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更新日:2020年3月26日
狩猟の方法も意味も変わる。今の猟師は重要な役割を担ってるんだ。(PDF:264KB)
中心街の住宅地に、サルやイノシシが現れるとニュースになるが、天竜区にはサルやイノシシ、シカなどの野生動物を目にするのが当たり前の暮らしがある。
狩猟をする人たちの生活だ。
狩猟をするときの音と言えばまず浮かぶのが鉄砲の音。鉄砲の音って何だか物騒である。しかし、狩猟をするときにはまた違う重要な役割を持つ“音”があるという。
天竜区の最北端に位置する水窪町。その水窪町の中心部からさらに北上した所にあるのが西浦という地域だ。水窪町は比較的温暖な気候といわれる浜松市の中では珍しく、冬には雪が積もることもある。その冬の日に、古い伝統を持つ芸能の「西浦田楽」が行われることでも有名だ。家のつくりや畑のある風景を見ていると、どこか懐かしい気持ちになってくる。そんな地域だ。
この地域で暮らし、長年に渡って狩猟に携わって暮らしてきた笹下さんに聞いてみた。
笹下さんは、昔から狩猟に携わってきたベテランの猟師だ。
現在では、GPSを利用することで、獲物を追うことが比較的楽になったが、“音”が重要な合図になっているという。空の薬莢(やっきょう)を笛にして吹くことで自分の居場所を伝えるのだ。「GPSなんかなかった頃は、獲物を捕らえた時にはそれが合図の方法だったんだ。その音だけでどの方角から聞こえるかを探して。今思うと良くやったと思うけどね」その笛の吹き方を使い分けて合図をするという。「こうやって吹くと『こっちへ来い』という合図なんだ」と、ピュイーとその音を何度か鳴らした。
狩猟の方法は、集団で行う方法、一人で行う方法などさまざまだ。シカやイノシシを狩る場合は、集団で目星をつけた山を半日くらいかけて回る。足跡を探して、その山にいるか、いないかを調べる。もし獲物がいることが分かれば「巻狩り」といって、獲物を少しずつ追いつめていく。また、犬が活躍することもある。この場合には、犬の種類によって特徴があり役割が変わってくるという。「優れた犬がいると成功率があがるんだ。鉄砲の腕より犬の方が大事ってくらいだね」
狩猟と一口に言っても奥が深いことが分かる話だった。
水窪にはかつて、集落ごとに狩猟をするグループがあったという。最近では猟師が減ったこともあり、いくつかのグループが一緒に狩りをすることが多くなった。
「昔は、たくさんのグループがそれぞれ縄張りを持っていた。『ここは自分たちがやるんだ』って早くから見張りをつけるほどだった」その頃は、地域の外からも狩猟のため訪れる人がいたという。
「その頃は面白かったよ。獲物も少しはお金になったし。売れない部位はみんなで煮て食って。それがまたうまかったんだ。それが猟師の特権みたいなもんだったよ」
そんな思い出話をする笹下さんは、本当に楽しそうだった。
そんな狩猟は、時代とともに役割も変わってきたという。「昔はね、趣味で狩りをすることもよくあることだったがね・・・」今は、増え過ぎた野生動物を減らすために狩りを“せざるを得ない”ケースが多くなったという。「そういう意味では、今と昔では、狩りをすることの意味も様変わりしているんだ。地域で猟師は減っているけど、生活を守るという役割が重要になってきている」
昔は今と比べて、畑など人の暮らす場所で野生の動物を目にすることが多くなったと笹下さんは言う。「シカも増えてる。サルも家の外の木で見かける。山から下りてきてエサがあることを覚えてしまったんだろう。畑の作物に被害を与えることもある。姿は見かけないのに、いつの間にか食べられているなんてこともある」
人間と野生動物との領域もここでは変わりつつあるのだ。
時代とともに狩猟の方法も意味も変わっていく。また、自然との距離も変わっていく。動物は増えるが人は減る。生活への影響だってもちろん出てくる。それでも変わることなくこの地域での暮らしは続いている。
山の中では、笛の合図が変わらず響いている。
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