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更新日:2024年1月18日

暮らしを次代へ「年中行事・まつりごと」

暮らしを次代へ

ここでまた、新しい年を迎える(PDF:321KB)

代々引き継いだ生活の一部分を大切にしている、そんな暮らしが天竜区にはある。
時代は変わっても、変わらないもの、伝え守っていくもの…新しい年を迎えるための、新しい年の朝陽を受けるための、暮らしの様式…龍山町の片桐さんを訪ねた。

輝いていた、あの頃

「私が森林組合に就職した昭和30年代後半はね、300石の木を切れば、当時の役場の課長さんの2年分の給料になったからね」(※1石=およそ0・18立方メートル)
そう話すのは、龍山町で暮らす片桐和彦さん。龍山で生まれてから77年間ずっと、ここで暮らしている。
「あの頃、中学の同級生は100人以上いたなぁ。龍山中学は大峯と瀬尻にそれぞれ教室があったからね。この集落にも多くの人が住んでいてさ。山も、人も、みんな元気で、活気があったね。
でも今じゃ、山には”光”が当たらず、集落では回覧板を回すのもひと苦労。隣家までの距離がどんどん遠くなってね…一つ空き家になったと思ったら、また、あそこも空き家に…。
でもね、これも時代だから仕方がない。今じゃぁ、会社とかどこか勤めに行かなきゃ暮らしていけない。
子どもが学校へ行ける”距離”を考えなきゃいけない。生活しやすい環境を整えることは必要な時代だからね」
時代が変わった今、地域の実情を見つめる片桐さんの表情が、少し寂しそうに見えた。
平成29年3月現在、龍山町の人口は600人を切った。小学校は横山小学校に、中学校は光が丘中学校に統合して”龍山”と名の付く学校は、今はない。

変わっても、変わらないもの

「集落に暮らす人数は減っても、時代は変わっても、地域には変わらないものがあるんです」片桐さんは続けた。その代表的な二つのことを教えてくれた。
一つ目は常会。月末には、集落の全21世帯が集まって会合を開く。
自治会長さんから、市からの依頼事項の伝達があったり地域の困りごとの相談をしたり、また、世間話をしたりして集落の人たちとのコミュニケーションを図る場となっている。
こんなやりとりもみられる。一人暮らし世帯や高齢者世帯が増えてきたこの集落。欠席が続く人がいると、「○○さんを最近見ないが」「そういや、最近、足が悪くなってね」などと話題になる。
すると、ある人が「それじゃぁ、ワシがちょっと○○して手伝ってやらっか」となる。共助のつながりである。常会が、集落の「見守り体制」としての大きな役割を担っているのである。
二つ目は年中を通したまつりごと。
例えば、1月には新年の顔合わせ会、2月には山の神のお日待ち、3月にはお彼岸、6月には津島様のお日待…と、集落では1月からの行事が立て続けに行われる。
「昔から、みんなで集まってやってるんです」

若水汲み。それは一年の最初にやる事

龍山で生まれ育った片桐さんだからこそ、欠かさず行うことがある。それは…。
「1年のいちばん最初にやること。それは”若水汲み”だね」元日の朝は毎年早起きして、家の近くの清水から水を汲む。そしてそれを使ってお茶を沸かしたり、雑煮を作ったりするという。
「昔は火も起こしたんだよね、ガスなんかなかったから。そうそう、ガスが各家庭に入ってきたのは昭和40年代、テレビは30年代。昔は何でも自分たちでやっていたんだよね。世の中、便利になった…でもね、忘れたくないものってあるんだよね」
そういって、片桐さんは、家の奥の方から何やらいろいろと取り出してきた。
「これが、ひしゃく、これが桶、盆、それから…」見せてくれた道具の数々。これらを使って一年中の片桐家のまつりごとを一人で行っているという。1月から12月までのまつりごとを詳しく、そして分かりやすく教えてくれた。
1月4日の朝には「山の始め」と言ってね、御洗米や果物なんかを木の根っこに置いて、木を切る真似をするんだ。にゅうぎ(新木:下写真参照)を作り始めるのもこのとき。
6日は「女の年取り」と言って、正月が終わってほっと一息の日だね。7日は七草粥を作って一年の無病息災を願って食べる。この日に門松を寝かす(倒す)んだ。それから…。
ふんふんと感心しながら12月まで聞いていくと、「おやじの見よう見真似だよ」と、片桐さんはほほ笑みながら付け加えた。

伝えていくこと、伝えてもらうこと

後悔していることがあるという。
「おやじに、もっとしっかり聞いておけばよかった。これはどんな意味があるのか、何のためにやっているのか、ってね」
片桐さんは、文献などで一生けんめい調べたのだそうだ。
「若いとき、働いているときには明日のことがいちばん大事でさ。山の始め?女の年取り?全然興味もなかったし。おやじが何か教え伝えようと声を掛けていたのかもしれないけど、その頃はただうるさいなぁとしか思わなかったんだろうね」
ちょっと嫌味な言葉を投げてみた。
息子さんにまつりごとの意味を伝えているのか、と。すると片桐さんは笑った。
「それは、分かるよ。聞くのは面倒だって。若いうちはそうだもん。知りたくなったら知ればいい。でもね、聞いてくれるときもあるから、その時にしっかり伝えられることは伝えていくよ」

守ること

片桐家で代々続けている年中のまつりごと。片桐家の風習、文化である。
聞くと、毎月1日には、家中50ヵ所に榊をおまつりしているし、毎月何かしらのまつりごとがあり、準備から考えると多くの時間と労力、そして、それぞれに技が必要だ。
「今は省いているのもあるけどね。これからも、やれるようにやっていくよ。片桐流でね」片桐さんは笑って簡単そうに言うが、片桐家の「まつりごと」を守っていくことは、誰にでもできることではない。

誰がために、陽は当たる

新しい年が始まる。
すでに12月25日の「花迎え」を済ませた。歯の健康を願う「歯がため」用に秋から準備してきた干し柿も大丈夫だ。庭に作った門松に、もうすぐ初日が当たろうとしている。
片桐さんの願いはひとつ。
「今年も、来年も、再来年もずっと。自分も、家族も、集落のみんなも、ここで新しい年を迎え、すこやかに暮らせるように」

 

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