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更新日:2019年3月31日

森林を育て、守り続ける人

「木を切ってるときは、難しいことは考えないもんだよ」(PDF:278KB)

自然、森、木、緑、山。

”天竜区らしいもの”といえば、一にも二にも森林である。ここに住む人であれば「森に囲まれたところ」だと自分のまちを一度は紹介したことがあるはずだ。「自然」、「森」、「木」、「緑」そして「山」。言い方はさまざまだが、とにかく我々のまちの象徴は、森林に他ならない。

日本三大人工美林の一つである天竜美林は、先人たちの手によって作り上げられた大切な財産だ。しかし、一方で昭和50年代をピークに木材価格は低下し、山の仕事・林業は、長い冬の時代を迎え、現在に至っている。

森林は、大きく分けて2つの面で捉えることができるといえる。一つは産業を支える「経済林」。もう一つは、私たちの暮らしを守るという意味での「環境林」である。現代は、言うに及ばずエコの時代、環境の時代だ。森林は、水や空気を生み出す源として、改めてその機能と重要性が見直されることとなった。

話を天竜区のことに戻す。

天竜美林に降った雨は、地下に浸透していく間にろ過され、水質の浄化が行われている。この水は天竜川に流れ込み、その下流域である静岡県西部100万人の飲み水となっている。その範囲や規模を考えても、天竜区の森林の果たす役割は極めて大きい。

私たちが、水とともにある天竜区の暮らしを語るとすれば、森林に携わる人の存在は、そのど真ん中に位置するものであると早い段階から考えていた。

今回、取材に協力してくれた伊賀さんは、木こりとして35年ものキャリアを持つベテラン。森林と水、そして生命を守る山師にその仕事のことなどについて話を伺うため、伊賀さんを訪ねた。

切りたての丸太に腰掛けて

現場近くに到着すると、チェーンソーの轟音が聞こえてきた。しばらくするとエンジン音が鳴り止む。私たちが到着したことにどうやら伊賀さんの方が気付いてくれたようだ。

赤いチェーンソー片手に私たちのところまで来てくれた伊賀さんは、フェイスガードの付いたオレンジ色のヘルメットに、チャップスと呼ばれるプロテクターといういでたち。何だか格好いい。最近では、山の仕事に関心を持つ若者が少しずつ増えているようだが、こうしたぱっと見のルックスも若者を惹き付ける魅力の一つかもしれない。

「立ち話でも何だから」と伊賀さんが道端の丸太に腰掛けた。この木も先ほど伊賀さんが切ったばかりのものだ。

伊賀さんが一息ついたところで、さっそく山について聞いてみるが「今はいい時代じゃないからね」と率直な思いを返してくれた。「でも、仕事そのものが嫌いなわけじゃない。少なくともデスクワークよりは向いていると思う」と笑った。

もともと田んぼや茶畑に囲まれた環境で育ったため、体を動かす仕事に就くことが自然な流れだったように思うと伊賀さん。大学卒業後、地元に帰り、人の紹介で龍山の森林組合に入ったそうだ。当時は林業がまだまだ元気な時代だった。「その頃と比べると山の仕事のあり方も変わった。昔みたいに皆伐することもほとんどなくなったしね」。伊賀さんは、目の前の木々を見ながら呟いた。

職人の魅力

厳しい時代ではあるが、一方で環境時代が到来したことで、その重要性が再認識されるようになった林業。このことを伊賀さんは「水を蓄える機能を持つ森林は、木に携わる自分たちだけでなく、下流域の人たちにとっても大切な存在になった」と語ってくれた。

しかし、その森林を守る最前線にいることについては「現場で木を切ってるときは、そんなに難しいことは考えないもんだよ」と笑う。とはいえ、もちろん考えなしに木を切ることなどできない。周囲の状況や安全面などには細心の注意が払われる。加えて、職人の知識や経験、技、勘、集中力といったもの全てが、目の前の1本の木に注がれる。

机の上で考えるようなことを聞くのが何だか野暮に感じられてきたので、木を切り倒す感覚を聞くと「狙いどおりにいけば気持ちがいいもんだね」と山の職人らしい答え。職人的といえば、長年、木を見続けてきた目は、木の肌の感じや枝の形、太さなどでだいたいの木の年数が分かるのだそうだ。「木も生き物。長く関われば何となく相手のことが分かってくるものだ」と伊賀さんは言う。こういう話はとても面白い。

おそらく、都会の若者たちの中に林業や農業に関心を持つ人たちが増えているのは、こうした自然の中で生きる力や技が魅力的に映るためではないだろうか。もっと単純にいえば、こうした生き方が”何だか格好いい”のだろう。

実際、ここ数年、伊賀さんの周りにも、林業を志す都会の若者が増えてきているそうだ。林業分野においても、後継者問題は大きな課題の一つ。この流れは決して悪いことではない。ただ、伊賀さんは「都会の子たちはすぐに木を切りたがるんだよね」とも笑う。「木を切る作業が一番派手で面白そうに見えるのかもしれない。でも基礎も大事なんだけどね」。

「木の一生は、人の人生よりも長い。長い目で考えなきゃね」と伊賀さんは言う。スピードや効率ばかりが物差しにされる時代だが、山で生きる職人として、また、先人たちが作り上げた森林を守り続けるものとして、真摯にその役目を果たそうとする生き方が、短い言葉の中に込められている。山も山仕事も一日にしてならず、というわけだ。

日々、何気なく見ている天竜の山々も長い年月によって作られた財産だ。私たちはもっとそのことを誇るべきなのだ。山の職人に話しを聞いて、その思いを改めて身に染みて感じた。

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