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更新日:2026年6月2日

カラスによるゴミ集積所の散らかしやムクドリのフン害など、鳥獣害による被害は多くの自治体を長年悩ませています。この社会課題に「音」の技術で立ち向かったのが、サウンドディープテックを軸とするスタートアップ、コムフォニック・ラボラトリーズ株式会社です。
同社は、周囲に騒音を漏らさず、特定の鳥だけに忌避音を照射し作用させる、給電不要のデバイスの開発に取り組みました。しかし開始早々から、野生相手ゆえの難しさに直面します。
「カラスが来ない」という最大の壁を乗り越え、どのように技術を検証していったのか。その背景には、浜松市の柔軟かつ迅速なサポートもありました。同社代表の福井勝宏氏(以下、福井氏)に話を伺います。
――まずは貴社の事業について教えてください。
福井氏:弊社は、音響信号技術を通じてよりよい世界を作ることを目指すスタートアップです。私は長年、NTTの研究所などで音響信号処理の研究開発に従事していました。現在はその知見を活かし、サウンドディープテックを軸とする先端的なプロダクトを生み出しています。

(事業報告資料より抜粋)
福井氏:今回の実証実験に応募したきっかけは、あるイベントで浜松市の方から直接悩みを聞いたことでした。「ムクドリやカラスによるフン害やゴミ集積所の散らかしが、市内では根深い社会問題になっている」と。
これまでもLED照射や音声発生装置など、鳥を追い払うさまざまな対策を試みてきたそうです。ですが、周囲の建物への影響が出てしまい、根本的な解決に至っていないと聞きました。
――長年の課題となると、ハードルの高いご相談ですね。
福井氏:たしかに「長年解決できなかったことに取り組んでほしい」と言われているわけですから、「本当にできるのかな?」と思う部分もありました。ですが、世にない音響信号技術を開発し、製品化まで実現できるのが私たちの強みです。「どこまで結果を残せるか分かりませんが、やってみます」と提案を提出しました。

(事業報告資料より抜粋)
――本事業を通じて、具体的にどのような技術でこの課題を解決しようと考えたのでしょうか。
福井氏:これまでの忌避策の欠点は、周囲のオフィスで働く人々や生活者への「騒音・光害トラブル」になることです。そこで私たちは、周囲に音漏れさせず、特定の鳥目だけにピンポイントで届く音波発生装置を開発しようと考えました。
音の分散を防ぐ特殊な信号処理を用いて、遠くまで音を真っ直ぐ飛ばします(指向性音響=サウンドビーム技術)。生態系や近隣住民に配慮しつつ、ソーラーパネルを用いた給電不要のデバイスにすることで、長期間の運用を可能にするソリューションを目指しました。

(フィールドとなった、天竜エコテラス(左、公式サイトより引用)と平和清掃事務所(右、公式サイトより引用))
――1年間にわたる実証実験はどのようなタイムラインで、どう進められたのでしょうか。
福井氏:2024年の秋ごろから浜松市の皆さんと打ち合わせを重ね、まずはフィールドを絞りました。
家庭ごみの集積所で実験することも検討したのですが、事前にさまざまな許可申請が必要なことが課題に。「カラスが出たから今から実験に行きます」といった、スタートアップならではの機動力が生かせません。
そこで、市の所管施設「天竜エコテラス」にフィールドを定め、カラス被害に的を絞って実証を行うことにしました。現地では、洗車場の断熱材がカラスにつつかれてボロボロになるなど、被害が出ていたためです。いずれ他の動物への横展開も見据え、まずはカラス対策で実績を出そうと決めました。
進め方としては、カラスを追い払えるような忌避音を選定し、その有効性を確かめます。あわせて、カラスにだけ忌避音を当てられるデバイスを開発し、音の当て方など運用方法も検討していきました。

