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更新日:2019年3月31日

樽山の滝を見守る人

「山の恵みをいただきながら暮らす。ここの生活は豊かな生活だと思うよ」(PDF:222KB)

山に生きるものとして

「山のことをもっとたくさんの人に知ってほしい。でも、あんまりこの場所のことは知られたくなかったりもするんだけどね」と追平さんは笑った。その場所は、春野町田河内の山の中にある「樽山の滝」。この日、追平さんを訪ねたのは、秘境にあるというこの滝を案内してもらうためだ。

その道中は、間伐が行き届いた山林の中にある林道。管理は、山仕事を生業とする追平さんの仕事によるものだ。「林業も機械化が進んでね。昔に比べると効率も上がったんだよね」と追平さん。天竜美林を有する天竜区だが、なかなかここまで手の行き届いた山の中を歩く機会は少ない。

「僕たちは、水源となる森を守らなければいけない」と追平さんは言う。それが山に住む者の役目だと。その一方で「下流部にあたる都市部の人たちには、自然の恵みを実感し、できれば応援してもらえたらいいんだけどね」とその思いを語ってくれた。最初に追平さんがいった「山のことを知ってほしい」とは、ここに住む人たちと、その暮らしも含めてという意味なのだろうと思った。

自然の恵みに感謝して

林道を歩くこと30分。先ほどまでは静かだったが、遠くの方で滝が流れ落ちる音が聞こえてきた。「もうすぐそこだよ」と追平さん。後をついて杉林をさらに進むと、突然、目の前に落差20メートルほどの見事な滝が姿を現した。なるほど、確かに秘境という言葉がふさわしい場所だと納得した。追平さんの話では、これが一の滝。さらに二の滝、三の滝があるのだそうだ。「樽山を螺旋状に水が流れているんだよ」と、山の方を指差しながら追平さんは教えてくれた。

しばらくの間、何を考えるともなく、絶えず流れ落ちる滝に見入った。木漏れ日が差し込み、水しぶきがきらきらと光る。滝の脇には小さな祠があり、水神様が祀られていた。30年ほど前に地元の人が設置したそうだが、以来、渇水に見舞われることもなくなったという。こうした話一つをとっても、この地に住む人たちが、いかに水を大切にし、その恵みに感謝しながら生きてきたかをうかがい知ることができる。

豊かな生活とは何か。

先ほど来た道を帰りながら話しは続く。兼帯を腰につけていた追平さんは、その道すがら、目についた木の枝や草をなたで払いながら進んだ。「道具は大切にされますか」と尋ねると「農家なら鍬や鎌、山仕事ならのこぎりとなた。生きるための道具は大切にしなきゃね」と答えてくれた。

「昔はテレビゲームなんてなかったからね。子どもの頃から、遊び場といえば山。道具の使い方も、手入れの仕方も自然と覚えたもんだよ」と笑った。今は「刃物は危険」と子どもたちに使わせないことが多いが、本来は道具を使う中で、その危険性を知ることが大切なのかもしれない。かくいう自分もなたの使い方一つ知らない。前を行く追平さんを見ていると、こうした道具に触れてこなかった自分が恥ずかしく思えた。

しばらくすると、ふと思いついたように追平さんが切り出した。「何が豊かな生活かは分からないけどね」と前置きし「仮に稼ぐお金が少なくても、山の恵みをいただきながら暮らす、ここの生活は豊かな暮らしだと思うんだよ」と続けた。そして、山里の魅力を伝えるために、自分は山を守り、これに感謝して生き続けたい、とも。ふるさとに誇りを持つ人の言葉だからこそ、その言葉にも説得力があった。追平さんの後を追いながら、その言葉がしばらくの間、私の胸に響いた。

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