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更新日:2019年3月31日

小規模飲料供給施設を管理する人

「大変になってきたけど、やらなきゃしょうがないもんね」(PDF:234KB)

住民の手で守る飲み水

私たちが生きて行く上で欠かすことができない「水」。現在では、多くの地域で上水道が整備されており、蛇口をひねれば簡単に出てくるもののように思われがちだ。しかし、急峻な山あいにある龍山町では、大規模な水道設備の設置が困難なため、住民たちによって組織された組合によって管理される小規模な飲料水供給施設がいくつかある。

今回、取材したのは、寺尾・中村北飲料水供給施設の管理を中心的に行っている中澤さん。中澤さんの住む集落は現在10戸、龍山町瀬尻の橿山から下った山の中腹に位置する。

まず、中澤さんとともに私たちが向かったのは、水源となる沢のある場所だった。取材に訪れた11月は、水が豊富に流れ出ていたが、1年を通すとこういった場合ばかりではないそうだ。

「特に冬場だね。毎年2月からの1カ月は、この水源が枯れてしまうことがほとんど」と中澤さんは言う。水が少ない時期には、予備水源から取水し、何とか必要な水を確保する。「水の量には限りがある。集落内のどこかの家が水を出しっぱなしにすると他の家に影響するから困っちゃう」と中澤さんは苦笑いした。

水源から各家庭までの間には、タンクが5カ所設置されている。これらの掃除や点検は、業者に委託しているが、年1回の大掃除は、集落に住む人たちの手によって行う。しかし、過疎化と高齢化により、近年こうした活動も厳しい状況だ。「今はだいたい6、7人で大掃除の作業をするんだけどね、68歳の人が一番の若手」と中澤さん。昭和47年に最初の施設が整備された頃は、水当番を作って交代で水源やタンクを掃除してきたそうだが、現在は中澤さんが一人で掃除を担うことも。特に、台風など大雨の後は、水が濁ったり、砂利がたまったりと大変な作業になることが多い。

集落の暮らしを支える人

昭和47年以前のことを聞くと「竹をつないで、沢や湧き水を各家庭に引き込んでいた」と教えてくれた。その名残で、中澤さんの家の周りには、今も竹のパイプがいくつか残されていた。中澤さんの住む寺尾地区は標高およそ450メートル。生活に必要な水を確保するため、先人たちもかなり苦労しただろうと推し量った。

中澤さんの家に戻ると、施設整備を行った当時の資料などを見せてもらうことができた。管理組合を設立した経緯や、水当番の日誌などもきっちりと残されている。特に興味深かったのは、水の通るルートやろ過器などの操作方法が細かく示された説明書だ。写真入りの説明書は、中澤さんがパソコンで自作したもの。おかげでどのように水が自宅まで供給されているか各家庭でも承知しているそうだ。地域の歴史などの文献を個人的に整理しているという中澤さんならではの仕事といえば簡単だが、誰にでもできることではない。この資料から、集落内で中澤さんが果たす役割の大きさをうかがい知ることができた。

「大変になってきたけど、誰かがやらなきゃしょうがないもんね」と中澤さん。人のために自分の力を出し惜しまない生き方には、頭が下がる思いがした。

誰かの喜びは自分の喜び

地域内での中澤さんの役目は、水道施設の管理だけにとどまらない。手先が器用なこともあり、正月時期になると「しめ縄」づくりを一手に引き受ける。その数大小合わせておよそ100本。中澤さんは「父親がやっていたのを子どもの頃に隣で見ていたから、いつの間にかそれにならって自分もやるようになった」と、今に至る経緯を教えてくれた。

わらを一つ一つ手作業で丁寧にすく作業から始めるため、11月に入ると手掛け始めるそうだが、これはすべてボランティア。しかもきちんと注文先がリスト化されている。注文先は町外にまで及ぶそうだ。「売るのではないんですか」と聞くと、にこにことするだけで、特にそういうつもりもないとのこと。しめ縄づくりに必要なわらはおよそ200束ということだが、これも中澤さんが個人で用意しているというから驚く。

この他にも、瀬尻地区の名物「ぶか凧」の糸も、実は中澤さんの手によって作られているのだそうだ。250メートルにもなるという糸は、2カ月から3カ月をかけて麻をより上げて作る。1日の作業時間は、およそ12時間というからこれまた驚きだが、その苦労を中澤さんは感じさせない。自分の役目をただ果たしているだけといった表情で「凧が大空に揚がっていくのが、毎年の楽しみだよ」と話してくれた。

今は、この他にも地域内の屋号や空き家など調べてまとめているという中澤さん。昔のことを知っている人がいるうちにやっておきたいと話してくれた。話しを聞けば聞くほど、その「まめさ」にただただ感心させられるが、中澤さんは「奉仕といえば奉仕、遊びといえば遊び」と笑うだけ。その飾らない人柄も含め、魅力的な人だと感じた。

中澤さんの家からは、正面に竜頭山、眼下に天竜川という絶景を見ることができる。こうしたロケーションで毎日暮らしてきたことが、中澤さんのおおらかな人柄に少なからず影響しているのだろうかと、話しを聞きながら、ふと思った。それほど素晴らしい風景だった。

庭先ではヤマガラが羽を休めていた。私たちと同じように天竜川と対岸の山々を眺め見てから、しばらくすると気持ち良さそうに飛び立って行った。鳥にだってここから見る景色の素晴らしさが分かるのかもしれない。いや、もしかすると、中澤さんの温かい人柄に魅せられて、ここに立ち寄るのかもしれないな、と思うと何だか妙に納得した気持ちになった。

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