
後列(左から):青嶋さん(2年)、氏原さん(1年)、山下さん(1年)、黒田さん(1年)
前列(左から):中澤さん(3年)、山崎さん(3年)、後藤さん(3年)
「地域に何かできることをしたい」。そんな生徒たちの声から、静岡県立天竜高等学校の「天竜ラボ」は生まれました。5年ほど前にスタートし、勉強や部活動と両立しながら、現在は1年生から3年生までの7名が活動を続けています。「天竜区の未来を考える若者会議」や「天竜おにぎり」の開発・販売、地域情報誌『HELLO天竜』の発行など、地域と関わる中で見えてきたことや今後のことについて、メンバーのみなさんにお話を伺いました。
── みなさんが、天竜ラボに入ろうと思ったきっかけを教えてください。
山崎さん:天竜ラボで五平餅を作っていると聞き入ってみたら、そのプロジェクトはもう終わっていて、おにぎり作りになっていました(笑)。でも、おにぎり作りも楽しいですし、ここは上下関係もなく、居心地がよかったのも続けられている理由です。
後藤さん:僕は1年生のとき、天竜ラボの募集を見て話を聞いたら、とても面白そうだなと思って。人と話すのがあまり得意ではないので、いい経験になるかなと思い、入ることを決めました。
中澤さん:2年生のとき、後藤くんに誘われて若者会議に参加したのがきっかけで、卒業した先輩や後藤くんの誘いを断りきれなくて(笑)。もともとこの地域が好きだったので、自分の力で少しでも地域を盛り上げ、何か役に立てたらいいなと思っています。

取材中の一コマ。和やかな雰囲気の中、リーダーの山崎さん(写真中央)を中心に、活動の背景や思いを語ってくれた
青嶋さん:天竜というエリアで、何か貢献できることをやってみたいと思い、1年から参加しています。
黒田さん:去年、天竜高校を卒業したいとこが天竜ラボに入っていて、「面白いよ」と教えてくれたのがきっかけです。活動内容を聞いて自分もしてみたいと思い、入りました。
山下さん:自分が住んでいる袋井市と天竜の違いを知ってみたかったのと、何か地域に貢献できたらいいなと思って参加しました。
氏原さん:私は小さな頃から地域のイベントに参加していて、大好きな地域の人たちの役に立てる天竜ラボに入りたいと思いました。あと、もともと天竜ラボにいた兄の手伝いとして、中学3年生から活動に関わっていたこともきっかけの一つです。
── 天竜ラボが中心になっている「天竜区の未来を考える若者会議」について教えてください。
山崎さん:天竜ラボが主催する「若者会議」は、地域のおじいちゃんやおばあちゃん、外部からの専門家も交えながら、地域の未来について語り合う交流会です。話すときは、1グループ5~6人ほどの少人数にわかれるんですが、井戸端会議のように何でも自由に話せるラフな雰囲気が特徴です。

「天竜区の未来を考える若者会議」は、過去5年間で14回開催され、のべ約500人が参加した
── どんなテーマについて話しているんですか?
山崎さん:例えば、「幸せって何だろう?」というテーマでは、高齢者の方が思う幸せと、私たち高校生が思う幸せは違うことも多く、多くの意見が交わされました。特定の結論を出すというよりも、意見交換を通してお互いの理解を深め、新しいアイデアの種を生み出すことを大切にしています。「天竜おにぎり」のアイデアも、若者会議の話し合いがきっかけでした。
── 「天竜おにぎり」について教えてください。
山崎さん:地元の道の駅「くんま水車の里」から、鹿による獣害が深刻になっているという相談をもらったのがきっかけです。鹿肉の消費を増やすことで、獣害対策と猟師さんの支援につなげようと考えました。鹿肉だけだと食感がちょっと物足りないので、「たくあんを入れてみよう」とか、「匂いが苦手な人のために青じそを巻いてみよう」とか、みんなでアイデアを出しながら進めていきました。
後藤さん:天竜おにぎりの第2弾として、「干ししいたけおにぎり」を作りました。「高校生らしいアイデアを」と依頼され、千切りにしたり、一緒に炊き込んだりと検討した結果、インパクトを重視して、おにぎりに干ししいたけを丸ごと1個刺してみました。地域の人からは「食べにくいけど、インパクトがあってユニークだ」と言われました(笑)

