更新日:2024年5月13日
大規模事故対策編 第4章 海上事故対策計画 第1節 総則
【災害対策本部事務局】
1 予測される船舶事故と地域
- 海難とは、海上における船舶又は航空機の遭難その他海上において人命又は財産に被害が生じ、又は生じるおそれのある事態であって、保護を必要とするものであり、主な形態は以下のとおりである。
- 海難とは、個々の形態が異なり、様々な複合的要素を持つため、衝突・浸水・火災・乗揚げによる船体断裂等による燃料油や貨物油等の排出など複合的な事故となることがある。
衝突 |
船舶が他の船舶又は物件(※1)に接触したことをいう。 |
乗揚 |
船舶が、陸岸、岩礁、浅瀬、捨石、沈船等水面下にあって大地に直接又は間接的に固定しているものに乗揚げ、乗切り又は底触して船舶の航行に支障が生じたことをいう。 |
転覆 |
船舶が外力、過載、荷崩れ、浸水、転舵等のため、ほぼ90度以上傾斜して復原しないことをいう。 |
浸水 |
船外から海水等が侵入し、船舶の航行に支障が生じたものをいう。 |
推進器障害 |
推進器及び推進軸が、脱落、若しくは破損し、又は漁網、ロープ等を巻いたため、船舶の航行に支障が生じたことをいう。 |
舵障害 |
舵取機及びその付属装置の故障、舵の脱落又は破損により、船舶の航行に支障が生じたことをいう。 |
火災・爆発 |
船舶又は積荷に火災が発生したことをいう。燃料その他の爆発性を有するものが引火、化学反応等によって爆発したことをいう。 |
機関故障 |
主機関(等)推進の目的に使用する機械が故障し、船舶の航行に支障が生じたことをいう。 |
安全阻害 |
転覆に至らない船体傾斜、走錨及び難船荒天難航をいう。 |
- 浜松市沿岸海域は、東西に往来する船舶が多いので、衝突、座礁による遭難、火災等の災害が予測される。
【参考】
<海上災害に関する基本的な考え方>
- 海上災害のうち、船舶の衝突、乗揚、転覆、火災、爆発、浸水、機関損傷等の海難の発生によって生ずる人命に対する救助義務は、当該船舶の船長にあり、また、船舶が衝突したときは、相互の船舶の船長は人命及び船舶の救助に必要な手段を尽くさなければならない。
- 他の船舶又は航空機の遭難を知ったときは、船長は人命救助に必要な手段を尽くさなければならない。
- 海難について人命救助を必要とする場合、第三管区海上保安本部が船長の救助活動の援助を行う。
- 特に陸岸に近い海難については、最初に事件を認知した沿岸市町村が救助活動を行う。
≪海難による人身事故における対応(任務等)と責務等の内容≫
当該船舶の船長 |
【国内法】
船員法
第12条~14条 |
- 人命の救助並びに船舶及び積荷の救助
- 船舶が衝突した時の人命及び船舶の救助
- 他の船舶又は航空機の遭難を知った時の人命の救助
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海上保安庁 |
海上保安庁法
第2条 |
- 海上保安庁法による海難救助等に関する事務を行う任務
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市町村長 |
水難救護法
第1条 |
- 遭難船舶救護の事務は最初に事件を認知した市町村長の責務
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静岡県警察本部 |
水難救護法
第4条 |
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※海難により、人の生命に危険が及び、又は及ぼうとしている場合に、自らの危険をかえりみず、職務によらないで人命の救助に当たった者が災害を受けたときは、「海上保安官に協力した者等の災害給付に関する法律」及び「警察官の職務に協力した者の災害給付に関する法律」が適用され、国又は県から災害給付を受けることができる。
2 沿岸海域等排出油等流出事故の主な施策
- 沿岸等排出油事故における主な対策は次のとおり。
- 海上等における事故現場での応急防除措置
- 油等が流出した場合の海上等での拡散防止及び回収
- 流出した油等が陸地に漂着した場合の防除対策
- 回収した油等の保管、運搬、処理に関する業務
3 重油等の種類と性質
A重油 |
- 流出源から数百m~数マイル漂流しながら、風浪等の影響で一部蒸発攪拌され、希釈分散する。
- 対応としては、閉鎖性海域で発生し、沿岸漂着が予測される場合は、早々に洋上回収・処理を行う必要があり、既に沿岸漂着している場合は、被害を受ける海岸を最小にする工夫が必要である。
- オイルフェンスの活用による油の包囲、または誘導により回収を行う。
- 沖合の開放海域で、沿岸漂着の可能性のない場合は、漂着監視を実施し、漂着の可能性がある場合は、油処理剤を散布し、航走攪拌を実施する。
- 油処理剤の使用については、使用前にテストを行い、効果の確認を行うとともに、関係機関と協議のうえ、漁業関係者の同意を得たうえで使用する。
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C重油 |
- 大型船の燃料として使用され、また火力発電用の燃料として大量に輸送されており、一旦事故が発生すれば流出量が多く、かつ、防除に要する日数も長くなるため、甚大な被害を発生させる可能性がある。
- C重油は蒸発せず、1~3日ほどで乳化(ムース化)する。
- 沿岸漂着により、漁業、工業プラント、観光産業等に被害を及ぼす。
- 対応としては、沿岸漂着が予測される場合は、オイルフェンスの活用により早期に洋上回収処理を行う必要があり、既に沿岸漂着している場合は、被害を受ける海岸を最小にする工夫が必要である。
- C重油は、油処理剤の効果がない場合もあり、使用前にはテストを行い、効果の確認を行う。また、沿岸漂着した場合は、長期間に及ぶことを念頭に作業員の手配を行う。
