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更新日:2020年4月1日

伝統の舞を受け継ぐ人たち

「変わることもあるし、変えられないこともある」(PDF:257KB)

伝統の舞と水

天竜区には、数百年の歴史を持つ伝統芸能が数多く残されている。これは、昔から東西を結ぶ交通の要衝として、人や物の交流が盛んに行われてきた土地柄から生まれたものとされる。県指定無形民俗文化財である「川合花の舞」は、天竜区を代表する伝統芸能の一つだ。

佐久間町川合地区に伝わる川合花の舞は、奥三河の花祭に由来するとされる湯立神楽。同地区の八坂神社で行われる祭りは、神社境内で舞処の中央に置いた湯釜の周りで一昼夜舞が奉納される。今回、この地を訪ねることにした理由はこの湯釜の中にある。釜の中で沸く水は「浜水」と呼ばれ、これを汲み取る浜水汲みという神事から祭りが始まるというのだ。400年以上もの歴史を持つ伝統芸能にも、やはり「水」。天竜区らしいと感じた。

10月25日、午後2時。川合地区の会場近くに到着。たまたま出会った人に駐車できる場所を聞こうと声をかけると、この男性の家の前に停めてもよいと許可をもらった。見ず知らずの自分に対しても、とても親切。図らずも田舎ならではの優しい人柄にふれることとなった。

祭りが行われる八坂神社に着くと、境内には、舞処(舞を行う場所)と呼ばれる二間四方の空間が作られ、祭りの準備はほぼ整っていた。会場には、地元の人よりも、こうした伝統芸能を訪ね歩いているという人たちの姿が多く目立つ。熱心な人は、浜水汲みを見たいと早くから会場に足を運んだようである。

その中の一人、三遠南信地方の民俗学を研究しているという男性は「浜水、つまり海水(塩水)で身を清め、無病息災を願うという習わしでしょう」と浜水の意味を解説してくれた。「一つひとつのことに意味がある。ぜひそれを感じてほしいですね」と続けた。

海にはほど遠い山あいの集落、川合地区。浜水という言葉が使われるのにはこうした意味がある。かつて、浜水汲みは、遠州灘につながる天竜川まで水を取りに行っていたこともあったそうだ。時代とともに、少しずつ形を変えながらも伝統は確かに守られ続けている。

午後3時。浜水汲みを行うため、1つの木桶を男性2人が持ち、神社近くに湧き出た水を汲みに向う。男性2人は神妙な面持ちで粛々と水を汲み、これを八坂神社まで持ち帰る。境内は神聖な祭りの幕開けに相応しい雰囲気に包まれた。

祭りで地域が一つになる

日が暮れる頃になると、境内のあちこちで火が焚かれ始めた。先ほどの浜水は舞処の中央の釜の中でぐらぐらと煮え立っている。舞処では、この場を清める「地固め」に始まり、最後の「湯上げ」まで20もの演目が行われる。舞は笛、太鼓、歌謡に合わせて五方(東西南北と中央)に舞子が舞う。舞子を務めるのは子どもから大人まで、地元のさまざまな年代の人たちだ。中には、この祭りのために遠方から帰省したという若者もいた。

「毎年10月に入ると子どもたちの練習が始まるんですよ」と話してくれたのは、浜水汲みを行った一人、榑松さん。「今年は、初舞になる幼稚園児が3人。心配ですね」と自分のこと以上に心配な様子だ。人が大勢いた時代には、小学生になって初めて、舞子として参加できたそうだ。「やりたくても、やらせてもらえず、順番待ちだった頃もあったのにね」と当時を振り返る。

榑松さんは舞処で繰り広げられる舞に目をやりながら、話しを続けてくれた。その起源は鎌倉時代まで遡るとされる歴史ある祭りをどのようにして残していくか。これは川合地区の大きな課題なのだと。

川合花の舞保存会の会長を務める嶋田さんも同じことを懸念する。「最近は、近隣の地区の人たちも舞を舞ったり、笛を吹いたりしてくれる。昔は男性だけが舞に携わっていたんですが、そんなこともいってはいられない。今は、女の子もみんな参加しています」と現状を語ってくれた。そして「口伝えで継承していくから、時代と共に変わっていく部分もあると思うんです。でもね、例えやり方が少しずつ変わっても、地域で祭りを守り続けていくんだという気持ちは変えられないですよね」と続けた。

次の世代は確かに育っている

現在70世帯ほどの川合地区。この日、取材をする中で10年後、20年後を心配する声が多く聞かれたのも事実だ。

しかし、一方で頼もしい言葉も聞くことができた。この日も舞を見事に奉納した中学生たちからだ。幼稚園の頃から参加しているという彼らにこのまちの伝統の舞について聞くと「自分たちのふるさとに、自慢できるものがあるのがうれしい」と間髪入れずに返ってきた。「花の舞の歴史は川合の誇り。ずっと続けたい」とも。その言葉を聞いて胸が熱くなった。

先ほど榑松さんが心配していた初舞の3人は、花の舞の名の由来ともいわれる花笠をかぶって舞処に登場した。舞を指導してきた地元の大人たちはもちろん、多くのカメラマンたちや見物客たちもその可愛らしい姿に温かい眼差しを送る。そして、30分を超える舞を踊り切った子どもたちには大きな拍手。会場は温かな雰囲気と一体感に包まれた。

4歳の子どもたちにとって、この日の出来事がどんな思い出になるのかは分からない。しかし、これまで数百年にわたって受け継がれてきた襷が、川合地区の一員として、彼らのその小さな肩に掛けられた日になったと信じたい。

最後に、取材中に聞いた川合地区の集会所について紹介する。数年前に立て替えた際、舞の練習ができるようにと、わざわざ土間が広い設計にしたそうだ。日常生活に伝統文化が根付いていることを示す好例だ。何事も一つひとつに意味がある。改めてそう感じる話だった。

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