緊急情報

サイト内を検索

ここから本文です。

更新日:2019年3月31日

阿多古和紙を漉く人

「今年もできた」だから「まだやれる」って気持ちが励みになる。(PDF:214KB)

昔ながらの技術を受け継ぐ「手漉き和紙」。一枚一枚丁寧に手作りされた和紙にはただの紙とは言わせない驚くべき特性と奥の深さ、ただの道具では終わらない温かさがある。私たちは、天竜区西藤平で紙漉きを続ける阿多古和紙職人の大城さんを訪ね、自身の仕事への思いなどを伺うことにした。

和紙の値打ちは、これから出てくる

紙漉きについても和紙についても全く不案内な私に、大城さんはとても丁寧に説明してくれた。機械で作った紙は200年ほど経つとボロボロになってしまうといわれている。それに対して、手漉きの和紙は1000年もの間、保管することができるというのだ。1000年前の古文書などが発見されているのを考えれば、この事実には納得である。

和紙の丈夫さ、保存性の高さは、現在、海外でも注目されているそうだ。紙漉きの技術は日本以外にもあるというが、日本の「流し漉き」という技法は、繊維が重なり合うことで、とりわけ丈夫な紙に仕上がる。驚いたのは、和紙はしわになったら、アイロンをかけることで元通りのきれいな紙に戻るということ。大城さんの説明を聞くと、私たちが良く知る「紙」と「和紙」は、似て非なるものといった印象さえ受ける。

一枚一枚手漉きをした和紙は、何といっても目に見えない温かみが魅力だ。そして、それとは別に、目に見える驚くべき高い機能性も和紙の特長なのである。

紙を使ってくれる人の声が紙の質を良くしていく

和紙の原料となるのはコウゾの木の皮。その中でも白い部分だけを使う。したがって、採れる量が少なく原料はとても貴重だ。特に国産のコウゾは、価格も高いため、現在は、タイから輸入したものが主流となっている。タイのコウゾは枝が太く原料を多くとることができる。しかし、その代わりに繊維の一本一本が太いという欠点もある。すると、出来上がった紙はにじみやすくなってしまう。「こんな話は、使ってくれる人でないと分からないことだでのう。漉いている方からは、実際に使ってみてどうかは分からん。使ってくれた人の感想が紙作りにも反映されるでのう」和紙を作る人がいれば、その和紙を使う人も当然いる。使ってくれる人の声を取り入れながら、より良い紙を作る。そんなところに職人としての横顔をのぞかせた。

手すき和紙の未来を憂う

大城さんは毎年、地元の小学校で行われる紙漉き体験の講師を務めている。子どもたちも毎年行っているからだろうか、上級生のなかには慣れた手つきで木枠を扱う子もいる。今年初めて体験する子も上級生の様子を見て、見よう見まねで挑戦する。大城さんはその様子をそっと横で見守っていた。

「製品としての紙を作るとなると、全て同じ厚さに漉かにゃあ、ならんでのう。原料が濃い水のときも薄い水のときも同じ厚さに漉かなきゃならん」。同じ漉き方では、水の状態によって厚さが変わってしまう。水に溶ける原料の濃さに合わせて漉き方も調節しなければならない。そこは長年培ってきた技術というものだろう。大城さんはさっと木枠で水をすくうと「だいたい3回」と言って漉く。大城さんの動作を見ていると簡単そうだが、そんなにうまくはいかない。ましてや、同じ厚さに漉き続けることは、そう簡単にできるものではないようだ。

子どもたちが楽しそうに紙を漉く姿を横目に、今後直面するであろう阿多古和紙の技術継承の難しさや、将来への課題について思いを巡らせた。しかし、子どもたちが、その楽しさを知ることは未来への第一歩でもある。

挑戦を続ける

「ここいらの集落は、みんなで開拓した場所だね。道路なんかも自分らで作ったり直したりしてきたんだ」大城さんは集落での暮らしについて話をしてくれた。集落には9軒の家があるが、皆仲が良く、掃除なども一緒に行っているそうだ。「この場所には、子どもの頃からいろんな思い出があってのう」そう言って話し始めた大城さんの思い出話は留まることを知らない。

今でも田んぼをやっているという大城さんは言う。「いつも、『今年もちゃんとできるだろうか』と不安になるんだ」。すると奥さんも「この人、本当に気に病むんです。昨日も運転免許の更新があって。今回も大丈夫かなってずっと気にしてた」と隣で微笑んだ。続けて大城さんは言う。「でも『今年もできた!』ってことが、何よりも励みになる。心配した分、ちゃんとできた時は、何より気持ちいい。『まだやれる!』って気持ちになれるんだよ」今はこうやってやれることを一つひとつこなしていくだけという大城さん。その語り口には、まだまだこれからという力強さを感じさせた。

伝統の技で生み出され、驚くべき性能を秘めた阿多古和紙。その価値はこれからも注目を集めていくことであろう。しかし、その未来には課題も山積みである。大城さんは「手漉き和紙の良さというものが、正しく認識されていないのではないかと思っている」と語ってくれた。「今となっては、和紙の売り場はない。売ったとしても安いので漉き賃が見合わない。さらにこれからの後継者がない」。

それでも大城さんは今日まで紙を漉き続けてきた。この地で阿多古和紙と人生を共にしてきた大城さんの挑戦は、まだまだ続いていく。

このページのよくある質問

よくある質問の一覧を見る

お問い合わせ

浜松市役所天竜区区振興課

〒431-3392 浜松市天竜区二俣町二俣481

電話番号:053-922-0011

ファクス番号:053-922-0049

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?