国の調査では、全国の2021年の子どもの貧困率は11.5%(※1)であり、日本においても子どもの貧困が課題となっています。吉田さんは、中学生の時にSDGsについて学習し、子どもの貧困に関心を持ちました。「浜松市の子どもの貧困を変えたい」と思い、現在は市内の子ども食堂でボランティア活動に参加しているほか、世界幸福度ランキング1位(※2)のフィンランドに留学しました。
帰国後、高校生団体を立ち上げた吉田さんに取組への思いや今後の目標などについて、お話を伺いました。
※1 厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査」
※2 世界幸福度報告(World Happiness Report)(2024年)
──子どもの貧困に関心を持ったきっかけを教えてください。
吉田さん:中学校でSDGsについて学んだことがきっかけです。その時に子供の貧困に1番興味を持ちました。高校生になり、探究の時間で浜松市役所の方にお話を伺う機会があって、子供の貧困などについて色々聞かせていただいたこともきっかけだと思います。私は、小さなころから子どもを助ける医師になりたかったのですが、血を見るのがどうしても苦手で……。今は、法の力で子どもを守る弁護士になりたいと思っています。そのために、貧困やいじめなど、子どもたちが抱える問題の根本を高校生のうちに学びたいと思うようになりました。
──フィンランド留学では、どのようなことをしましたか?
吉田さん:2024年の8月から9月の1カ月間、首都ヘルシンキと、その隣のエスポーに滞在しました。小学校2校、中学校2校、高校1校を訪問し、アシスタントティーチャーとして先生のお手伝いをしたり、授業を受けたりするほか、日本や静岡について紹介する機会もいただきました。
留学先では日本や静岡について紹介した
──現地でアンケートもされたそうですね。
吉田さん:はい。幸福と貧困の関係は見た目だけでは分かりにくいので、実際に子どもたちの意識を数値として見えるように、内閣府などが行っている調査を参考にアンケートを作成しました。
設問の内容は、「クラスで役に立っていると思いますか?」「家族で旅行に行きますか?」「相談できる人はいますか?」など、小学生向けの質問を15項目ほど用意しました。留学前に日本の小学校2校でアンケートを実施し、フィンランドでも5つの学校で実施しました。
──アンケートの結果から、どのようなことが分かりましたか?
吉田さん:学習面では、日本は「基礎学力の定着を重視する」のに対し、フィンランドは、「楽しみながら学習する」ところが大きな違いだと感じました。授業をただ聞くのではなく、体を動かしたり、自分の興味のあることを探求したりする機会が多いと感じました。
フィンランドでアシスタントティーチャーを務めた学校の子どもたち
──幸福度と貧困の関係について、何か気づきはありましたか?
吉田さん:フィンランドは、「チャレンジする環境」が整っていて、子どもたちの意欲や向上心につながっていると感じました。日本人は、自己肯定感がそれほど高くない傾向にあるからなのか、「やってみたい」と思っても一歩踏み出すのに勇気が必要です。でも、フィンランドではチャレンジのハードルが低く、その違いが幸福度にも表れているのではないかと思います。ただ、文化や生活習慣の違いがどの程度影響しているかは、まだはっきりと言えないため、これからも調べていきたいです。
──帰国後、高校生団体「Fuji’s teens」を設立し、代表もされているそうですね。
吉田さん:はい。「静岡の全ての人が幸せに暮らせる街」を目指して、「Fuji’s teens」を設立しました。文部科学省の留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」を利用して留学した静岡県の高校生20人ほどが参加しています。
子どもの貧困を解決するには、私ひとりの力では限界がありますし、私の視点だけでは考えが偏ってしまいます。「トビタテ!留学JAPAN」には、福祉や観光など、さまざまな目的で留学した高校生がいるので、いろいろな視点を集めることで、よりよい静岡になれるのではと思いました。今では、全国の「トビタテ!留学JAPAN」の仲間も参加してくれるようになりました。
「Fuji’s teens」では、「トビタテ!留学JAPAN」の書類作成のサポートや、「SERENDIPITYーSHIZUOKA TANKYU COLLECTION」などのイベントにも参加している。
──子ども食堂のボランティアは、いつから始めましたか?
吉田さん:2024年の6月ごろから参加しています。フィンランド留学のための留学エージェントがなかなか見つからず、以前通っていた英語教室に相談しました。その英語教室の隣で子ども食堂が開かれていて、「参加してみない?」と誘われたのがきっかけでした。子ども食堂は毎週水曜の17時から始まるので、学校が終わってから駆けつけ、準備や配膳を手伝っています。私を含めて3人の高校生がボランティアとして活躍しています。
──子ども食堂には、どれくらいの人が集まるのですか?
