
五明三佳さんさん(写真左)、川廷昌弘さん(写真右)
暮らしの中で「これでいいのだろうか」と、ふと立ち止まる瞬間は誰にでもあります。日々使っているものや、当たり前だと思ってきた選択が、実は自然や次の世代にどうつながっているのか。今回ご紹介するのは、そんな小さな違和感から始まった、浜松での取り組みです。
母の何気ないひと手間や、実際に使ってみた感触から生まれた気づきは、やがて地域に残る産業の歴史と出会い、人を巻き込みながらプロジェクトへと広がっていきました。正解を掲げるのではなく、暮らしの実感を起点に考え続ける。その積み重ねが、これからの選択のあり方を問いかけています。
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#生活者視点 #プラスチック削減 #マイクロプラスチック #自然素材 #へちま #地域アイデンティティ
川廷昌弘さん(以下、川廷):「浜松へちまプロジェクト」を始めたきっかけを教えてください。
五明三佳さん(以下、五明):浜松へちま・ミライを「作ろう」と思って始めたわけではなくて、最初は個人的に活動していたんです。もちろんへちまは知っていましたが、ちょっと固くて使いにくいなと感じることもあって使いこなせず、いつも途中で使わなくなっていたんです。
あるとき、母が作ったへちまスポンジを使ったら、とても柔らかくて『これはいいな』と思いました。へちまを茹でて、つるっと皮をむいて スポンジができるという簡単な工程にも心を動かされました。
プラスチックのスポンジと異なり、あまり油を吸着しないへちまの繊維は、植物性の油汚れ程度なら、洗剤も多く使わず食器洗いが簡単で、「これはすごいな」と思い、自分でへちまを育て、周りに分けて。それが4〜5年前からになります。

浜松へちま・ミライ代表の五明三佳さん。プロジェクトでは、満月の日に集まりへちま仕事をする「満月へちま会」や、へちま料理の試食など、生活に寄り添った活動も行う
川廷:そもそもへちまに興味をもったのはどうしてですか?
五明:できるだけ環境負荷の少ない排水にしたい、プラスチックが流れ出ない素材がいいなという意識はあったんです。
私は名古屋芸術大学で油彩を学んでいたんですが、「自分が描いた作品がずっと残り続けるって、どうなんだろう」って思ったことがあって。人間は朽ちて、いずれいなくなるのに、なんで作品だけ残さなきゃいけないんだろうって。そんなことを考えて、自然の素材を使って作品を作ったこともありました。
それから、同じ頃、子どものキャンプに付き添いで行くことがあって。石にサインペンで絵を描くと、子どもたちはすごく喜んでくれたんです。でも、その後の振り返りで、「自然物は自然に戻さなきゃいけないのに、ペンで描いてしまうのはどうなんだろう」という意見が出て。確かにその通りだなと。一方で、そこまで意識しないと、人間の活動って無意識のうちに、さまざまな負荷を自然界にかけてしまっているんだということも強く感じたんです。
川廷:そんな体験があったから、自然素材に目が向くようになったんですね。
五明:自然素材って、手で触ったときの感じも含めて、やっぱり気持ちいいですよね。寿命という点でも、自分の知らないところでいつまでも残り続けるものよりも、私は安心できるなと思っています。

