川廷さんとともに学ぶ 未来を変える浜松のSDGs

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浜松市は、SDGsの達成に向けさまざまな活動に取り組む企業や団体、個人の交流や情報交換などを目的に、2019年に「浜松市SDGs推進プラットフォーム」を立ち上げ、シンポジウムやミーティングを行ってきました。

 

さまざまなステークホルダーとともに、SDGsの達成を目指すにあたって、そもそもSDGsとはどういった存在なのか、また、達成に向け取り組むにあたって大事なポイントはなんなのか。SDGsの第一人者で、浜松市SDGs推進アドバイザーの川廷昌弘さんに、ご自身のこと、SDGsについてお話を伺いました。

SDGsは世界の環境問題と人権問題を解決する有効なツール

——川廷さんとSDGsとの出会いについて教えてください。

 

17あるSDGsのゴールを日本語化するプロジェクトにプロデューサーとして関わりました。なぜそれをしたのかと言うと、話は2005年にさかのぼります。当時、環境省が行っていた温室効果ガス削減に取り組む「チーム・マイナス6%」のメディアコンセプトをプロデュースしたことで、環境問題に関心を持つようになったんです。クールビズやエコバッグ、エアコンの設定温度といった日々の生活の中に取り入れやすく、継続しやすい6つのアクションを活用しました。個人はもちろん、企業が気候変動への問題意識を持ち業務に取り組むことで、CO₂を大きく削減できるのではないかと、さまざまな仕掛けをしたことが原点になっています。

 

——環境問題や人権問題を、SDGsがつないでいくのですね。

 

「気候変動」「生物多様性」「森林保全」は、国連が示す環境問題の3大テーマだと私は考えます。さらに、この3つのテーマを環境問題と考えずに社会や経済の問題、そして人権問題へのつながりに思いを届かせてくれるのがSDGsです。ですから、企業活動とかけ離れたボランティア的な社会貢献活動だけではなく、本来の企業活動に即し、利益をともなうCSRを本業で捉えた経営として行えないかと考えることができると思います。これまで、気候変動、生物多様性、森林保全の取り組みが個別で行われ、相乗効果を得られていないとこに気づき、それらを横串で刺すような取り組みが喫緊の課題でした。そんな時、国連でSDGsの議論が始まりました。2015年にSDGsが採択され、『共通言語』として発表されたアイコンを見て、『非常によいコミュニケーションツール』だと感じる一方、日本人の生活の中に入っていくためには、日本語が必要だと感じ、先ほどお話しした翻訳の協力を国連に申し出たんです。日本語化にあたっては、SDGsの『自分ごと化』を進めるため、呼びかけ言葉や日常の言葉を使ってわかりやすい表現を心掛けました。

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例えば、ゴール12は「責任ある消費と生産」ではなく、「つくる責任つかう責任」とした。

 

——今は自治体などでSDGsのアドバイザーをされていますね。

 

個人や企業による取り組みも大事ですが、行政が部門を超えて取り組まなければ、本質的な解決につながらないと考えていた時、神奈川県からSDGs推進担当顧問の要請があり、県民としてありがたくお受けしました。その後、神奈川県の基礎自治体からも相談があり、自分の考えを実装できるのではないかと考え、行政の取り組みに関わるようになっていきました。

 

——浜松市との関わりについて教えてください。

 

以前から関心があり取り組んでいた国際的な森林認証制度であるFSC認証が、SDGsの達成に非常に効果があると、慶応大学の研究者が報告しています。私にとって浜松市は、SDGs未来都市であり、FSC認証された森林を持つ象徴的な都市でした。2022年2月、その浜松市からアドバイザーのお話があり、喜んでお受けしました。持続可能な森林を維持管理していくためにはFSC認証が重要と言われ、それが本当に有効なのか検証するためには浜松市の協力は欠かせません。浜松市には熱意ある林業関係者や自治体職員が多く、私も積極的に応援、協力したいと思っています。

 

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浜松市SDGs推進アドバイザーを委嘱。(2022年2月)

 

——浜松市の印象を教えてください。

 

多文化共生というか、多様な文化が世代を超えて根付いている印象を受けました。多様な背景を持つ人たちが、未来に向けて取り組んでいる姿は、他の地方自治体にとって学びのある先進的な地域となっていると思います。

もう、自分だけが幸せでいいという時代ではない

——SDGsとは、どのようなものだと考えますか?

 

私にとっては、人生そのものですね。自分が幸せに生きていこうと思ったら、人のため、世のためになることをすることで、人脈が広がり、知識も増え、豊かな人生として自分に返ってきます。その分かりやすいツールがSDGsだと言えます。

 

——では、企業とSDGsの関わりとはどのようなものでしょうか。

 

単純に言えば、個人ではできなかったことが、企業の資本があれば可能になります。経営者にSDGsのスイッチが入ったら、商品開発者にSDGsのスイッチが入ったら、どんな世の中になるんだろうとワクワクしませんか?ただ、大事なのは主体性です。人に言われてするのではなく、自ら気づき、行動するのが、SDGsの本当の使い方だと考えます。

 

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——SDGsが抱える課題とは?