(事業報告資料より抜粋)
――早期にフィールドも決まったことで、実証は進めやすかったのではないでしょうか?
福井氏:はい、滑り出しは好調でした。ですが、いざ現場で実験を始めると、想定外の壁はたくさんありました。主に野生動物を相手とする難しさです。
そもそも「カラスが現場に現れない」のです。浜松市の担当者さまが、カラスの生態を勉強し、集まりやすい時期や場所を特定してくれたにも関わらず。
カラスは賢い生き物です。エサを撒けば少しの異変を察知しますし、人間が装置を構えて待機していると全く寄ってきません。朝7時に集合して夕方まで現場で待機しても、一羽も来ない日もありました。
またデバイスも、当初はパソコンとスピーカーをつないだだけの簡易的なプロトタイプを用いていました。空間に広がる過程で音が減衰してしまうため、カラスにピンポイントで当てることができなかったのです。
――カラスとの対峙が難しいとなると検証自体が難航しますね。そこからどのように進めたのでしょうか?
福井氏:まず「カラスが現場に現れない」という問題については、平和清掃事業所へフィールドを移しました。浜松市の担当者さまが現地とコンタクトを取ったところ、近隣の藪をねぐらとするカラスが同事業所に集まっていることが分かったのです。
「人間を警戒して近づいてこない」という課題に対しては、技術的な解決を図りました。100メートル先にいるカラスにもピンポイントで音波を当てられるよう、給電不要かつ遠隔操作のできるデバイスへと開発をシフトしたのです。AIカメラがカラスを認識し、カラスに自動で音波を当てる仕組みの開発にも取り組みました。
浜松市の皆さんのフットワークの軽さと、臨機応変な対応には大いに助けられました。
――検証環境を作ってからが本番だったと想像します。
福井氏:はい、カラスにとっての忌避音を見つけるだけでも大変でした。浜松市の担当者さまから「今日はあの場所にカラスが出ているよ」とタイムリーな目撃情報をもらい、何度もフィールドに足を運びました。銃声にはじまり爆竹の音や獣の声など、あらゆる音を試してやっと、カラスの撃退に効果的な音を選ぶことができました。
ですが、忌避音を選定するだけでは仕組みとして不十分です。「この音がするということは、エサがある場所だ」と学習されては、逆効果だからです。どういう方式ならカラスを追い払え、寄せ付けなくできるか、音の当て方のパターンも検証していきました。

(開発の要となった今回の技術体系(事業報告資料より抜粋))
――この仕組みを完成するにあたっての技術的な要点は何でしたか?
福井氏:一番のポイントは、「周囲への音漏れを防ぎながら、遠くのカラスにピンポイントで音を当てる」ための信号処理技術です。実は、音を分散させない技術自体は、既存のものを応用しています。指向性スピーカーも、30万円ほどで購入しました。
ただし、数ある音響技術のなかからどれを選択し、デバイスへどう実装するかは、長年の知見が問われる部分です。ここがもっとも弊社の技術が生きたポイントですね。
カラスがその音に慣れてしまうことを防ぐ仕組みにも工夫が必要でした。カラスの反応に合わせて音声を切り替えるといった、インタラクティブな仕組みを組み込んでいます。

――実証実験を通じて得られた成果や学びについて、どのように評価していますか?
福井氏:遠隔操作デバイスを用いた結果、遠くの山にいるカラスに音をぶつけて群れを追い払うことにも成功しました。そのようにしてこの1年で、カラスの一斉退避と再侵入ゼロという効果を確認できたことは大きな成果です。
私たちが開発したのは、ただカラスを追い払うだけの技術ではありません。遠隔でカラスを追い払うことができ、以降もなるべく寄せ付けない科学的なアプローチです。さらに、給電不要の自動化デバイスを開発し、実用化を見据えたテストを行えたことが、何よりの収穫だったと考えています。
――得られた成果をもとに、今後はどう進展していきますか?
福井氏:現在、畜産法人などと連携し、畜舎や倉庫でのカラス被害を防ぐ新たな実証実験へと横展開が進んでいます。本件で確立した仕組みを応用したところ、家畜のエサを保管する倉庫へのカラスの飛来をゼロにする結果が出ました。
今後は、ごみ集積所にとどまらず、倉庫や工場、牧場、畑など、鳥獣害に悩むさまざまな現場への導入を目指していきます。ロードマップとしては、2027年ころを目標にデバイスの量産化と市場投入を目指し、商用開発のプロセスを加速させていく計画です。

(終盤にはロボット化(パトロールの自動化)にも取り組んだ)
――さいごに、浜松市での実証実験を検討しているスタートアップの皆さまへ、メッセージをお願いします。
福井氏:もし少しでも応募を考えているのなら、絶対にやるべきだと思います。それは、本事業に取り組むことでイノベーションを起こせる可能性があるからです。
日本は少子高齢化が進む課題先進国であるにもかかわらず、その解決策がなかなか日の目を見ていません。社会課題を解決し、ウェルビーイングな世の中を作っていくためには、今より多くのイノベーションを起こす必要があります。そして、イノベーションは「できないかもしれないこと」に挑戦するからこそ生まれるものです。
私はこの春から金沢工業大学で教授に就任するのですが、そこでは学生たちに起業の面白さを伝えていく予定です。学生のうちに起業することはリスクが少なく、たとえ失敗してもすべてが貴重な経験として積み重なっていくからです。
ですから、もし少しでも応募を“迷っている”人がいるなら、迷わずエントリーしていただきたいと思います。本事業のような素晴らしい機会を通じ、挑戦する同志が増えてくれることを願っています。
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