川廷さんとともに学ぶ 未来を変える浜松のSDGs/【対談記事】株式会社アトランス

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浜松市SDGs推進アドバイザーである川廷昌弘(かわていまさひろ)さんが、SDGsに積極的に取り組む企業や団体を訪問し、その思いや考えを共有し、浜松の未来を考える特別企画。今回は、浜松市中央区にある運送会社「株式会社アトランス」を訪問しました。

 

同社は、健康経営や安全管理への取り組みが評価され、2022年「浜松ウエルネス大賞(健康経営部門)」を受賞しています。代表取締役の渡邉次彦さんと、健康推進室リーダーの岩川久美さんを訪ね、SDGsの取り組みの背景や課題など、お話を伺いました。

 

経営者視点から始めた健康経営・SDGsとつながり見つけた自社の価値

自社課題への取り組みが、SDGsだった

川廷昌弘さん(以下、川廷):最初に、アトランスさんの事業内容を教えてください。

 

渡邉次彦さん(以下、渡邉):1979年に創業し、私は2代目として30年ほど社長をしています。住宅設備機器や家電、最近ではドラッグストア向けのトイレタリーなど、静岡県西部や中部を中心に配送をする会社です。社員は52名おり、ドライバーは23歳から70歳超。平均年齢は40代後半と高く、これが健康経営を始めるきっかけになりました。高齢のドライバーが事故を起こさないように、そしてできるだけ長く生き生きと元気に活躍してもらいたいという想いからです。

 

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株式会社アトランスの代表取締役である渡邉次彦さん

 

川廷:社員の健康をいの一番に取り組まれていることに感心します。どのような問題意識から始められたのでしょうか。

 

渡邉:運送会社の社会的使命は、安全に物を運ぶこと。それを実現するためにさまざまな取り組みをしていますが、最大のポイントは、ドライバー自身の体調、コンディションです。設備やインフラも重要ですが、ハンドルを握るドライバーが、心身ともに健康であることが重要なんです。社員のために健康経営をしているというのは優等生過ぎる話で(笑)、経営者として会社の社会的使命を果たすために、安全を実現するためにドライバーには健康であってほしく健康経営をしています。

 

川廷:取り組みを始められて社員さんの反応はいかがでしたか?

 

渡邉:日常的に行っている事故を防ぐための安全教育は、あれをしてはダメ、これをしてはダメとなりがちで、ドライバーも気乗りしていないというか、少し後ろ向きなのですが(笑)。でも、健康管理の話は、本人もメリットを感じやすいためかスッと入っていく。健康管理は、本人のためでもあり、安全運転という目的を実現するための一つの手段でもあります。

 

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浜松市SDGs推進アドバイザーである川廷昌弘さん

 

川廷:ということは、SDGsが念頭にあったわけではないんですね。

 

渡邉:はい。自社の問題として取り組んで来たことが、結果的にSDGsにひも付いていました。自社サイトでも取り組みを発信していますが、対外的と言うよりも、社内向けの意味が大きく、今回取材を受けたのも社内への波及効果を考えてのことです。自分たちのためにしている健康管理や安全対策が、実は世の中に必要とされていて、それをすることで世の中がよくなり、持続可能な社会をつくっているんだと社員に伝えています。

主体性を持たせる仕組みが、社員のモチベーションを育む

川廷:SDGsとの出会いは?

 

渡邉:浜松市SDGs推進プラットフォームです。

 

川廷:うれしいですね(笑)

 

渡邉:もちろん、経営者としてSDGsのことは知っていました。社員にSDGsの本を見せ、自社の取り組みがSDGsにつながっていると言っても、いまいちピンときていない。であれば、もっとオフィシャルな形で取り組んだ方が効果的だと考え、浜松市SDGs推進プラットフォームに参画しました。例えば、天竜の森や環境を守ることだよと具体的に話した方が、社員もイメージしやすいみたいです。

 

川廷:渡邉社長にスイッチが入った感じですね。

 

渡邉:50人規模の会社なので、まずは私から始めています。でも、健康経営は逆で、岩川から提案がありました。

 

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健康推進室で健康推進リーダーとして活躍する岩川久美さん

 

岩川久美さん(以下、岩川):協会けんぽ静岡さんとお話しする機会があり、以前から行っていた血圧計の設置や健康診断後の保健指導などの取り組みを見られて、健康経営を勧められました。渡邉に提案したところ、やってみようとなったのがきっかけです。

 

川廷:健康経営がSDGsとひも付いていると分かり、どのように感じましたか?

 

岩川:SDGsはニュースで知っていた程度でしたが、今は、健康経営も、働きやすい職場認証も、会社でしていることがSDGsにひも付いていたんだなと感じています。自分たちのしていることが、社会的に意義のあることだというのはモチベーションになっていますし、他にも何かできることはないかと意識を向けるようになったと思います。渡邉から本をもらい、まだまだ勉強中ですが。

 

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渡邉社長から送られた川廷さんの著書『未来をつくる道具 わたしたちのSDGs』には、たくさんの付箋が貼られている

 

川廷:運送会社なので、CO₂削減といった環境経営が先なのかなと思っていたため、お話を聞き、驚いています。これってSDGsで一番大切なことで、環境対策も安全管理も大事ですが、まずは人が健康でないと、という話です。SDGsも一人ひとりが健康に生きていくために気候変動を止めましょう、貧困をなくしましょうと考えることが重要です。「健康な地球は人間の健康も守る」です。

 

