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更新日:2022年12月26日

浜松市ユニバーサル農業研究会インタビュー「京丸園・鈴木厚志」

京丸園・鈴木厚志1

 

京丸園株式会社 鈴木厚志

プロフィール

 京丸園株式会社(中央区鶴見町)代表取締役、NPOしずおかユニバーサル園芸ネットワーク事務局長。平成9年から障がい者雇用をはじめ、現在ユニバーサル農園として障がい者24名を雇用する。姫みつば、姫ちんげん等オリジナル商品を生産し、JAとぴあ浜松、静岡経済連を通して全国40市場に周年出荷している。(平成28年10月)

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(PDF版:2,594KB)

 

ユニバーサル農園・京丸園のはじまり

 京丸園は芽ネギやチンゲンサイ、ミツバなどを栽培している農業生産法人で、現在74人の従業員のうち、24人が障がい者のスタッフです。経営理念は「笑顔創造」。農業を通じて笑顔を創造し、従業員さん、お客様の心と体の健康を応援する農園を目指しています。

 私たちが、精神や身体などに障がいを持った方を雇うきっかけになったのは、規模拡大のために求人を出した時のことでした。ある日、障がいを持った子とそのお母さんが来られて、農園で働かせてほしいとおっしゃいました。その時の私は、障がいのある方に農業は無理だろうと思いお断りしたのですが、「給料はいらないから働かせてほしい」と必死にお話しされるお母さんにおされ、1週間だけ農作業体験として受け入れることにしました。

 その時の「給料はいらないから働かせてほしい」という言葉は、しばらく私の頭から離れませんでした。当時の私は、仕事はお金を稼ぐためにするものだと思い込んでいたので、その真意が理解できなかったのです。その後、福祉施設に勤める知人にその話をすると、「障がい者を雇い入れる企業はまだまだ少なく、就職ができなかった方は福祉施設に行くことになる。福祉施設に行くということは面倒を見てもらう立場になり、働きの場に身を置くこととは違うのです。」と、障がい者の実情を教えてくれました。働くのはお金を稼ぐためだとしか思っていなかった自分が恥ずかしくなると同時に、私たちの農業が福祉の役に立つのではないかと思い始めたきっかけとなりました。

 農作業体験として受け入れ後、しばらくすると農園に変化が生まれました。健常者の従業員がその子を助けるようになり、コミュニケーションが生まれ、職場の雰囲気が明るくなりました。そして、障がい者のできる作業を受け入れ側が考えていくことで、農業経営に大きな変化が生まれてきたのです。

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手際よく出荷調整作業を行うスタッフ

 

障がい者に来ていただいてはじめて認識できた、農業の弱点

 障がいのある方を受け入れたことが、大きな気づきにつながった出来事がありました。

 あるとき、特別支援学校の生徒さんの実習を受け入れることになったのですが、いきなり野菜の生産に携わるのは難しいと思い、トレー洗いの仕事をお願いすることにしました。

 私は、「このトレーをきれいに洗ってください」と作業を頼み、1時間後に戻ってみると、その生徒さんは最初に手にしたトレーをずっと洗い続けていました。洗ってもらいたいトレーはまだ数百枚もあるのに…、そう思い私はすぐに先生に連絡し「この子に作業はできませんよ」と苦情を伝えました。すると、先生から「あなたはどんな作業指示をしましたか?」と聞かれたのです。私は、「『トレーをきれいに洗ってください』としっかり指示しましたよ」と伝えると、「そんな指示の出し方をするから生徒が迷うのです。そんな抽象的な作業指示を出しているから農業が衰退するのです。」と反対にお叱りを受けたのです。

 私は、その時はっと気が付きました。たしかに、農家の人たちは、水かけ作業の指示も「苗にちょっと水かけといて」とよく言います。作業指示は具体的でなければ、誰も作業を手伝ってもらえません。私たちの農業現場には抽象的な言葉が飛び交っている、後継者が育ちにくい状況にあるのだと認識した出来事でした。障がい者に農業現場に来ていただきはじめて、農業という産業の特殊さが自分の中で明らかになったのです。
 この先生の一言から、ブラシを回転させ、そこにトレーを入れ、上下に2回と指示できる機械を製作しました。その結果、作業精度が均一で、作業スピードは手洗いの2倍となりました。

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中にブラシを備え、トレーを入れることで洗浄できるよう製作した機械

 

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現在はさらに改良を加えたより効率的な洗浄機械も稼働している

 

福祉分野からの学んだ“作業分解”の視点

 農園で起こった出来事をもう一つご紹介します。

 ある日、特別支援学校の先生が農園視察に来て、そこで行っていた芽ねぎの定植作業を障がい者の生徒にやらせてほしいと言われました。芽ねぎの定植作業というのは、パネルに対して水平に、そして素早く作業しなくてはならないもので、健常者の中でも特に器用な人が行う、いわば「職人の仕事」でした。この仕事は障がい者では無理だろうと私は判断し、そうお伝えしました。ところが、特別支援学校の先生は学校にあった下敷きを持ってきて「こうすればうちの生徒でもできます」と、これを使い職人たちよりもきれいにはやく定植してみせたのです。

 農業では、種まきから収穫まで、すべて一人でできて一人前。職人にならなければいけないと私たちは教わってきました。しかし、福祉の方々は最初から一人でやろうとは考えません。作業を切り分けてみんなで誰もができるようにする“作業分解”の視点で仕事を考えます。また、仕事に人を当てはめるのではなく、目の前にいる人がどうやったらできるようになるか作業のやり方を工夫したり、治具や機械化を考えます。仕事に人を当てはめる考え方では、仕事や作業のやり方に変化はおきない。障がい者が働けるように、仕事や作業を根本から考え直すことが、農業に変化をもたらすのだ。そう気づかされた出来事でした。

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プレート一枚を使うことで誰でも均一な作業が可能となった

 

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ハウス内の虫を吸い取る虫取り機。ゆっくりと障がいのある方のペースで動かすことで、効果を発揮する。

 

“心耕部”で、農業をユニバーサルデザイン

 当園が障がい者のある方をはじめて雇用したのが約20年前。その後、毎年1名ずつの障がい者を雇ってきました。現在、社内には土耕部と水耕部、それから“心耕部”という部署を設けています。この心耕部に障がい者は所属し、生産部署で仕事を行っています。

 健常者の従業員には、採用が決まると、会社は「この仕事をお願いします」と依頼します。しかし、心耕部に所属すると、「あなたはどんな働き方をしたいですか」と会社が本人の要望を聞くという体制をとっています。障がい者が農園で働くことができるように会社が農作業形態、仕組みを変えているのです。なぜそんな面倒なことをするのかと、疑問に思う方もいるかもしれませんが、ユニバーサルデザインの考えの基本は、「人」です。作業する人を中心にデザインしていくことで、私たちは新たな作業方法やビジネスの誕生を狙っているのです。障がい者が一人、農園にやってくると、農園の中に変化が起こり、新たなものが一つ誕生する。この構造は、既存の農業を変革していくキーワードとなります。

 また、あくまで農業という産業(ビジネス)が核であることを忘れてはいけません。障がい者や福祉が、産業の中で負担となるのではなく、プラスとなるデザイン。それをみんなで作り上げていくことが、これからの社会でとても重要になっていくと思っています。

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総務部長を務める妻・緑さんとともに、ユニバーサル農園の経営を行う

 

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浜松市役所産業部農業水産課

〒430-8652 浜松市中央区元城町103-2

電話番号:053-457-2333

ファクス番号:050-3606-6171

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