 

SDGsには国連がつくった17のゴールと169のターゲット、そして232の指標があります。日本では普及啓発がずいぶんと進みましたが、日本独自の目標設定や指標設定ができていません。つまり、一番の課題は、SDGsのローカライズ(自分ごと化)ができていないことなんです。例えば、自治体において、行政運営の計画書である総合計画にSDGsをひも付けることはできます。しかし、その進捗をどのように計測していくかが課題で、私自身も自治体の方はもちろん企業や研究者や市民組織の方とも議論をしています。

 

——浜松のSDGsの取り組みをどのように見ますか?

 

浜松市には、30年後の理想とする未来の姿を描いた「1ダースの未来」というものがあります。SDGsのメッセージがちりばめられた素晴らしいもので、浜松はすでにSDGsのローカライズができています。あとは仲間をつなぐコミュニケーションツールとして、「1ダースの未来」をどのように活用していくかなど、浜松市がSDGsに取り組む先進都市として、次の姿を見せることができると期待しています。

 

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SDGsのメリット、デメリットを理解し、企業活動に賢く生かす

——企業の取り組みは、個人のそれと比べ、波及効果や影響力が大きいと言えます。SDGsに取り組む企業に対してアドバイスをお願いします。

 

おこがましい話ですが、その企業が創業した背景、なぜ、この事業を行っているのか振り返ることにヒントがあるはずです。今、創業者の思いや企業理念を従業員みんなが理解し、取り組めているのか問われています。時代の変化に応じて、よりよい事業経営ができるように考えていくことが、重要ではないでしょうか。

 

——そのために必要なことはどのようなことでしょうか?

 

これまでの経験から気づいたのは、「経営者に良質なインプットをすることで、良質なガバナンスが生まれる」ということ。よく、トップダウンになれば企業のSDGsは進むと言われますが、必ずしも正しいとは言えません。よいトップダウン、つまりよいガバナンスを生ませるためには、経営者に対し、よいインプットをしていくことが重要です。

 

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——地方では、企業活動そのものが地域の課題解決に直結していることも少なくありません。企業が今、SDGsを活用するメリットは何でしょうか?

 

誤解して欲しくないのは、SDGsを企業活動に取り込み、発信することは必須ではありません。なぜSDGsを使うのかと言うと、コミュニケーションツールであり、企業の取り組みの見える化だからなんです。例えば、この事業はSDGsの「貧困をなくそう」に貢献しているし、「質の高い教育をみんなに」にもつながっていると説明されると、非常に分かりやすいので、使ってみてはいかがですかという話です。また、SDGsを意識したサステナブル経営は、金融機関や投資家など、企業を応援する側の理解を助けます。そして、何より地域でSDGsを学ぶ次世代が期待する企業像を提供することも可能になります。そんなことをしなくても、自社のメッセージは伝わっていると思うのであれば、無理にSDGsを使う必要はないと私は考えます。

 

——一方で、SDGsを使うデメリットもあります。

 

SDGsの目標年である2030年までに何を目指しているかを示すことが大事で、単に現在行っていることにラベリングをするだけでは、SDGsウォッシュと指摘されてしまいます。SDGsが流行っているから我が社もというのは大きな間違いです。SDGsを活用しなくても従業員や地域のために行動することはできます。

 

※SDGsウォッシュ…ホワイトウォッシュ(汚れた壁を白く塗ってごまかす)が語源。うわべだけのSDGs。取り組んでいると見せかけ、実態が伴っていない。

 

——最後に、これからの意気込みを教えてください。

 

全国でSDGsの認知が約8割程度になってきて世界でもトップクラスです。一方で内容を詳しく知っているのは世界で最も少ないと言われています。これを前進させるためには、企業や団体の一つひとつの取り組みを丁寧にお聞きする機会が重要になってくると考えています。国連は、SDGs達成のためには実際に取り組む地域や個人に落とし込むことが重要、つまりローカライジングが重要だと言っています。今後、浜松の会社や団体の訪問を通じて、浜松らしいSDGs達成に向けた取り組みを学び応援したいと思っています。

 

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川廷 昌弘(かわてい まさひろ)さん

博士(環境学)/株式会社博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 SDGs推進担当部長

 

兵庫県芦屋市生まれ。1986年博報堂入社。テレビ番組「情熱大陸」の立ち上げに関わる。地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」でメディアコンテンツを統括。現在はSDGs に専従。外務省や内閣府のSDGs関連事業などを受託。環境省SDGsステークホルダーズ・ミーティング構成員。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンSDGsタスクフォース・リーダー。神奈川県顧問(SDGs推進担当)。鎌倉市、小田原市、茅ヶ崎市、相模原市、京丹後市のSDGs推進アドバイザー、FSCジャパン・コミュニケーションアドバイザーなど委嘱多数。また、公益社団法人日本写真家協会の会員として「地域の大切な資産、守りたい情景、記憶の風景を撮る」をテーマに活動する写真家でもある。

 

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