更新日：2024年1月18日

脚光を浴びる街

北遠随一の面白さ。惹きつけられる”仮装”の魅力（PDF：320KB）

若者たちの間で流行している”コスプレ”
様々なキャラクターを忠実に再現した仮装は、日本だけでなく世界からも注目を集めている。
そんな”コスプレ”を全力で楽しむ祭りがあると聞き、天竜区最北端の町、水窪町を訪れた。

仮装する商店街

町の中央に位置する水窪商店街。
普段は穏やかな時間が流れるそこへ足を踏み入れると、私の目に飛び込んできたのは、装いをがらりと変えた商店街の姿だった。
メインストリートの両脇には露店が立ち並び、地元の若連が祭り囃子を奏でて練り歩く。
道を行き交う人々は、祭り衣装の人や、懐かしいアニメのキャラクターのコスプレなど、様々な格好の人ばかりで思わず目を奪われた。
非日常の風景に我を忘れていると、賑やかな笑い声とともに大がかりな出し物が曳かれてきた。
なにやら巨大な戦車のような出し物。聞くところによると、仮装劇のための舞台だという。
賑わう人混みをかき分け、商店街を移動していた出し物が動きを止めると、数十人もの役者たちが衣装を整えたり、なにやら道具を持ち出したりと、にわかに慌ただしくなる。
そして始まる仮装劇。役者たちがところどころアドリブを加えながら、軽快に進んでいく劇は、思わず笑ってしまう面白さがあった。
「水窪祭りは、仮装劇が目玉の一つ」と、水窪出身の者から聞いていたが、これほどのクオリティとは思ってもみなかった。
仮装劇が終わると、足早にその場を去る役者たち。他の参加者による次の劇が控えているのだ。
先ほどの劇に魅了されてしまった私は、話を伺うべく彼らの背中を追いかけた。

祭り好きな住民

話を聞かせてくれたのは、先ほど仮装劇を演じていた竜戸連の連長を務める坂口能達さん。
竜戸連のシンボルマーク”獅子”の刺繍が施されたハンチング帽が似合う坂口さんは、祭りについて嬉しそうに語ってくれた。
「水窪の祭りっていうのは、特別だよね。他の地域にはない楽しみというか、特別なものがある」
そう言って坂口さんは、様々な仮装で祭りを楽しむ竜戸連の住民たちを見やる。その視線には、どこか誇らしげな感情が込められていた。
「皆、祭り好きな衆ばっかりでね。何をやるにも”よし、やるか”って、動き出しが早いんだ。積極的っていうか、みんなで楽しもうって感じ」
聞けば、先ほどの仮装劇も、皆で意見を出し合って作り上げたという。
今回のテーマは”アカンバチ”地元でよく見かけるスズメバチを題材にしていて、十数年も温められてきた超大作。坂口さん自身も「ここまで大掛かりになるとは思わんかった」と、苦笑いだ。

祭りの準備は暮らしの一部

「参加してるどこの組も同じだろうけど、祭りってのは絆を保ってくれる場だ。皆で集ってまとまって一つの仮装を作り上げる。飲み食いしながらやるのが良い。台詞合わせをして、コミュニケーションをとりながらわいわい賑やかに。とにかく、楽しくやってるから続くんだろうよ」
シーズンになると、生活の一部になっている。楽しそうに語る坂口さんだったが、今後の祭りについて話が及ぶと、顔色がにわかに暗くなった。
聞くと、普段に比べて格段に賑やかな祭りの時期でさえも、徐々に人は減っているという。
「昔に比べてさ、やっぱり人は減って来てるんだよな。屋台の引き回しとか、仮装だって大変になる。だからこそ、若い衆が帰ってくるように、水窪に注目してもらうというか”脚光”を浴びせられるようにせにゃならんよな」

脚光を浴びる町

地元の皆さんが、工夫を凝らした仮装をしたり、劇を行ったりと、全力で祭りに取り組んでいる背景には、水窪への大きな愛があった。
もちろん、楽しむために全力なのだろう。だが、その裏側にはいつも、隠しきれない地元愛が、若者たちに、再び水窪を見てほしい、帰って来てほしい…という熱い思いがあるのだろう。
「とにかく、盛り上がっているとこを見せたい。仮装は人目を引くし、他にないイベントになる。カメラを持ったお客さんが来て、仮装の写真なり屋台の写真なり撮って帰る。そしたら、田舎にもこんな祭りがあるのかって、注目を集められる」
坂口さんは商店街を見つめながら、熱く語ってくれた。その目線の先では、若連が横笛を吹きながら練り歩いている。子供たちがお面をかぶり、楽しそうにはしゃいでいる。今も昔も変わらない、ハレの日の風景が、そこにはあった。
「長く喋っちまったけど、結局、仮装ってのは地域の楽しみみたいなもんだし、よその衆を引き寄せる魅力の一つなんだろう。後につなげるためにも、守らにゃいかんね」
浜松市の最北端にありながら、脚光を浴びる町。そこには祭り好きな住民たちの、熱い思いがある。

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