インタビューをする川廷昌弘さん
川廷:お仕事は何をされているのですか?
五明:OMソーラーという、自然エネルギーを活用した省エネ住宅を提案する会社で、広報をしています。最近の住宅って、断熱や気密性能がどんどん高まって、まるで魔法瓶みたい。ただ、良いことだけでなく、夏に直射日光が窓から入って室内が暑くなってしまうと、熱を逃がしにくくなるという問題もあるんです。だから、外側で日を遮ることが大事で、「緑のカーテンは重要ですよ」と伝え続けてきました。
緑は排気ガスを吸着する性質もあって、CO₂削減はもちろん、NO₂(二酸化窒素)などを吸着する効果もある。それに、水やりなどで毎日必ず外に出るから防犯にもつながったりして、緑のカーテンって本当に効用が多いんです。そう考えるとプラスチックの問題とも重なるし、「これ、へちまでやったら最強じゃない?」って思うようになったんです。
川廷:個人で始めたへちま作りが、プロジェクトへと広がっていくんですね。
五明:友人から、大阪の企業が「へちまプロジェクト」をやっていると聞いて、会いに行きました。お話を聞くと、学校と連携し、自治体とも協力しながら、出前授業で子どもたちと一緒にへちまを植え、収穫したへちまをみんなで刻んでスポンジにして配布したり、イベントに出店したり。「浜松でもできるかな」と相談すると、「浜松はへちまの産地だから、ぜひやってほしい」と言っていただいて。その言葉に、すごく背中を押してもらいました。

へちまプロジェクトで育てたへちま。ほどよい弾力があり、触れると心地よさが伝わってくる
川廷:浜松に、へちまの産業があったことは知っていましたか?
五明:大阪に行く前にいろいろ調べてみて、浜松にへちまの産業があったことを初めて知りました。明治から昭和、ちょうど私が生まれた頃くらいまで、へちまが産業として成り立っていて、「これは、すごいことだな」と。
私自身、10年以上浜松で暮らしてきて、誰からもそんな話を聞いたことがなかった。ということは、きっとほとんどの人が知らないんだろうなと。このままだと、「昔、おじいちゃんがへちまを作ってた」みたいな話も、次の世代は聞けなくなってしまう。そう思ったときに、「今が始めるタイミングなんじゃないか」と感じたんです。
川廷:プロジェクトでは、どのようなことをされているのですか?
五明:一つは、みんなでへちまを育てたり、実際に使ったりしながら、へちまの良さを伝えていくこと。もう一つは、へちま産業、浜松の産業としての歴史を掘り起こすこと、この二本柱です。
プロジェクトを始めるにあたって、浜松には昔、へちまの加工所が10数軒あったと聞いていて、「これは深掘りしたいな」と思っていたら、知人の友達の家が、今もへちまの加工所をやっているという話が出てきて、「私、へちまに呼ばれてる」って(笑)。実際に加工所の方にお会いできて、当時の産業のお話を聞き、資料や写真なども見せていただいたのですが、こんな貴重な宝物を人知れず眠っていたことに驚きました。それで、広く知っていただく機会をつくらなくてはと強く感じて、資料や写真をお借りしたいことと、お話会のご相談をしたところ、ご快諾いただき、企画展の実現につながりました。

企画展「夢みるクジラは120年後のそらを泳いでいた」のポスターサイズのリーフレット。へちまの栽培面積の変遷や、江戸末期から昭和40年代までのへちま産業の流れが、写真とともに年表としてまとめられている
川廷:この資料、すごく面白いですね。ぱっと聞くと、浜松の伝統産業としてへちまを作っていたと言いがちですが、年表をひも解いてみると、産業として盛り上がったものの、結果的には長く続かなかったことが分かります。
五明:資料を作る中で、浜松は昔から産業の町だったんだなあと実感しました。時流を読み、海外に挑戦し、うまくいかなければ次の産業へと切り替える。その柔軟な判断を支えていたのは、地域としての豊かさだったのではないでしょうか。失敗に固執せず、次へ進む姿勢に、浜松らしさを感じました。
川廷:浜松の歴史を語るうえで欠かせない資料ですし、地域のアイデンティティを知るきっかけにもなりますね。
五明:歴史ってすごく面白くて。小学校でこの話をすると、子どもたちからどんどん質問が出るんですよ。教育委員会の方からも、「へちまは、理科や環境だけでなく、歴史の授業でも展開できそうですね」と言っていただきました。
川廷:今後の展開を教えてください。
五明:へちまの良さは、これからも伝えていきたいと思っています。ただ、へちま自体がゴールというわけではなく、暮らしの中で、どうやったらプラスチックを減らせるかとか、そういうところにもフォーカスできたらいいなと思っています。
あと、へちまって浜松だけではなく全国でも作られていて、エコな暮らしを実践しながら、キッチンやお風呂で使っている方もたくさんいて。そういう人たちを紹介できたらいいなと思っています。
私たちの活動を通して「これならできそう」と感じる人もいれば、「ちょっと自分の暮らし方とは違うな」と感じる人もいると思うんです。でも、別の角度からへちまを取り入れている人の姿が見えれば、「それなら私もできるかも」につながるかもしれませんから。

