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更新日:2019年3月31日

霧穴で種芋を保管する人

「ここは何といっても霧、昔の人の知恵なんだろうな」(PDF:242KB)

霧立つまち「龍山」

天竜区の中でも、急峻な場所が多い龍山町。山々に張り付くように集落が点在し、その多くの場所では、天竜区の象徴”大天竜”の雄大な流れを望むことができる。また、龍山町は年間降水量がおよそ2,500ミリと、雨が多い土地柄でもある。区内に住む人たちの中には「雨の通り道」というイメージを持つ人も少なくないようだ。自然の恵みである雨は、龍山の主要産業である林業や茶業などを支えてきた大切な存在でもある。

そしてもう一つ、龍山の気候で特徴的なのが霧の多さだ。天竜川やその支流から湧き立つ霧は、この地に住む人たちの生活を語る上では欠かせない存在ともいえる。実際、住民の中には「龍山といえば霧」と私に語ってくれた人もいた。

このように、水とは関連が深い龍山で、この地ならではの暮らしを探る中、「霧穴」という全く聞き慣れないものの存在を耳にした。

霧が吹き出す穴?
はたまた、霧の立ちこめる洞窟?

いろいろなイメージが頭を巡り、当然のことながら本物の霧穴が見てみたくなった。地元の人の話では、どうやら霧穴とは、種芋などを保管している穴のことのようだ。いずれにしても、やはり百聞は一見にしかず、である。龍山で霧穴を日常的に使っているという人を調べ、実際に訪ねてみることにした。

謎の穴の正体を訪ねて

11月初旬、龍山町大嶺の岩明地区に住む生田さんを訪ねた。生田さんは、70代後半の男性。優しい笑顔のお父さんだ。詳しい話を聞く前に、そのものを見た方がよいのではと、さっそく霧穴のある山中まで案内してくれた。雑木林の中をしばらく歩くと、視界が一気に開けた。眼下には天竜川。龍山では幾度も同じような光景を目にしたが、何度見ても見飽きない。日々、この風景の中で生活している人たちをうらやましく思った。

さらに山の中を進むと、生田さんが「これが霧穴だよ」と指差した。電気柵で囲われた場所にトタンがかぶせられている。生田さんがトタンをよけると、4つほど穴が顔を出した。一つの穴は、およそ直径1メートルといったところだ。

「最近は、イノシシやらシカやらが増えて困ったもんだ」と生田さんは苦笑いした。霧穴を取り囲むように設置された電気柵も生田さんが自ら手掛けたものだという。なかなか手間のかかる仕事だろうと想像した。

霧穴に近づいてみると、深さ1メートルほどの穴の中にショウガの種が保管されていた。11月に取材することにしたのは、種芋となる里芋の収穫がこの時期と聞いていたためだったが、少し時期が早かったようだ。生田さんは「残念。種芋はこれからだな」と笑った。自然が相手だ。こればかりはしょうがない。

穴の中を見ると、表面の土がしっとりと濡れている。生田さんは「霧穴といっても、目に見えるような霧が立つわけじゃあないんだよ」と言った。それでも穴の中は、霧が立ちこめているかのごとく、年中一定の湿度と温度が保たれるそうだ。これは山にしみ込んだ水分が関係しているものと考えられる。実に雨が多い龍山らしい。

誰かのために生きる

生田さんの家まで戻り、その軒先で話の続きを聞いた。生田さんが住む岩明地区は、標高200メートルほどの山の上。この地区を下ったところには、霧窪と呼ばれる場所もあるそうだ。

「毎日、山の上から見てると、霧で気流の流れが分かるんだよ」と生田さん。「あっちから、まとまった固まりがくると天気が悪くなる」と遠くの山を指差しながらいった。「霧穴もそうだけどね、昔の人の知恵なんだろうな。どこかでそういう知識を得てね」と自然と共に暮らしてきた先人たちに敬意を払った。生田さんの霧穴も、三代前の先祖がその場所を見つけて掘り、今に受け継がれたものである。「100年はゆうに使っているね」とその歴史の長さを話してくれた。

天然の貯蔵庫である霧穴。昔はあちこちにあったとそうだが、今ではあまり見かけなくなったという。今でも現役の生田さんの霧穴は、近所の人たちの種芋の保管にも使われている。「まぁ特段、貸してるって感覚はないんだけどね。入れば入れていいよっていうだけでね」と生田さん。こういう寛容さが田舎のよいところだ。共同で使用しているとはいっても、先ほどの電気柵をはじめ、周辺の草刈りなどの管理は、生田さん一人でやっている。こうした作業をいとわないところも、田舎に住む人の人間力である。

生田さんとは、集落内の生活環境の維持にまで話が及んだ。かつては23世帯あったという岩明地区だが、今では10世帯にまで数が減り、高齢化も進んだ。周辺は、茶畑や森林などで囲まれているため、手入れをする人がいないと一気に荒れ果ててしまうと生田さんは心配する。現役時代から山仕事や茶業に携わってきたという生田さん。今は草刈りや茶の木の剪定などを近所の人たちから頼まれることも増えた。

「頼まれると断れんだよ」と生田さんは苦笑いとも、困り顔ともつかない表情でいった。「よそのことだからって、ほっとけばみんな住めなくなっちゃうしね。やれるうちはやるだけだな」とも語る。多くの人が頼りにしてしまうのは、生田さんの人柄があってこそだろう。

誰かのために労を惜しまない生田さんの生き方には頭が下がる。単に田舎の人とひとくくりにするのは、やや乱暴かもしれないが、田舎の人を象徴するような温かな人に出会えて本当によかった。

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