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更新日:2024年1月18日

輝く伝統食

輝く伝統食

アワの一粒にも想いがこもるもんだ(PDF:338KB)

「粟」と書くと、今どきの人たちの中には読めない人もいるかもしれない。
「アワ」といえば五穀の一つで、かつて庶民がよく食べていた雑穀であり、最近では健康食として女性たちに人気を博している。
河原で見かける「ネコジャラシ」にも似た穂先に成る、小ぶりな実は食べることができ、独特の風味と豊富な栄養素を含むのが特徴の一つだ。
米や小麦などに押されて鳴りを潜めているものの、れっきとした伝統食であるアワ。このアワを用いて、地域おこしをしている人たちがいると聞き、天竜区水窪町を訪れた。

里山の原風景

時節は、天高く馬肥ゆる秋。紅葉が山を彩り、こうべを垂れた稲穂が田んぼを彩っている。
町中の商店街を抜け、長尾と呼ばれる集落へ足を運ぶと、道脇の畑から楽しそうな声が。
畑を見やると、そこに広がっていたのは一面金色の景色。たわわに実った穂先を見て稲穂と見間違えたが、それはアワだった。
太陽の光を浴びて黄金色に輝く穂先はずっしりと重く、その身を風に任せている。
そんなアワを、数人の人たちが刈り入れていた。
鎌を手におしゃべりしながら、小気味よく収穫している。楽しげな様子に惹かれ、話を聞かせてもらった。
アワの収穫を行っていたのは、水窪で活動するNPO法人「こいね水窪」の皆さん。今回は代表を務める中政俊さんにお話を伺うことができた。
「アワなんて、いまどきあまり食べないでしょ?」そう語る中さんはしかし、収穫したアワを大事そうに抱えて見せてくれた。
米や小麦に比べて非常に小さなその粒は、この地域で古くから親しまれてきた、在来のもの。余計な手は一切加えていないそうだ。

十人十色の地域おこし

なぜ、この小さなアワの粒に地域おこしへの願いを託したのか、ふと疑問に思ったことを聞いてみると、愛嬌のある笑みを浮かべながら、中さんはその理由を語ってくれた。
「人が少しずつ減って、みんな思ってたんだよ、何かしないといけんねって、活動を始めたきっかけはいくつかあるけど、一番は”地域をなんとかしたい”っていう思いを持った衆らが集まって、始めたんだ」
こいね水窪のメンバーは、地域に住む人たち。商店街に店を構える人、建設業を営む人…。まさしく十人十色。個性的な面々が集まったと、中さんも苦笑いだ。
共通しているのは「故郷(みさくぼ)を元気にしたい」という熱い思い。最初は、水窪の在来種である「水窪じゃがた」の栽培から活動を始めた。平成26年の3月…春先のことである。
収穫を終えると、同年8月にはじゃがいもをメーンテーマにしたイベントを開催し、新たな賑わいを生み出すことに成功した。

アワ、育てます

「さあ、次は何から始めようか…って考えていたら、10月ごろに市内のある菓子メーカーから話が来た。水窪の雑穀を使って菓子を作らせてくれませんか…ってね」
菓子メーカーへの口添えは、こいね水窪の活動を知った地元住民からだったという。
「水窪じゃ昔から米の代わりにアワを育ててた。でも最近じゃあ作ってるのは数軒程度でね。うまくやれれば、新しい何かを生み出すんじゃないかって思って、じゃあ協力しましょうってことで、アワの栽培を決めたわけ」

苦難の連続

「それからは大変だったよ。水窪で30年以上もアワを育ててる地元の人に頼み込んで”ネコアシアワ”っていう在来種の種を分けてもらって、育て方とか、いろいろご指導いただいてね」
アワの栽培については、メンバーの中にも経験者はいなかった。地元の方の協力は不可欠で、やっとのことで説き伏せてアワの種を譲り受け、休耕地の開拓に取り掛かった。
その時のことについて中さんは「やることばかりで苦労したもんだ」と、苦い顔で語ってくれた。
「とにかく畑を使えるように戻すだけでひと苦労。なんせ十数年使ってなかった畑だから、石も転がってるし、土もカチカチ。だけども、そこはいろんな衆が集まった良さというか、建築関係の仕事をしてるメンバーがユンボ(※油圧式ショベルカー)を使って、あっという間に耕してくれた」
やっとのことで畑を耕し、譲り受けた種を植えてからも、中さんたちの苦難は続いた。
特に鳥獣被害は深刻で、ようやく芽吹いた新芽をシカに食べられてしまったり、実ったアワを小鳥についばまれたりと、日夜頭を悩ませた。
シカの侵入を防ぐ電気柵を設置し、鳥よけの防護ネットを張り巡らせ…。平日・休日を問わず、交代で畑を見守る日々が続く。
「あっという間に秋が来て、いよいよ収穫の時期を迎えた時は、苦労した分、喜びもひとしおだった」と、中さんは笑みを浮かべた。
収穫は15キログラム。菓子メーカーに納品を済ませた残りは今でも残してあるとのことで、中さんはパックに入ったアワを見せてくれた。
「反省点はいくつかあるけど、初年度でこれだけ収穫できたってことは、次はもっと収穫できるってこと。だから畑を変えてみたり、機械を入れたり色々工夫した。すると、二年目の収穫量はグーンと伸びて、120キログラムも収穫できた」

勢いづく”雑穀の里”

こいね水窪の活動は、地元水窪にとどまらず、多くの人たちに知れ渡ることになる。新聞にも取り上げられ「雑穀の里」と銘打って紹介された。
また、アワの収穫ツアーが開催され、県内外から多くの参加者が水窪を訪れたほか、水窪小学校の児童たちによる収穫・脱穀体験が催されるなど、児童が地元の伝統、文化に触れるきっかけ作りにも繋がった。
「やる気のある衆が頑張ってくれたおかげだ」
嬉しそうに語る中さんは、次のステップに向けての意気込みを教えてくれた。
「アワの事業が軌道に乗れば、利益が生まれて、働く場所ができる。働き口ができりゃあ、活気が生まれる。若い衆も来るかもしれん。そうなりゃ、この町にとっても良いことだろう?」
だから、続ける。そう語る中さんの瞳は、静かに燃えている。そんな中さんだからこそ、十人十色のメンバーたちもついていくのだろう。
水窪の伝統食「アワ」。
地元の熱意に照らされて、小粒なその実が今、再び輝きを放っている。

 

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