川廷さんと学ぶ 未来を変える浜松のSDGs/【対談記事】パイフォトニクス株式会社

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池田貴裕さん(写真左)、川廷昌弘さん(写真右)

 

今回ご紹介するのは、光技術を出発点に、工場の安全対策や鳥害対策など、さまざまな社会課題と向き合ってきたパイフォトニクス株式会社の取り組みです。

最初から答えを求めたのではなく、使い道の決まっていない製品を作り続け、その試行錯誤の積み重ねの中で技術は社会と結びつき、新たな価値を帯びていきました。自身の興味を大切にしながら行動を続けてきた先に、SDGs時代のものづくりの形が見えてきます。

 

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#プロダクトアウト #光技術 #ホロライト #鳥害対策 #技術の社会実装 #多様性

 

価値は後から生まれる。使い道を探し続けるものづくり

虹色のバッジから始まった、SDGsとの出会い

川廷昌弘さん(以下、川廷):SDGsを最初に知ったきっかけは何だったんですか?

 

池田貴裕さん(以下、池田):2017年頃だったと思います。ある経営者の方がSDGsのバッジを着けていたんです。2014年に私は虹色(もしくはレインボウ)のライトを発明したこともあり、「このバッジ、虹色でいいな」と思った。それがSDGsを意識した最初のきっかけです。その後、バッジを見つけて購入し、意味はよく分からないけれど、ずっと着けていました(笑)

私の中では、SDGsって「多様性を尊重する」っていうイメージがあります。虹色(もしくはレインボウ)もそうですが、いろんな色があって、いろんな個性がある。それを認め合うのが私の原点なんです。だからSDGsを知ったとき、「自分の感覚に近いな」って感じました。

 

川廷:池田さんの事業も、結果的にSDGsと重なっている部分が多いですよね。

 

池田:そうですね。基本的に社会活動は、おおむねSDGsにつながるものだと思っています。弊社の主力事業は、ホロライトというLED照明による光を使って工場内のルールを可視化する取り組みです。

例えば、現場には外国人の方も多く、どうしても言葉の壁がある。安全について言葉で説明しても、なかなか正確に伝わらないことがあるんですよね。そこで光を使って、危険なエリアやルールを視覚的に示すことで、言語や人種の壁を取り外せるんじゃないかと考えました。正直、後付けの部分もありますが、これもSDGsの一つと言えるんじゃないかと思っています。

 

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代表取締役の池田貴裕さん。浜松ホトニクス中央研究所の研究員、マサチューセッツ工科大学スペクトロスコピー研究所の客員研究員として、ホログラフィーと呼ばれる光技術を用いた三次元情報の表示・測定・処理に関する研究開発に携わる。2006年にパイフォトニクス株式会社を設立

 

川廷:ムクドリの鳥害対策は、どのような経緯で始まったんですか?

 

池田:2018年の冬だったと思います。自社開発したホロライトをいつも持ち歩いていて、あるとき街中に鳥がたくさんいたんですよ。試しに光を当ててみたら、バーッと一斉に逃げていって。

 

川廷:たまたまですか?

 

池田:本当にたまたまです(笑)。なんとなく光を当てただけなんですが、「これ、めちゃくちゃ効くな」と思って。翌年、内閣府の「オープンイノベーションチャレンジ」という取り組みがあって、そこで浜松市のテーマとして出てきたのが、ムクドリ対策でした。浜松市は10年以上前から、ムクドリの騒音問題やふん害問題に苦労していて。光で効くのは分かっていたので応募したところ、採択され、実証実験を行うことになったんです。

 

川廷:それまでは、どんな方法で追い払っていたんですか?

 

池田:おもちゃのピストルで大きな音を出したり、木づちで木をガンガンたたいたりしていました。鳥が飛び立つときにふんが落ちてしまい、トラブルになったケースもあったと聞いています。

 

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『未来をつくる道具 わたしたちのSDGs』などの著書もある川廷昌弘さん

 

川廷:そのライトはどんな仕組みなんですか?

