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更新日:2019年3月31日

天竜川で鮎釣りを楽しむ人

「鵜よりもね、魚がどこにいるか知っているんだ」(PDF:199KB)

初夏の風物詩

6月1日、午前4時。空にはまだ星を見ることができる。普段であれば、多くの人が寝静まり、聞こえるのはウグイスのさえずりくらいだが、この日ばかりは様子が違う。天竜川の河原には、鮎の解禁日を心待ちにしていた釣り人たちが、続々と車に乗って集まってきた。中には、前日から泊まり込みで場所取りをしていた人たちもいる。釣り人たちの朝は早い。

ある釣り人から待ち合わせに指定された時間も午前4時。釣り人の家は、天竜川の目と鼻の先にある。予定の時間ぴったりに赤のウインドブレーカー、麦わら帽子、長靴のいでたちで現れたのは阿隅さん。この道50年以上の大ベテランだ。

「残念だけど、今日は釣れそうにない。鮎がいないんだよな」と阿隅さんの第一声。竿を投げる前から、釣れるかどうか、鮎がいるのかどうかが分かるという。阿隅さんはこう続ける。「みんな、鮎が跳ねているかでだいたい見極めている。でもね、跳ねてる鮎は実はあんまり釣れないんだ。俺はね、川底の石の色をよーく見る。鮎がどれだけコケをなめているかをね」。

そういわれて川に目をやるが、素人が見てもよく分からない。阿隅さんの話しでは、鮎が多くいる場所は、石が黒光りをするほどになるらしい。そして、この辺りの川は、どうもそういった状態ではないのだそうだ。

「俺はね、鵜よりも魚がどこにいるか知っているからさ」。阿隅さんはそう言って笑った。しかし、それもまんざら嘘というわけではない。阿隅さんの日常は、毎朝の愛犬との散歩で始まる。365日、天竜川の堤防沿いを歩く。わずかな川の変化も見逃さない。

達人の技 マジックショーのごとく

「みんながいるところで釣るのも何だし、少し穴場に行こうか」という阿隅さんの後を追う。長靴姿だが、岩場を歩くのがとにかく速い。こちらはスニーカーを履いていたが、その速さにとても追いつかない。「足場が悪いから、ゆっくりこいよ」阿隅さんはそう気遣ってくれた。子どもの頃から通い続ける天竜川は、文字通り阿隅さんの庭なのだ。

午前4時30分。少しずつ東の空が白んでくる頃、阿隅さんは慣れた手つきで糸を垂れ始めた。「そうだな、10分後には1匹目が釣れればいいところかな」時計を見やってそういった。実際に初物を釣り上げたのは、予告通り10分後。まるでマジックでも見ている気分だ。この手品にタネや仕掛けがあるのか聞いてみたが、特別なことはしていないと笑う。「まぁ、誰でも同じように釣れるわけじゃあないんだけどね」と阿隅さん。川の中の魚を、自分のところだけに集める術でもあるのだろうか。

達人の流儀 2時間一本勝負

毎年、解禁日である6月1日から、4時に家を出て、釣りに出かける日々が続く。ただし、長時間、河原にいることはない。「例えば、6時8分に天竜浜名湖線の電車が鹿島の鉄橋を渡る。そしたら、その日の釣りはおしまい」。阿隅さんの鮎釣りは、4時から6時までの2時間一本勝負だ。「釣れない釣りはしない」というが、現に日が昇った後では鮎は全く釣れなくなるという。今では、仕事もリタイヤし、朝から晩まで釣り三昧の生活もできるのだろうが、1日2時間までというのは、現役時代からの一貫したスタイル。ちなみに2時間で、どのくらい釣り上げるのか聞いてみたが、簡単には答えてくれなかった。内緒にするからとお願いすると「隣の人の3倍くらいかな」としばらくしてから教えてくれた。

この日も午前6時になると、阿隅さんは愛犬の散歩があるからと、意外なほどあっさり竿を片付け始めた。魚籠の中には40匹ほど。鮎がいないとは言いながら、他の釣り人たちに比べると、その数はやはり3倍近い。

「やっぱり今日はだめだったな」と阿隅さん。どうも納得がいかない様子だ。それでも「また、明日だな」と語る目は少年のよう。こうして、太公望のいつもの6月がいつものように始まる。阿隅さんは、先ほどと同じさっそうとした身のこなしで、その場を後にしていった。

―午前6時15分。

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