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更新日:2019年3月31日
「そば粉の方から話しかけてくれている気がするんだよね」(PDF:165KB)
「そば打ちに大事なのは水。当たり前のように、美味しい水が手に入る天竜区は、わたしにとってもそばにとっても、うれしいよね。」
そう語るのは、佐久間町在住の中野さん。素早い手つきで、そばの粉をどんどんこねていきます。
「水加減、これが決め手」
さっきまでサラサラだったそば粉が、みるみるうちに塊になっていくさまは、まるで魔法にかけられたよう。
「指に何か仕掛けがあるのでしょうか」
そんな愚問にも「そんなことはないよ。指のハラでやさしくこねているとね、「もう少し水がほしいよ」とか、「もう大丈夫だよ」とか、そば粉が答えてくれているような気がするんだよね」。そう、あたたかい笑顔で返してくれる中野さん。「さて、練りに移ろうか」
中野さんのそば打ちのきっかけは、今から30年前に知人と長野県を訪れたときのこと。一面、真っ白なそばの花が咲き誇っていたのです。感動した中野さん。すると、海岸近くに住む知人も、「自分の家の近くでも、この花を咲かせたい」と思わず口にしたのです。さっそく知人宅へ種を300グラム持って行ってね。でも、さすがに砂浜じゃあ育たなかった…と、当時を振り返ります。
知人宅は子どもたちなどが通うスクール。中野さんは「そばの花は咲かせられなくても、食べさせることはできる」と、実際にそばを打って持って行ったのです。中野さんは続けます。「子どもたちがそれは喜んでくれてね。忘れられないな、あの笑顔」。
その笑顔って、きっと、今の中野さんの笑顔みたいなんでしょうね。
「そばのこと?改めて聞かれると困るなぁ。でも、やっぱり毎日、考えているんだろうね。どうしたらおいしいそばを食べてもらえるか。「おいしかった」「また、食べたい」って言われたら、また頑張っちゃうよね。そのために、そばを打っているのかな。
この前、そばの種を蒔いてね。今は一面がそばの花で白く染まって、それはすがすがしい風景ですよ。もう少ししたら刈り取って…」今から収穫が楽しみです。
話をそば打ちに戻しましょう。
「こねたそばを延ばしますよ」
めん棒を、まるで自分の手のように自在に操る中野さん。丸くこねてあったそば粉が、いつの間にやら、うすーく、形は四角に延ばされていきます。
「少しでも乾燥しないようにしたいね。そばの味が落ちちゃうから」と、さらにめん棒を追加して、延ばしたそばの半分をめん棒にくくりつけ丸めておきます。そうすれば表面が乾きにくいと中野さん。忙しい作業の中でも、食べてくれる人たちへの配慮は欠かすことがありません。
「切りますよ」
あっという間に、今まで目の前に延ばされていたそばがきれいに畳まれて、切り板(まな板)の上に。引き続き素早い作業が進みます。細く均一に、そしてリズミカルに。そう、運動会で徒競争のときに流れるあのBGMが、今にも聞こえてきそうです。
「はい!10人前ね」。45分間のそば打ちの時間は、あっという間に流れていました。
「趣味が高じてね、今ではこれが、わたしの生活のスタイルかな」と、中野さん。「ほとんど毎朝4時過ぎに起きて、5時からそば打ちを始めます。年末には夜8時まで、1日15回繰り返しそばを打つときもありますよ」
中野さんのそばファンは、およそ15年の月日を経て、裾野はどんどん広がっているようです。
「そば屋さんや、イベントなどでそばを打っている人を見るとね、ついつい「技を盗まなくちゃ!」と思って見入ってしまいますね」。まだまだ、探求心旺盛の中野さん。”今”を決して満足していません。
その先にある「おいしい」「また、食べたい」の笑顔のために。
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