 

池田:重さは1キロちょっと、市松模様の点灯パターンが高速で切り替わっています。人間の目には、ほぼ全部が点灯しているように見えますが、鳥は人間よりも2〜3倍、視覚の応答性が高いと言われていて、鳥からするとかなりチカチカした刺激的な光に見えているようです。

実際にムクドリに照射すると、はっきりと逃げる行動が確認できましたし、使い続けることで、ねぐら自体が移動していくことも分かってきました。その後開発を続け、2021年4月に製品化したのが、鳥害対策用の「ホロライト・チェッカーズ」です。多くのメディアで紹介され、鉄道会社や全国の自治体などで活用されています。

 

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「ホロライト・チェッカーズ」を手にする池田さん。軽量で手軽に扱えるのもメリット

 

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ホロライト・チェッカーズを使用すると、ムクドリの大群が一斉に逃げていく

 

使い道は後からついてくる。発明家という生き方

川廷:最初のホロライトは、どのようにして生まれたんですか?

 

池田:起業して1年後くらいに、遊びで作ったんですよ。1週間ほどでプロトタイプができて、そこから1か月ほどかけて製品化しました。ただ、当時は正直、使い道がなかったんですよ。ホログラムを照らすだけでは商売にならない。だから、とにかく展示会に出まくって見せ続けていました。それがこの事業のスタートです。実際に売れるようになるまで10年くらいかかりました。だから、いつも持ち歩いて、いろんなものに光を当てて、「これ、何かに使えないかな」って、ずっと試していたんです。

 

川廷:その「とりあえず当ててみる」という行為そのものが、池田さんのものづくりの姿勢を象徴している気がします。

 

池田:私自身は発明家なので、完全にプロダクトアウト型。まず製品を作る。使い道は後で考える。見せびらかしていると、誰かが「これ、こんな使い方できるんじゃない?」ってアイデアをくれるんですよ。そうやって、なんとかやってきました。

 

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社内には、いくつもの特許証や表彰状が飾られている

 

川廷:用途を決める前に、まず「もの」がある。

 

池田:そうです。今のスタートアップって、どうしても「社会課題ありき」で始まることが多いですよね。文部科学省もアントレプレナーシップ教育の中で、「起業家とは、社会課題を見つけて、自分の枠を飛び越えて挑戦する人」と定義している。

でも正直、私は社会課題を出発点にしてきたわけじゃないんです。結果的にビジネスになっているのは、たまたま社会課題を解決していたからであって、最初から狙っていたわけじゃない。それよりも、まずは自分の好きなことをやって、世の中に出してみる。いいものだったら、誰かが「これ、こう使えるよ」って教えてくれる。私は、そうやってここまで来ました。だから、あまり型にはまりすぎなくていいんじゃないかと思っています。

 

川廷:SDGsが広まったことで、最初からそっちに寄ってしまう人も増えていますよね。子どもたちへの教育も、SDGsありきになっている印象があります。

 

池田:この間、高校生向けに講師をした際に、みんな「研究者になりたい」という学生さんが事業計画を発表したのです。それ自体はすごくいい。でも、やっていることを見ると、まず社会課題を設定して、そこに研究を当てはめようとしている。それが、どこか本質からずれているように感じました。

 

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川廷:確かに、ノーベル賞を取るような研究者の方々も、まずは基礎研究が大事だとか、自分の好きなことをとことんやりなさい、っておっしゃいますよね。

 

池田:まさに同じことだと思うんです。結果的に、その技術やプロダクトが役に立つかどうかは、自分がその時点で知らなくてもいい。誰かが「これ、役に立つよ」って教えてくれる。でも、ものを作ることだけは、自分にしかできない。最近よく言っているのは、「発明品って、発明した瞬間には価値がない」ということ。だって、その時点では使い道がないんですから。でも、10年くらいたって、ようやく使い道が見つかる。

インベンター(発明家)の役割は、まず「まだ価値のないもの」を生み出すことだと思っています。 一方で、その発明に意味を見いだし、社会に実装して価値へと変えていく存在がアントレプレナー(起業家)です。私はもともとインベンター側の人間で、発明することが仕事でした。しかし起業を通じて、発明を価値へと転換し、その価値を世界に届けるイノベーター(革新者)になろうと挑戦を続けています。

 

川廷:SDGsも同じですよね。自分がやっていることが、実は社会課題とつながっていて、どんな価値を持っているのかを見える形にしてくれる。SDGsは、そうした役割を担うコミュニケーションツールなんだと思います。

 