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原油 |
- 流出量が多いとき、油種によっては原油ガスの発生に注意が必要であり、風下は広範囲にわたり危険海域となる。
- 非防爆型の作業船の接近は避けなくてはならない。
- 原油の蒸発成分は、1~3日のうちに蒸発し、残油は急速に乳化(ムース化)していく。
- 対応としては、海上に流出した後、乳化(ムース化)前は、早々に洋上回収・処理を行い、軽質分が蒸発、又は乳化(ムース化)した時は、C重油と同じである。
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ガソリン |
- ガソリンが海上に流出すると、引火性が高く非常に危険である。
- 早期に拡散、蒸発するので、その対応には最大限の注意を払わなければならない。
- 対応としては、基本的には、引火による爆発を防止するため、風下側に危険海域を設定し、一定の時間帯住民の避難、火気に対する注意を喚起するほか、場合によっては住民に対し、避難を指示するなど二次災害の発生の防止を図る。
- やむを得ず防除活動の必要がある場合は、風上側から放水による拡散促進、または消火泡により油面を被覆する等、引火ガスの大気拡散を抑制する。
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軽油 |
- 軽油が海上に流出すると、早期に拡散する。
- 対応としては、基本的には、引火による爆発を防止するため、風下側に危険海域を設定し、一定の時間帯住民の避難、火気に対する注意を喚起するほか、場合によっては住民に対し、避難を指示するなど二次災害の発生の防止を図る。
- やむを得ず防除活動の必要がある場合は、風上側から放水による拡散促進、または油吸着マット等により回収を 行う。
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灯油 |
- 灯油が海上に流出すると、早期に拡散する。
- 対応としては、風上側から放水による拡散促進、または油吸着マット等により回収を行う。
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潤滑油 |
- 潤滑油が海上に流出すると、早期に拡散する。
- 対応としては、風上側から放水による拡散促進、または油吸着マット等により回収を行う。
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ケミカル類 |
- 油以外の液体物質のうち、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(※2)第3条第3号に規定する物質のケミカル類は、海上に流出した場合の変化は、種類により浮上、沈降、水中浮遊とさまざまである。
- 多くの場合、引火又は有毒性の危険があり、更に複数の水溶性のケミカルが混じり合うと反応し合うこともあり、その都度専門家等による確認を要する。
- 対応としては、変化及び特性に合わせて、専門家の指示に従う。
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液化ガス |
- メタンを主成分とする天然ガスを冷却液化したものを液化天然ガス又はLNG(Liquefied Natural Gas)という。
- LPG(Liquefied Petroleum Gas)とは、液化石油ガスのことで、石油系の炭化水素のうち、プロパン、ブタンを主成分とする混合物のことである。
- LNGについては、海上に流出後、直ちに気化し、大気中に拡散する。気化する際に形成される白い蒸気雲により危険範囲を把握し、着火源を近づけないことが肝要である。
- LPGについては、ガス比重が空気より重く、低部に滞留するため、取扱上最も注意をしなければならず、ガス検知器でガス濃度を測定するとともに、発火物を近づけないことが肝要である。
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【参考】
<油等排出事故災害に関する基本的な考え方>
- 海洋での油等の防除義務者【指導・監督機関:海上保安庁】
(1) 総括的な規定
船舶の船長又は船舶所有者、海洋施設等又は海洋危険物管理施設の管理者又は設置者その他の関係者 |
海防法第2条
(総括的な規定) |
油、有害液体物質等若しくは危険物の排出があった場合又は海上火災が発生した場合において排出された油又は有害液体物質等の防除、消火、延焼の防止等の措置を講じることができるように常時備えるとともに、これらの事態が発生した場合には、当該措置を適確に実施することにより、海洋の汚染及び海上災害の防止に努めなければならない。 |
(2) 具体的な排出物ごとの規定
- 海防法では、上記の一般的な防除義務の規定に加えて、排出物ごとに具体的な責任等を記している。
- 排出物の定義については、海防法第3条に規定されている。
≪大量の油等が排出された場合≫
- 船舶の船長又は管理施設の管理者
- 排出の原因となる行為をしたもの
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海防法
第39条-I |
排出された油等の広がり及び引き続く油等の排出の防止並びに排出された油等の除去のための応急措置を講じなければならない。 |
海上保安庁長官 |
海防法第39条-III |
当該船舶所有者等が講じるべき措置を講じていないと認められるときは、講じるべき措置を命じることができる。 |
定義 |
海防法施行規則第29条:特定油……蒸発しにくい油(原油等) |
濃度及び量の基準 |
