取りや洗浄など、年間を通して稼働できるように準備を進めています。

 

この取り組みが実現すれば、物流や冷凍冷蔵庫などのインフラも必要になります。さらに、農家さんをはじめ関係者が助け合える場や、農産物加工に関わる方々のネットワークも作りたいですね。今は浜松の課題として取り組んでいますが、このモデルが成功すれば、他の地域でも同じ取り組みができるのではないかと考えています。

 

川廷:横展開できる地域モデルですね。誰が、なぜ、どのような事業で、目標を設定し実現できたのかという浜松での実績が、他の地域やグローバルな課題を解決するモデルになっていくと良いですね。今後のご活躍を期待しています。

 

本日は、ありがとうございました。

 

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(まとめ)

平出章商店では、社員の幸せを経営理念に掲げ、人材育成システム等により社員一人ひとりが自分の思いを実現できる企業風土が培われていることがよく分かりました。「社長や上司の指示だから」という理由だけでSDGsに取り組むと、それはノルマになってしまいます。大切なのは、本人が何を思い、活動するかです。本気で取り組む中小企業にこそ、多くの大企業が学ぶべきヒントがあると言えます。(川廷)

 

株式会社平出章商店

浜松市を中心とした製菓材料や製パン材料、製菓機械の専門商社。「つながり創造企業」をキーワードに、メーカーと製菓店はもちろん、製菓店同士、農業生産者と製菓店など、幅広いつながりをつくり出し、業界の発展、地域貢献に取り組んでいる。

https://www.hiraide.jp

 

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