浜松から提案する、SDGsのその先

川廷:SDGsは2030年を一つのゴールにしていますが、そこで終わりではありません。その先をどうするのかと考えたときに、2030年以降は「この課題には、このアプローチはどうか」とか、「SDGsには足りなかった視点はここじゃないか」とか、日本から次の提案をする必要があると考えています。

 

池田:2030年以降の社会を考えると、光害は確実に減らさなくちゃいけないと思っています。天空への照明の放射率を下げるという取り組みは、海外ではすでにかなり進んでいるんです。一方で日本では、「明るいほうが安心で良い」という価値観が根強く残っています。だからこそ、光の使い方そのものを問い直す必要があると感じました。その問題意識から生まれたのが、必要な場所に、必要な光だけを届けるという考え方に基づくプロジェクトです。

 

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2015年、神奈川県逗子海岸で世界初開催された「NIGHT WAVE ~光の波プロジェクト~」。ホロライトで打ち寄せる波を青く照らし、幻想的な光景を生み出したアート作品

 

川廷:夜光虫のイメージですね。

 

池田:私たちがしているのは、配光制御の技術です。光のパターンをコントロールして、狙ったところだけに光を届ける。天空に無駄に光を放出しない設計にすることで、少ない電力でも効果的なライトアップができる。これからの時代にあった光技術だと思っています。

 

川廷:つまり、光の楽しみ方や使い方そのものを変えていく、ということですか。

 

池田:はい。今度、富士市の工場で煙突のライトアップを始めるんですよ。うちの技術を使うと、離れた場所からでも狙ったところにドンピシャで光を当てられる。しかも、ほとんど光が漏れない。必要な所にしか光を当てないので、エネルギーの利用効率も高くなるんです。

 

川廷:技術としての可能性はもちろんですが、それが現場や地域の中でどう生きていくのかも気になります。今後、どんな展開を思い描いているのか、教えていただけますか。

 

池田:展望というほど大げさなものではないんですが、最近は「もっと楽しく、みんなでできないかな」と考えるようになりました。その一つがムクドリ対策です。ムクドリ追い払いの課題の一つが人件費です。そこで、追い払いをボランティアでできないかなと思っていて。例えば、「ムクドリ・バスターズ」みたいなチームを結成する。学生さんやシルバー人材、商店組合の人たちが参加して、みんなでバーッと追い払う。それをメディアが取り上げてくれたら、すごく社会貢献している感じになるし、ちょっとしたヒーローになれる。これ、めちゃくちゃ楽しいと思うんですよ。

 

川廷:テーマソングが聞こえてきそうですね(笑)

 

池田:ですよね(笑)。それに、観光ツアーの一環として「ムクドリ追い払い体験ツアー」みたいなこともできないかなと。ボランティア体験ツアーみたいな形にするといいんじゃないかって、そんな提案もしています。

 

川廷:SDGsは、環境・社会・経済をすべて達成しようという、かなり欲張りな目標です。そう考えると、ムクドリ対策も、発想や技術の生かし方次第で、経済の広がり方が変わってくる。環境や社会だけでなく、アイデアから経済が広がっていくのも大事な視点だなと、お話を聞いていて感じました。本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

 

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(まとめ)

お話を通して感じたのは、社会課題ありきではなく、まずは自分の興味や関心を起点にして、自分が得意なものを作ることの大切さでした。フレームから入る発想は、どちらかといえば欧米が得意とする方法です。一方で、日本人は理屈よりも感情や情緒に動かされる部分が大きい。だからこそ、自分が本当に好きなことに集中し、深く掘り下げていくほうが、日本人らしい価値の生み方につながるように感じました。SDGsや社会課題という枠組みから始めるのではなく、まずは素直な問いから始めること。その先にこそ、日本らしい次の提案や、2030年以降の新しい視座が見えてくるのではないでしょうか。(川廷)

 

パイフォトニクス株式会社

光パターン形成LED照明「ホロライト」シリーズの開発・製造・販売を行う。高指向性・高視認性の光で、工場安全対策、イベント演出、鳥害対策など、幅広い分野で活用され、日本だけでなく海外でも特許を取得。2006年の設立以来、「新しい光の使い方を追求し、人類に新しい生き方と文化をもたらす」をミッションに掲げ、グローバルに事業を展開している。

https://www.piphotonics.com/