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川廷さんの話を聞き逃すまいとメモを取る渡邉さん

 

川廷:そこで大切になるのが個々の主体性で、アトランスさんはそれをうまく引き出されている。先ほど見せていただいた安全宣言の標語も、他の人と同じものを書いちゃダメだよとちゃかしながら、ちゃんと指導されている。自分の気づきを言葉にすることで安全運転をしようという心がけにつながっていて、それがとても大事。集まった安全宣言をまとめて地域に届けても面白いですね。また、安全宣言の標語の中には、渡邉社長への良質なインプットがあり、ビジネスの成長につながるかもしれません。

 

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社内に掲示された安全への取り組みを紹介する渡邉社長。「夕暮れの走行は注意する」「リフト作業前に周囲の安全確認を行う」など、宣言は社員一人ひとりが手書きしたもの

 

川廷:日本は、高度成長期に公害問題を引き起こしたこともあり、大企業を中心に温暖化の防止やCO₂削減など、環境問題から入りがちです。しかし、渡邉社長は環境経営でなく、健康経営から始められているのが素晴らしい。みんなで安全管理に取り組んでいけば、環境保全につながるんだという考え方は、とても参考になります。「わたしたちアトランスは、社員の健康を大事にしているんです。それが私たちのSDGsです」って言ってくださったら、かっこいいなあ(笑)

社会のつながりの中で、脱炭素問題を考えてみる

川廷:脱炭素の取り組みは難しく、車の性能が上がったとしても、走ればCO₂は出てしまいます。急発進、急ブレーキをひかえるなど、いろいろと努力されているかと思いますが、脱炭素についてどのようにお考えですか?

 

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渡邉:荷物を運ぶためには走らなければいけないので、効率のよい配送など、業務の効率化を進めることが私たちのできることだと思います。CO₂を出さないということで電気自動車(EV車)が注目されています。EVトラックはまだ実証実験段階で本格的な実用化にはまだ時間がかかりそうです。価格も相当高価でしょうし、バッテリーを積む分、荷物の積載量は減ってしまいます。仮に高額のEVトラックを購入したとしても、運賃はディーゼル車と同じと言われたら、運送会社は身も蓋もありません。

 

川廷:確かに、EVトラックだから運送費を倍にしたいと言っても難しそうですね。

 

渡邉:ですので、配送が終わるまでに、どれだけCO₂を排出したか見える化し、荷物を発送する側(荷主企業等)が最後まで責任を持つことが重要だと思います。CO₂を遠慮なしに出す運送会社なのか、CO₂に配慮した運送会社なのか、荷主側がCO₂に対してどのように考え、選択するかが重要だと思います。

 

川廷:運送会社だけの責任ではなく、社会全体の責任として考える必要があるわけですね。再配達の問題のように、社会全体で考えることで、運賃の値上げだけではない、新しいアイデアや解決策を導き出せるかもしれません。渡邉社長がおっしゃる提案は、非常に大切なことだと思います。最後に、今後の取り組みについて教えてください。

 

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社内や倉庫の壁には、障害者アートが飾られている。業務の大半がトラック運送のため障害者雇用が難しく、今できることとして「まちじゅうアート」という障害者のアート作品のレンタルを通じて応援【作品名:超密/作者:田中拓実(waC)】

 

渡邉:当初の目的は、社員のモチベーションアップでした。今はSDGsを活用し、この会社で働くことが誇りと思えるような会社づくりをしたいと考えています。運送業界であれば、他社も安全管理としてさまざまな取り組みをされているので、それぞれの経営者がSDGsと結び付け、企業の価値向上を図ってもらいたいです。運送の仕事は世の中になくてはならない仕事ですし、業界の底上げにもつなげたいですから。あとは、浜松市SDGs推進プラットフォーム会員での交流や、テーマを深掘りする分科会をしたいですね。

 

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インタビューは和やかな雰囲気で行われ、川廷さんの話からSDGsへの取り組みのヒントが受け取れたよう

 

川廷:いいですね。アトランスさんにはぜひ、健康経営分科会をお願いしたいです(笑)。17のゴールのもとに集まることはできても、取り組みは自治体、業界、会社によってローカライズする必要があります。それぞれの取り組み方を共有し、自社に取り入れていくのが重要です。一方で、SDGsを表明すると2030年に向けて何を目標にするのかという話も付いてきます。国連には数値目標がありますが、日本には数値目標がないため、何をもって達成とするかが難しく、それを企業だけに求めることに私は違和感を持っています。

 

渡邉:私には大学生の娘がいて、SDGsについていろいろと勉強しているようです。先日も、お父さんの会社でSDGsに取り組んでいるけれど、目標は何?どこに行きたいの?って(笑)。確かに、明確なゴールがあるかと言えば、ないんですよね。現状はまだいいのかもしれませんが、本当にSDGsに取り組んでいるって胸を張って言うためには、最終的に自分たちがどこに行きたいかは答えられる必要があると思います。

 

川廷:2030年まであと7年。SDGsに取り組む企業も増えています。我々がどこに行きたいのかディスカッションし、さまざまな意見交換することがプラットフォームの役割だと強く感じました。本日は、ありがとうございました。

 

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株式会社アトランス

1979年創業。静岡県浜松市、藤枝市、焼津市を中心に、倉庫保管サービスから着店チャーターといった、さまざまな物流サービスを手がける。「品質」「安全」「環境」を大切に、地域密着型のサービスを行う。

https://www.logi-best.net/

 

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