海防法施行規則第30条:
- 特定油分の濃度が、特定油 1万立方センチメートル当たり10立方センチメートル以上
- 特定油の量が、100L以上の特定油分を含む量
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≪廃棄物等が排出された場合≫
海上保安庁長官 |
海防法第40条 |
廃棄物その他の物(油及び有害液体物質を除く。)の排出により、又は船舶の沈没若しくは乗揚げに起因して海洋が汚染され、又は汚染されるおそれがあり、当該汚染が海洋環境の保全に著しい障害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認める場合は、当該廃棄物その他の物を排出したと認められる者又は当該沈没し、若しくは乗り揚げた船舶の船舶所有者に対し、当該廃棄物その他の物の除去又は当該船舶の撤去その他当該汚染の防止のため必要な措置を構じるべきことを命じることができる。 |
上記の2つの場合における海上保安庁長官による措置(海防法第41条-I)
- 措置を講じるべき者がその措置を講ぜず、又はこれらの者が講じる措置のみによっては海洋の汚染を防止することが困難であると認められる場合において、排出された油、有害液体物質、廃棄物その他の物の除去その他の海洋の汚染を防止するため必要な措置を講じたときは、当該措置に要した費用で国土交通省令で定める範囲のものについて、当該船舶の船舶所有者又は海洋施設等の設置者に負担させることができる。
≪危険物が排出された場合≫
船舶の船長又は管理施設の管理者 |
海防法
第42条-2-III |
直ちに、引き続く危険物の排出の防止及び排出された危険物の火災発生防止のための応急措置を講ずるとともに、危険物の排出があった現場付近にある者又は船舶に対し注意を喚起するための措置を講じなければならない。 |
海上保安庁長官 |
海防法
第42条-5-I |
当該排出された危険物による海上火災が発生するおそれが著しく大であり、かつ、海上火災が発生したならば著しい海上災害が発生するおそれがあるときは、海上火災が発生するおそれのある海域にある者に対し火気の使用を制限し、若しくは禁止し、又はその海域にある船舶の船長に対しその船舶をその海域から退去させることを命じ、若しくはその海域に侵入してくる船舶の船長に対しその進入を中止させることを命じることができる。 |
≪漂着・回収後の油等の処理・処分責任者【指導・監督機関:環境省・都道府県】≫
船舶所有者 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 |
ロシア船籍タンカー「ナホトカ号」重油流出事故については、厚生省通知(平成9年1月23日)により「今回の事故により海岸に漂着した油について、回収し、一時保管場所に集積等された後の運搬・処理に当たっては、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき適正に処理すること。また、集積された排油等の廃棄物については、船舶所有者が運送活動に伴い排出した産業廃棄物として取り扱われたいこと。」となっており、この計画においてもその考え方を適用する。 |
≪重油等の防除に関する関係各機関の任務・権能等≫
海上保安庁 |
海上保安庁法
第2条
海防法
第39条-III
第42条-15-III |
- 海上保安庁法による一般的な海洋汚染防止の任務のほか、海防法により防除措置義務者に必要な措置を講じることを命じ、又は措置を構ずべき者がその措置を講じていないと認めるとき、又は措置を講ずべきことを命ずるいとまがないと認めるときは、指定海上防災機関に排出油等の防除措置を指示することができる。
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指定海上防災機関 |
海防法
第42条-14 |
- 海上保安庁長官の指示を受けて排出油等の防除の措置を実施するとともに、船舶所有者等の委託を受けて海上災害のための措置などを実施すること。
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国土交通省
中部地方整備局
(港湾空港部) |
国土交通省設置法
第4条-(15)
第4条-103号
第31条-(2) |
- 海洋の汚染及び海上災害の防止に関すること。
- 国が行う海洋の汚染の防除に関する業務に関すること。
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地方公共団体 |
災害対策基本法
第50条-I-(6)
第50条-I-(9) |
- 清掃、防疫その他の保健衛生に関する事項
- 災害の発生の防ぎょ又は拡大防止のための措置に関する事項
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港湾管理者 |
港湾法
第12条-(2)
第12条-(6)
第34条 |
- 港湾区域及び港務局の管理する港湾施設を良好な状態に維持すること。(港湾区域内における漂流物、廃船その他船舶航行に支障を及ぼすおそれがある物の除去及び港湾区域内の水域の清掃その他の汚染の防除を含む。)
- 消火、救難及び警備に必要な設備を設け、並びに港湾区域内に流出した油の防除に必要なオイルフェンス、薬剤その他の資材を備えること。
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漁港管理者 |
漁港漁場整備法
第4条 |
漁港漁場整備事業の一環として漁港における汚泥その他公害の原因となる物質のたい積の排除、汚濁水の浄化その他の公害防止のための事業を施行すること。 |
1 岸壁、防波堤、桟橋、流氷等
※2 昭和45年12月25日法律第136号、以下「海防法」という。