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更新日:2024年1月18日

月の光に魅せられた人たち

ケース1見出し写真

形は変わっても、想いだけは引き継ぎたい。(PDF:310KB)

うっすらと暗い雲に覆われた山あいから、ぼんやりと照らされる月明かり。
満月に近いその月は、時折見え隠れしながら、灰色のキャンバスに幻想的で柔らかな光を映し出す。
観客の「想い」に誘われながら。

秋の風物詩

静寂が広がる船明ダム湖畔に次々と人が集まってくる。中には、座布団などの敷物を持っている人や、夕飯時とあってお弁当を持参している人も。
ゆったりと寝そべり、くつろいだ様子の愛犬連れのご家族もちらほら。
ここは天竜ボート場。毎年、全国高等学校選抜ボート大会が行われ、ボートの聖地とも言われる場所。
階段をそのまま利用した野外の観覧席。見つめる視線の先には、コスモスやすすきを大竹に挿して飾られた特設ステージ。奥には山や森林が織りなす自然のカーテンといったところだろうか。
ステージのスポットライトから漏れる光が、観客の笑顔をほのかに照らす。
今は「月」の地名を持つ、月島自治会地域の秋の風物詩「観月会」のミニライブ。
地域内外の人々が一年に一度集う大切な行事。

月でお月見

月の地名は南北朝時代に楠氏の家臣、鈴木左京之進によって名付けられたと伝えられていて、この地域を発展させていきたいという願いが込められているという。
そんな素敵な地名にちなんで、月島自治会では、昭和61年当時の若連が地域活性化事業の一端として「ムーンライト・コンサート」を始めた。
15回までは若連が中心となっていたが、地域の高齢化に伴い、若連が解散。
その後は地域の婦人部が引き継いだが、27回目の開催を最後にコンサートは幕を閉じた。
35世帯ほどの小さな集落。しかし、ファイナルコンサートには、700人もの人々が駆けつけた。

救世主あらわる

ムーンライト・コンサートが終了してからおよそ3年。
地域内外から復活に対する熱望が沢山寄せられたが、高齢化が続く月島自治会には負担が大きいため、何とかできないものかと地域住民は思い悩んでいた。
そんな時、転機が訪れた。
「前の仕事をリタイアしたばかりで、時間に余裕があったからね」そう言って溝口玄さんは冗談ぽく笑う。湖畔の家のイベントを手掛けることとなった溝口さん。その一つが観月会であった。
「ムーンライト・コンサートには、何度か足を運んだことがあるよ」
元校長先生で、地元で生まれ育った溝口さん自身もまた、ムーンライト・コンサートの終了を惜しむ一人だった。
「コンサートの復活にはやっぱり思い入れがあったね」と、懐かしそうに語る。しかし、復活にはいくつかの問題があった。何より、一夜だけの復活では意味がない。「何とかして続けたい!」その強い想いで観月会の準備を進めていった。まずは、名前を変えてみた。
「ムーンライト・コンサートのように”コンサート”というと、大掛かりになってしまうから”ミニライブ”に変更したんだ」
そうして、これまでのプロの演奏家ではなく、地元で活躍している音楽愛好家のライブとなった。
「知っている人が前に出ているのがいいとみんな言うんだよ。形は変わっても”想い”だけは引き継ぎたい」
穏やかな人柄の中にも熱い心意気が溢れ出す。そんな溝口さんが連絡調整係となり、湖畔の家、天竜ボート場、道の駅「花桃の里」に、地元の企業や月島自治会も合わせ、地域一丸となって「観月会」を開催することとなった。
「お祭りは強制的なところがあるけど”観月会”は違うんだよね」
観月会は地元の祭典よりも盛り上がるという。観月会に対する地域の意気込みが、救世主を得てさらに強くなったようだ。

月が束ねる皆の心

第一回の観月会にはおよそ150人の人々が集まり結果は上々だったが、金銭的には厳しかった。
「このままではいけない!」
そう考えた溝口さんが二年目にとった秘策が、観客も一緒に観月会を盛り上げていく方法。つまり「募金方式」だった。
この方法が成功するかどうかは、当日までわからない。全くの未知数であった。
そして迎えた二年目の観月会当日。
午前中は雨天。中止が懸念される中、長く地域に住んでいる人は、雲の流れを見て大丈夫だと呟いた。心強い一言に、溝口さんたちスタッフに安堵の声が広がり、士気が上がる。
辺りは既に暗くなり始めた夕方、花桃の里が配布していた月見饅頭100個も順調に減り、およそ130人が集まってくれた。「募金箱」も少しづつ重くなっていく。あとは「お月様」が出てくれることを祈るばかりだ。
薄暗い雲に覆われたまま観月会はスタートした。心地良い調べが響き渡り、人々の心を癒してもどこか満たされない。みんなの願いはただ一つ。
「早く”お月様”が見たい!」
観月会が中盤にさしかかった頃、歓喜の声が湧き上がる。待ちに待った「お月様」のお出ましである。それは、月の光がそこに居合わせたみんなの心をひとつに束ねた瞬間だった。

月が導く未来への想い

観月会の締めくくりに「来年も来てくれますか?」と司会者が観客に問うと「勿論!」というやりとりが恒例となっていた。
観月会に訪れた130人との約束を果たすためにも、ムーンライト・コンサートから数えて30周年と言える次回開催に向けて、準備に余念がないに違いない。
そう思って話を振ると、溝口さんはあっけらかんと「30周年だからといって、特別なことは考えていない」と笑顔で答える。溝口さんにとっては、30周年はただの30分の1回に過ぎないようだ。
それよりも先の40年、50年と繋がって行く未来を考えているからだろう。
高齢化の波が今後も押し寄せても、溝口さんのような人がいる限り、地域への思いは、月の導きとともに未来へと繋がっていく。

 

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