完成したおにぎりは「森のマルシェきころ」で販売
氏原さん:今、開発中なのが「ていざなす」と「お茶」のおにぎりです。ていざなすは、天竜つながりで4〜5年前から交流のある長野県天龍村の伝統野菜。なすの皮に含まれる腸活にいい成分「ナスニン」にも着目し、味噌焼きにしたレシピを考案中です。また、天竜区全体がお茶の産地なので、お茶のおにぎりはどうしても作りたかったんです。
── レシピの開発にあたっては、苦労もあったかと。
山崎さん:レシピが完成するまでに、だいたい半年くらいかかりました。家庭科の先生にも協力してもらいながら、調理室で何回も試作して、メンバー同士で「これ微妙じゃない?」などと辛口で評価しながら、ちゃんと地域らしさも感じられる商品になるように、みんなで作り上げています。
氏原さん:ごはんと一緒にお茶を炊き込んだりと、試行錯誤の連続でした。お茶だけだとちょっとパンチが弱いので、何か具を乗せようと考え、二俣にある「森のマルシェきころ」さんと一緒に開発を進めています。お茶とていざなすの旬が重なる夏から秋の初めにかけて、販売できたらいいなと思っています。

プロのアドバイスをもらいながら、地元食材を使ったレシピを開発
── 『HELLO天竜』という冊子も作っているんですね。
中澤さん:高校生ならではの目線で地域の魅力を再発見し、発信していくことを目的にした冊子です。天竜・春野・佐久間の3つの中山間地域にある高校の活動をまとめた報告書にもなっていて、ウェルビーイング(幸福度)についての住民アンケートの結果や、各校の活動紹介、地域の魅力について住民の方にインタビューした記事などを載せています。
山崎さん:私たちでアポイントを取り、地域の方や在校生に天竜の魅力について取材しました。地元のデザイナーの方に、見やすいレイアウトのアドバイスをもらいながら、試行錯誤して完成させました。過去には、レイアウトが思うようにいかず、1からやり直したこともありましたが、今ではいい思い出です。

2024年に制作された「HELLO天竜」。2025年度版も現在制作中
── どのような場所で配布しているのですか?
山下さん:おにぎりなどを販売するときに、「こういう活動をしています」と声をかけながら配布しました。私は人に話しかけるのが苦手でとても緊張しましたが、みなさんが快く受け取ってくださって、とてもうれしかったです。
── 活動を通じて、自分の考えや行動が変わったことはありますか?
後藤さん:もともと人と話すのが苦手で天竜ラボに入ったんですが、販売のときにお客さんに商品の説明をしたら、「上手だね」って言ってもらえて。それがすごくうれしくて、「人と話すのって楽しいかも」って思うようになりました。
黒田さん:もともと都会が好きで、横浜のような場所に憧れていました。正直、天竜のような田舎は、あまり好きじゃないなって思っていたんです。でも、天竜ラボで活動するようになって、自然が豊かで、会う人みんな優しく温かいところが、すごくいいなって思うようになりました。
青嶋さん:若者会議で、いろんな年代の地域の人と話す中で、デジタルの使い方や生活スタイルの違いを知ることができました。自分たちとは違う考え方や見方があるんだなって思って、視野が広がったと感じています。

「天竜二俣駅前マルシェ」での出展風景。長野県天龍村の伝統野菜「ていざなす」のPRや、地域の魅力を詰め込んだ「天竜ガチャ」の販売など、地域の人々と直接触れ合いながら天竜の魅力を発信している
── 今後したいことはありますか?
山崎さん:インターネットを使った地域発信をもっと強化したいです。そこで天竜のマスコットキャラクターを作りたいなと考えています。映像だけでは目に留まりにくい気がしていて、キャラクターがあれば、若い世代や、もっとたくさんの人に天竜の魅力を届けられると思うんです。私はもう卒業してしまいますが、これからの天竜ラボは、若者会議や地域の方と関わる機会を、もう少し増やしていってもいいのかなと思っています。おにぎりだけでなく、地域の食材をアピールする活動も、ぜひ続けていってくれたらうれしいです。天竜ラボの知名度が上がれば、もっと大きな規模の活動もできるはずですし、たくさんの方が天竜ラボの活動に関わってくれたらうれしいですね。
静岡県立天竜高等学校 天竜ラボ
2014年、天竜林業高校、二俣高校、春野高校の再編整備によって開校。「地域貢献活動をしたい」という思いから、生徒主体の地域活動組織「天竜ラボ」が結成。「天竜区の未来を考える若者会議」の開催、地元食材を使った「天竜おにぎり」の開発・販売、地域情報誌『HELLO天竜』の発行などに取り組んでいる。天竜ラボは、単なるボランティア活動の枠を超え、高校生が地域の未来をデザインする「地域課題解決の新たなモデル」としても注目されている。
https://www.edu.pref.shizuoka.jp/tenryu-h/