吉田さん:保護者の方を含めて毎回80人ほどで、多いときには100人になることもあります。最初は、子ども食堂は「経済的に厳しい環境の子どもが来る場所」だと思っていました。でも、主催しているNPO法人の方々が「子どもの居場所づくり」をとても大切にしていて、子ども食堂は必ずしもそういう子どもだけが来る場所ではないということを参加して学びました。私自身、子どもの貧困は、親や子どもの孤立から始まると思っています。だからこそ、みんなが気軽に話せ、わいわい楽しめる場所がとても大切だと考えています。もちろん、経済的な理由で来る方もいますが、友だちと遊んだ後に立ち寄る子どもや、息抜きに参加する親子もいて、いろんな人が集まる地域のコミュニティの場にもなっています。
──ボランティアを始めてから、周りの反応はどうですか?
吉田さん:SNSで活動の様子を発信すると、それを見た中学生や高校生から「私もやってみたい」という声が届くのがうれしいです。でも、参加したいと思っても、高校生が参加できるボランティアは意外と少ないように感じます。食材を無料で提供する「フードパントリー」は誰でも参加できるので、今度友だちと一緒に行こうと話しています。
浜松市主催の地方創生SDGsコンテストで優秀賞を受賞した吉田さん。副賞でもらったカタログギフトを子ども食堂に寄付し、みんなで餃子を楽しんだ。
──フィンランド留学や子ども食堂のボランティアを経験して、普段の生活や行動に変化はありましたか?
吉田さん:留学やボランティアを始めるまでは、自分から行動するのが苦手でした。本当は「やりたい」って思っても、「私には無理かな」と思って諦めてしまうことが多かったです。でも、一歩踏み出したことで、自分の思いをしっかり発言できるようになったし、行動に移せるようになりました。
──SDGsの達成に向けて、浜松の貧困問題を解決するために、何かアイデアはありますか?
吉田さん:フィンランドに行って一番驚いたのは、教育福祉の充実です。高校まで鉛筆やノート、給食など全てが無料で、そもそもの政策が日本と大きく違うと感じました。日本の政策を変えるのは簡単ではありませんが、企業やNPO団体が力を合わせれば、できることはたくさんあると思うので、そういった取り組みにも関わっていきたいです。
浜松にも支援制度はあるけれど、「周りに知られたくない」「まだ大丈夫」といった気持ちから、必要な家庭ほどその情報にたどり着けなかったり、そもそも調べようとしなかったりすることが多いようです。支援制度って聞くと、ちょっと敷居が高く感じられるので、もっと楽しく伝えられるイベントなどがあってもいいかなと思います。
小学生って、「お得」や「楽しい」って言葉にワクワクしますよね(笑)。そういう気持ちで参加した先に支援情報があれば、自然とアクセスしやすくなるし、活動の輪も広がっていくと思います。フィンランドでは支援制度を知っているのが当たり前。制度を使うことに抵抗がないし、地域のつながりも強く、気軽に相談したり、応援しあえる環境が整っていたりします。
──今後の目標を教えてください。
吉田さん:「Fuji's teens」の活動をがんばりたいです。子どもや高校生をはじめ、誰もがチャレンジの一歩を踏み出せるきっかけになるイベントを開催するのが目標です。地方創生SDGsコンテストで企業のSDGsの取組なども知ることができたので、イベントを開催する際にはそういった企業と関われると良いと感じました。
アンケートでは、子ども食堂を知らない小学生がいることも分かりました。子ども食堂やSDGsなどについては、小学生の頃から知っていた方が良いと思うので、学校に行って出張授業などもしてみたいです。
また、SDGsを通じて空き家問題にも関心が出てきていて、大学生になってからの話ですが、市外に出た若者のUターンにつながるような空き家の活用について、企業や行政と連携して取り組んでみたいと思っています。
──吉田さんにとって「幸福」とは何だと思いますか?
吉田さん:人によっていろいろな考え方があると思いますが、「お金持ち=幸福」というわけではないと思います。もちろんお金も大切ですが、それ以上に、支えあえる仲間がいて、心に余裕がある状態こそ、私にとっての「幸福」だと感じます。
──ここまで行動できる原動力は何でしょうか?
吉田さん:誘惑はいっぱいあります(笑)。私も友だちとカラオケに行くのが楽しいですし、でも、やっぱり子どもが好きなので、自分のために何かするよりも、誰かのために動く方が自分の性格に合っていると思います。17年間暮らしてきた浜松が大好きだからこそ、浜松の子どものために、私ができることをこれからも続けていきたいです。
吉田恋菜さん 中学校でのSDGs学習をきっかけに、子どもの貧困に興味を持つ。日本でも子どもの貧困という課題があることを知り、NPO法人しんみらいプロジェクトが運営する子ども食堂でボランティア活動を行うほか、世界幸福度ランキング1位のフィンランドに留学し、福祉や教育について学んだ。帰国後、高校生団体「Fuji’s teens」を設立し、代表を務める。 Fuji’s teens |
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