緊急情報
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更新日:2026年6月2日

「人工呼吸器」や「胃ろう(チューブで栄養を送る処置)」などの医療的ケアを日常的に必要とする「医療的ケア児・者※」。平時はもちろんのこと、災害時に必要な支援をどう届けるかは、地方自治体にとって喫緊の課題です。
浜松市実証実験サポート事業(以下、本事業)を通じ、この課題に取り組んだのがバーズ・ビュー株式会社とそなえ株式会社のチームです。平時から医療的ケア児の情報を一元管理・更新でき、発災時には迅速な情報連携につなげるシステムを構築しました。
専門家を交えた体制づくりや、開発手法の変更といったハードルを乗り越え、実効性の高いシステムを作り上げた舞台裏とは? プロジェクトを牽引したバーズ・ビューの原田 瞭太氏(以下、原田氏)と、そなえの大榮 勇貴氏(以下、大榮[おおえ]氏)に聞きました。
※ 医療的ケア児・者とは|医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童・成人のこと。厚生労働省より一部引用

(原田氏(左)、大榮氏(右))
――まずは、浜松市実証実験サポート事業に応募したきっかけをお聞かせください。
原田氏: 弊社は医師が創業したスタートアップで、救急・災害医療など急性期領域におけるITソリューションを提供しています。そなえさんとは、岡山県吉備中央町のスーパーシティ・デジタル田園健康特区などでも協業を進めています。お互いのステップアップとなる新たな機会を調べていく過程で、本事業について知りました。
他の地方自治体でも実証実験の機会はありますが、急性期医療という特殊な領域において私たちが関与できる枠組みは意外と少ないのが現状です。そんななか、浜松市が「医療的ケア児・者のデータ管理と連携の課題」をテーマに掲げており、私たちが取り組むべきだと感じて応募しました。
大榮氏:弊社は岡山大学病院発のベンチャーとして母子関連の支援を行っています。本事業においては、システムの構築部分を担いました。改めて今回の応募の決め手を考えると、強力な協力体制を作れたこともあったと思います。
弊社のアドバイザーである岡山大学(令和6年[2024年]6月時点)の牧 尉太先生は、医療的ケア児の緊急時支援について、以前から強い問題意識を持たれていました。本件のアドバイザーとして協力いただけることに。
さらに牧先生を通じて、聖隷浜松病院の杉浦 弘先生・社会福祉法人聖隷福祉事業団の大木 茂先生とも顔合わせをさせていただき、事業へのご理解を得られたことが応募のモチベーションになりました。

(令和6年(2024年)9月の事業提案資料より抜粋)
――本事業で解決に取り組んだ課題についても教えてください。
原田氏:令和3年(2021年)9月に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」により、地方自治体には医療的ケア児・者への支援が義務付けられています。一人ひとりに適切な支援を届けるためには、対象者の全数と個別状態を把握する仕組みが必要ですが、構築へのハードルは高いのが現状です。
浜松市でも紙ベースの調査は行われていますが、リアルタイムの情報更新は難しく、とくに災害時の対応が困難だと懸念されていました。そのうえ個人情報の壁もあり、行政や関係機関が連携して動くためのプラットフォームが存在しなかったのです。こうした情報の空白を埋め、救命に資する支援体制を整えることが、私たちのミッションでした。

