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更新日:2020年3月26日
今年は初節句の子が2人。みんな、いつになく燃えてる。(PDF:252KB)
5月5日、子どもの日。
日が暮れ始めた頃、春野町の気田川に、30人ほどの男衆が集まって輪になっていた。今日は、奇祭として知られる犬居地区の「つなん曳き」が行われる日だ。他にはないまつりと聞き、心が弾む。揃いの法被に股引姿の男たちは、その時を今か今かと待っていた。
「さあ、そろそろ出発だ」今年の祭りを取り仕切る男性が声を掛けると、一斉に立ち上がり、河原に用意した竜を威勢良く担ぎ始めた。竹と柳で作られた竜は、朝から集まってその日のうちに作り上げるのが、昔からのやり方。その大きさは、30メートルを越える。力自慢の男衆が集まったとはいえ、簡単に曳けるものではない。
「ヨイそりゃ、ヨイそりゃ!」河原から一気に、300メートルほど離れた犬居の通りまで。男たちは声を掛けながら竜を曳く。この祭りの由来は、その昔、大雨で氾濫した川から竜がこの村の人たちを守ったという言い伝えによる。通りで見守っていたおばあさんがそう教えてくれた。
つなん曳きは、初節句を祝う祭りでもある。竜を曳く男たちの頭上には、こいのぼり。ここ数年は、若い衆が減り、子どもの誕生がない年もあるそうだが、今年は2人の子が生まれた。「久しぶりに2人も生まれたっていうんで、みんないつになく燃えてる。あんた、いい時に来たな」。ある人はそういって笑った。日が沈み、次第に夜の帳が下りてくる。提灯に明かりが灯され、徐々に祭りも熱気を帯びてきた。そして、今年、初節句を迎えた家の前で、竜が一度、止められる。
「ヨイそりゃ、ヨイそりゃ!」竜を担いだ男たちが、猛然と家の玄関に突進していく。入口が今にも壊れてしまいそうな勢いだ。
「ヨイそりゃ、ヨイそりゃ!」男たちは構わず、何度も玄関に向かう。突っ込むという言い方が正しいかもしれない。何とも荒っぽい祝い方だ。玄関で笑顔で待っていた赤ちゃんは、びっくりして大声を上げて泣いた。無理もない。何も知らなければ大人だって驚く。何せ相手は巨大な竜なのだ。
手荒なお祝いが済むと、男衆は集まって万歳を始めた。
「おめでとう」の声が飛び交うと祝福を受けた家族は、深々と頭を下げた。ある人はいう。「だんだん人は減ってきたけどね、みんな祭りにだけは帰ってくる。こうやって、自分もまちの人みんなに祝ってもらったって、知ってるからね」。その言葉を聞いて、何だかうらやましく思った。そして願う。今日、祝ってもらった2人が、いつか威勢良くあの竜を曳く日が来ることを。
「つなん曳き」。噂以上の面白い祭りだ。
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