川廷:伝える中身は変えずに、受け取る側の暮らしに合わせて届け方を探っていく、ということですよね。
五明:はい、ただ単に暮らしを「昔に戻そう」というのとは違うかなと感じています。例えば「洗濯乾燥機」というのがありますが、今では多くの家庭で導入されています。
あるとき、子育てしながらフルタイムで働いていた方の話を聞いてはっとしました。「帰宅後、保育園から持ち帰った大量の洗濯物を前にして泣く思いだった。当時、洗濯乾燥機があったらずいぶん楽だったのに」と言われたのです。
乾燥機は干すことを省略してくれるだけの道具ではなく、服の量、畳んでしまう手間、乾いているかどうかの確認など、帰宅後から出勤前の貴重な時間の多くを省いてくれるんだと気付かされました。
これまで「洗濯物を干すことはちょっとの手間」くらいの気持ちで暮らしていた自分とは異なる、それぞれの家庭の事情があるのだと、すごく反省しました。
どうしたら、へちまを「いいな」と思ってもらえるのか。それは、正直、私一人では分からない部分も多いです。だからこそ、参加してくれる人たちの声を聞きながら、いろんな意見を出し合って、みんなで考えながら進めていけたらと思っています。
川廷:今のやり方が正解かどうかは分からなくても、もっと先の未来まで見据える必要がありますよね。50年、100年という時間軸で考えたときに、その世代に何を残すかという責任は、やっぱり今を生きている私たちにあると思うんです。
五明:SDGsって、どちらかというと「自分には何ができるか」を考えさせられるものだと思うんです。でも、社会の仕組み自体が変わらない限り、意識のある人だけが頑張っても、全体はなかなか変わらないとも感じていて。どこまでできるのかは、正直、分からない。それでも、生きている世代の中で、少しずつでも引き継いでいくしかない。そう思っています。
川廷:命をリレーするように、社会のあり方もリレーしていく。その責任を引き受ける世代として、実際に行動して、手応えを感じている人の知恵は、すごく大事だと思っています。ぜひ、そうした経験や考えを、これからも発信していただきたいです。今後のご活躍を期待します。本日は、ありがとうございました。

お話を通して印象的だったのは、へちまをめぐる取り組みが、最初からSDGsや環境問題を掲げて始まったものではなかったという点です。かつてのへちまは、スポンジやスリッパ、靴の中敷き、さらには重油のろ過など、暮らしや産業の中で幅広く使われてきましたが、時代の変化とともに暮らしの表舞台から姿を消します。しかし現在、マイクロプラスチックやエネルギー消費といった課題に向き合う中で、へちまの性質や役割が、改めて見直され始めています。五明さんの郷土への思いや、へちまへの愛着が、活動を続ける原動力となり、その実践は人から人へと広がっていく。大きな理念を掲げなくても、日々の選択の積み重ねが、今の時代らしい持続的な取り組みになると感じました。(川廷)
浜松へちま・ミライ
かつて世界一の品質を誇るへちま産業が栄えた浜松の歴史を背景に、栽培・加工・活用を通して、プラスチックに頼らない暮らしを提案するプロジェクト。へちまスポンジの普及やグリーンカーテン作り、体験型の「満月へちま会」などを通じて、海洋汚染の原因となるマイクロプラスチックの削減に取り組んでいる。個人や企業、学校や、図書館などと連携しながら活動の輪を広げ、2025年度には500名以上が参加。メディアでも広く紹介され、次世代へとつながる実践として注目を集めている。
https://sites.google.com/view/hamamatsuhechima/