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更新日:2020年3月26日

やな漁をする人

昔からのやり方を知る人だからこそ、できる仕事なんだよな。(PDF:252KB)

阿多古川ならではの漁法

阿多古川にかけられたやな天竜区内には、天竜川をはじめ、その支流の阿多古川や気田川など豊かな水資源がある。いずれの川も鮎釣りの人気スポットであり、6月初旬の解禁日に釣り人たちが竿を持って列になっている光景は、天竜区の初夏の風物詩だ。友釣りが中心の夏の鮎釣りシーズンが終わると「やな漁」の季節を迎える。やなとは、竹や木などで水をせき止めて、魚を捕る仕掛けのことだ。

11月初旬、阿多古川漁協の坪井さんから一本の電話をもらった。「やな漁が始まったら、連絡してほしい」と夏の初めにお願いしておいたのだ。もう少し早い時期に連絡が来ると思っていたので、こちらもすっかり忘れていた。例年、やな漁は10月から11月がピークと聞いていたが、秋になってから雨が少なかった今年は、漁がなかなかできなかったそうだ。「今日は、朝からたくさん鮎が捕れているよ」と坪井さん。昨夜は、まとまった雨が降り、久しぶりに阿多古川は水量が増していた。

阿多古川漁協の目の前にある「やな」に到着したのは、昼過ぎ。雨は上がったが、空はどんより曇っていた。河原への階段を下りて、漁をしている人に声を掛ける。男性は、阿多古川の上流・熊地区に住む鈴木さん。やな漁を始めて3年ほどだという。

「朝6時からやってるんだけど、午前中はよかったな。一度に15も20も網に入って、重くて引き上げるのに苦労したぐらいだ」と鈴木さんは得意顔でいった。その表情がこの日の大漁を物語っている。「途中、この道を通りかかった知り合いにあげちゃったからな。200や300は捕れたんじゃないか」と続けた。鈴木さんに話を聞いている間にも、上を走る道端から、数人が声を掛けてきた。「おーい、どうだ。たくさん捕れたかー」と。その度、鈴木さんはうれしそうな顔でこの日の成果を伝えた。

鮎を愛する名人

網を手にするやな漁の名人やな漁は、秋になると産卵のために川を下る鮎の習性を利用して行う。「川の水が少なくて、鮎は川を下りたくても、下れなかった。昨日の雨で一気に鮎が下がり始めたんだ」と、この日の大漁の理由を教えてくれたのは、後になってこの漁場を訪れた阿多古川漁協の組合長・石川さん。「鮎はいつになったら、どこに行けばいいか、ちゃんと知ってるんだよ」という。まるで鮎のスケジュール帳でも確認してきたような話だが、それもまんざら嘘でもない。石川さんは「川を毎日見ていれば、鮎がどうしているか分かるようになる」と笑う。阿多古川とともに歩んだ人生は、もうすぐ90年。説得力が違う。驚くことに、今も滑りやすい河原をスイスイと歩くそうだ。坪井さんはそんな組合長を「川の歩き方が違う」と表現してくれた。

石川さんは、やな漁の名人でもある。この日は、朝5時半ごろから漁をし、捕った鮎は、20キロメートルも離れた天竜川の下流の産卵場所まで行って放流してきたそうだ。その量およそ30キログラム。魚の数にすると500~600匹に相当する。ただ漁を楽しむだけでなく、鮎の生態のサイクルにまで配慮した暮らし。ここまでのことができるからこその「名人」であると、本当に頭が下がる思いがした。

暮らしと伝統

やな漁に使われる四つ手網阿多古川のやな漁の面白さは、独特の漁法と道具にある。竹や杭を使って堰を作り、それを伝って泳いでくるところを「四つ出網」と呼ばれる道具ですくい揚げるのだが、このような漁法は珍しいそうだ。同じ「やな」と呼ばれる漁法は全国各地にあるが、やり方は土地土地で異なるのだとか。石川さんの話では、阿多古川のやな漁は、安政年間(1854~1860年)から行われているという記録もあり、古くから伝わる漁法のようだ。「阿多古川の川幅や淵の形が、このやり方に向いている」と石川さん。話を聞いていると、改めて地域の川を知り尽くした伝統であり、無形文化財のようなものだと興味を引かれた。

そして、鈴木さんの使う道具の「四つ手網」。竹や樫の木を組み合わせて作られた網は、名人・石川さんの手によるもの。「素人じゃ簡単にできない。下手だと魚の重みで網が抜けちゃう。昔のやり方を知っている人だからこそできる仕事」と鈴木さんはいう。軽い竹を使うことも先人の知恵。堰や道具を作るための材料は、地元の自然の中にあるものが中心だ。

網で鮎を引き上げる人鮎の食べ方について聞くと「この時期の鮎は、燻して甘露煮にすることが多い」と鈴木さん。これは保存が利くためだ。昔は、冬期に貴重なタンパク源だったのだろうと予想する。いずれにしても漁も道具も調理法も伝統芸といってよいだろう。すべてにおいて、昔ながらの知恵や工夫が凝縮されている。
ひと昔前は、20を越えるやながあったという阿多古川も、現在は13箇所にまで減った。伝統芸能が担い手不足となっているように、やな漁をする人も年々減少傾向にある。しかしながら、やな漁にまつわる技や手仕事は一つ一つ面白い。そして、それに関わる人たちが、何といっても魅力的だ。何気なく見てきた川の風景の一部でしかなかった「やな」。この日を境に少し違って見えるようになった。

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