更新日:2022年3月29日
第1章 総論(1)
1-1 計画策定の背景と目的
背景
- 農業・農村は、食料生産の場という本来の役割に加え、水資源のかん養、土壌侵食防止、生物多様性の保全等の国土保全機能や、地域社会の維持、歴史・文化の継承等の文化的機能といった多面的な機能を有しています。これらは、適切な農業生産活動が行われることにより維持されてきました。
- 農業農村整備事業の実施においては、高生産性、高付加価値農業の実現を目指すとともに、農業・農村の持つ多面的機能を持続するため、主に施設整備を中心に環境との調和を図ってきました。
- 農業を取り巻く社会情勢は、全国の他都市同様、少子高齢化が進み、農業従事者の高齢化と後継者不足、都市化や住民構造の多様化、耕作放棄地の増加、食の安全に対する消費者の関心の高まり、農業の多面的機能に対する期待など多くの課題を抱えています。
- このような状況の中で、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)が制定され、国土や自然環境の保全、水源かん養、良好な景観の形成、文化の継承などの農業・農村の有する多面的機能が十分に発揮されること、農業生産基盤の整備にあたっては「環境との調和に配慮しつつ」必要な施策を行うことの規定が盛りこまれました。
- 土地改良法(昭和24年法律第195号)においても、農業農村整備事業の実施にあたっては「環境との調和へ配慮すること」を原則とする改正がなされ、平成14年から施行されています。
- さらに、農業農村整備事業等の実施にあたっては、「環境との調和に配慮した農業農村整備事業等基本要綱」(平成14年)に基づき事業を実施することとされました。
- 浜松市は、平成17年の市町村合併により、旧浜松市を中心とした都市地域、中山間地域、天竜などの森林地域など多彩な地域を有する新しい都市としてスタートしました。
- 農業農村整備事業の実施においては、従来から旧12市町村が環境への配慮のための施策を展開してきました。旧浜松市と旧三ヶ日町では、農村環境計画を策定し(旧浜松市平成17年4月、旧三ヶ日町平成17年3月)、農業及び農村が育んできた自然環境等の多面的な機能を将来にわたって維持する方針を掲げていますが、他の旧市町村では未策定となっていました。
- 平成19年度には、新浜松市として「浜松市環境基本計画」を策定し、環境保全対策に取り組んでいるところです。その中でも、農業・農村の持つ役割への期待は高く、北部の森林から海岸まで多様な環境特性を有する浜松市として、総合的、一体的に農村環境の保全を進めることが必要となっています。
目的
- 環境との調和への配慮を実効性のあるものとするためには、あらかじめ農村地域の環境保全に関するマスタープランを策定しておくことが必要です。
- 本計画は、「静岡県環境基本計画」を受けて策定された「静岡県農村環境対策指針(平成21年)」に基づき、浜松市の持つ多彩な環境との調和に配慮した農業農村整備事業の進め方を示す基本構想として位置づけ、個々の整備事業を実施するに当たって、農村地域の環境を望ましい方向へ導くためのマスタープランとして策定するものです。
- 本計画に沿って環境との調和に配慮した農業農村整備事業が進められることによって、農村地域の豊かな自然環境が保全・回復され、多様な生物が生息・生育する豊かな自然環境と、地域特性に即した農業生産活動によって育まれた農村景観が、次代を担う子どもたちへ引き継がれ、地域づくりにつながることを目的としています。

図1-1 農業・森林・水産業の有する多面的機能のイメージ
資料:日本学術会議答申を踏まえ農林水産省で作成
表1-1 農業・農村の有する多面的機能と具体例
項目
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具体例
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物質生産機能
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食料の供給、木材の供給、バイオマスの供給
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土壌侵食防止機能/土砂崩壊防止機能
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農地の耕作による土壌侵食や崩壊、土砂流出の防止
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土砂災害防止機能/土壌保全機能
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森林による土壌侵食や崩壊、土砂流出の防止、土壌保全
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地球環境保全機能
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森林による地球温暖化の緩和(二酸化炭素吸収、化石燃料代替)
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雨水の保水・貯留による洪水防止機能
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大雨時の一時貯留による洪水流量の軽減
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水源かん養機能
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水資源貯蔵、水量調節
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水質浄化機能
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微生物の働き等による水質浄化
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気候緩和機能
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夏期の気温低下、大気浄化(二酸化炭素吸収、酸素供給、塵芥浄化)
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有機性廃棄物処理機能
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有機性堆肥の利用による資源の循環
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生態系保全機能/生物多様性保全機能
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遺伝子保全、生物種保全、生態系保全
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良好な景観の形成機能
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自然景観の保全・形成、原風景の保全
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文化機能/文化の伝承機能
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体験学習、自然教育の場、地域社会の振興、伝統文化の継承
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保健・レクリエーション機能
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行楽、健康維持増進、地域交流の場
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快適環境形成機能
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快適生活環境の形成
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