大榮氏:そのために本事業では、医療的ケア児の情報を登録するPHRデータベース(※)と、関係者がつながるメッセージングプラットフォームを融合。平時の情報管理と災害時の迅速な安否確認を両立できるシステムの構築を目指しました。
※PHRデータベースとは|Personal Health Record データベースの略。健康診断結果や服薬履歴、アレルギー情報といった個人の健康情報を本人やその家族、関係機関などが管理・共有するための仕組み
――1年間におよぶ期間中、具体的にはどのように進めましたか?
原田氏:2024年9月のスタート時から約半年間、要件定義をじっくり進めました。市の担当課から関係機関、対象者ご本人とそのご家族まで、システムのユーザーが多岐にわたるためです。誰でも直感的に使えるシステムでなければ機能しません。
具体的には、全体会議とは別に、「現状把握」「システムの要件整理」「運用方法」の3つのワーキンググループ(WG)を設置し、こまやかな議論と意思決定を重ねました。
――万全の体制で取り組んだことが分かります。では、要件定義は順調に進みましたか?
原田氏:実は、議論が深まったからこその要件変更もありました。ユーザーごとの権限付与や、緊急時の連絡パターンの細分化など、本件ならではの要件が見つかったのです。
もっとも大きな変更は、開発の速さから選んだノーコードツール(個別のプログラミングが
不要な開発ツール)での開発から、個別開発に切り替えたこと。とくに発災後72時間以内、4報までのフェーズに応じた情報の出し分けを実現するためには、汎用的なツールの流用では限界がありました。
大榮氏:すでに要件定義も進んだ2024年の末ころでしたが、バーズ・ビューさんと弊社で「ゼロから基盤を作りなおそう」と決断。浜松市の担当者さまと各WGメンバーも「ユーザーにとって使いやすいものになるなら」と前向きに受け入れてくれました。
――それは英断でした。その後はどのように進めましたか?
原田氏:5月にシステムのα版を完成させたあと、実際のユーザーにテスト使用していただき、フィードバックを得る期間を設けました。7月には市や支援施設の担当者さま向けに詳細なデモを実施し、操作マニュアルのブラッシュアップを行っています。
そして8月、本実証の集大成として災害訓練を実施しました。大規模地震を想定し、構築したシステムを使って安否確認やケア情報の送受信を行うなど、本番さながらの検証を行ったのです。

(デモの様子)
――プロジェクトの終わりも近い時期ですが、災害訓練でのテスト検証も行ったのですね。
原田氏:はい。当初の計画にはありませんでしたが、アドバイザーの杉浦先生から「市の災害訓練が近く行われるから、それにテストをあわせてはどうか」と提案をいただき、実現したのです。
それまでの議論を通じ、「現場で機能するシステムを作りたい」という共通認識を作れたのだと思います。チームが一丸となって「やろう」と動くことができました。
大榮氏:災害訓練には、市の担当者さまのほか対象者の保護者や支援施設の方々にも参加していただき、実運用上の細かな課題を浮き彫りにすることができました。そこからシステムを改良し、本番運用が可能なレベルとして完成したのが『Rily(リリー)』です。

(『Rily』のユーザー画面。テスト検証を経て、取得する情報の項目を厳選した)
――『Rily』の由来は何ですか?
原田氏:正式名称である「Resilience & Emergency Lifeline system for Medically Fragile Children(医療的ケア児のためのレジリエンスと緊急ライフラインシステム)」の愛称で、大榮さんの考案です。
大榮氏:以下の3つのキーワードと、英語の「Reliable(信頼できる・頼れる)」という響きを掛け合わせました。
医療的ケア児とそのご家族にとって、災害時に決して切れることのない「命綱」であり、信頼して頼れる存在でありたいという願いを込めています。
――1年間の実証を通じて、どのようなことが得られたと感じていますか。
原田氏:私にとっての一番の学びは、「ユーザー理解」でした。市内には想像以上に多くの施設が点在しており、発災時の被災状況も千差万別になります。発災時に対象者がどこにいるのかといった現場感は、実証を通じて初めて体感できました。いざというときに取得すべき情報も、災害訓練を実施しなければ吟味できなかったことの1つです。
大榮氏:私は、発災時の情報の流れがケースバイケースであることを痛感しました。たとえば対象者が保護者と一緒にいるパターンもあれば、施設を利用中で施設側は安否が分かっているけれど保護者は分からない、というパターンもあります。
どうすれば「一人が発信すればみんなに伝わる」仕組みにできるのか。今回のプロジェクトを経て、当初の提案よりも詳細に整理できました。訓練後のアンケートで、保護者の方全員から「生活やケアに役立ちそう」と回答いただいたことは、開発者としての自信になっています。
――最後に、今後の展望と、浜松市での実証実験を検討している企業へメッセージをお願いします。
原田氏:今後は、今回構築した『Rily』を浜松市での本格導入につなげることはもちろん、ここで得た知見をモデルケースとして、全国の課題解決に展開していきたいと考えています。医療的ケア児・者とそのご家族にとってのライフラインとなるよう、社会実装に向けて邁進していきます。
大榮氏: 浜松市の実証実験サポート事業は、単にフィールドを借りるだけでなく、担当者の方が「一緒に汗をかき、本気で考えてくれる」事業だと感じました。事務局の伴走も得られ、行政や医療の垣根を越えた信頼関係を築くことができました。
社会課題に対し、本気でソリューションを作りたいと考えているスタートアップのみなさんへ、ぜひ本事業への参加をおすすめしたいと思います。
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