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更新日:2023年4月5日
昨年6月に、新しい食中毒の原因物質として養殖ヒラメの寄生虫クドア・セプテンプンクタータが報告されたのを皆さんご存知でしょうか。
今回はヒラメ食中毒をめぐる新種の寄生虫発見のお話を特集します。
平成23年6月の厚生労働省通知(生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例についての提言)によると、ヒラメにはごくまれにクドア・セプテンプンクタータという寄生虫がいることがわかりました。ある量以上のクドアのいるヒラメの刺身などを食べると、以下のような症状が現れます。
今のところ、原因食材としてわかっているのは養殖ヒラメのみです。ごく一部の養殖ヒラメに寄生しており、寄生していたとしても寄生虫の数は必ずしも多いとは限りません。
数年前より、刺身や寿司を食べた後に、上述の表1のような症状を起こし、軽症で終わる事件が全国で報告され、浜松市でも同じことが起こっていました。しかし、これまでやってきた食中毒検査では原因物質を突き止めることができず、全国の保健所、地方衛生研究所で原因不明のなぞの食中毒として問題になっていました。
そこで国立医薬品食品衛生研究所を中心に、国立感染症研究所、大学、全国の保健所、地方衛生研究所等が協力して原因物質の究明にあたった結果、なぞの食中毒の原因物質はヒラメに寄生する粘液胞子虫の『クドア・セプテンプンクタータ(Kudoaseptempunctata)』であることがわかりました。
クドア属は魚の筋肉に寄生する粘液胞子虫(♪KeyWord)です。ゴカイなどの環形動物と魚を交互に行き来しており、ヒトには寄生しません。クドア属のなかまはすでによく知られていて、食中毒の原因ではなく、魚の病気の原因としてその存在が知られてきました。
魚の症状としては魚の筋肉(身)をゼリー状にする、目に見える米粒状のかたまりをつくることが分かっています。
しかし、平成22年に、新たに発見されたクドア・セプテンプンクタータはクドア属の一種で、以下のような特徴があります。
これまでの調査からクドア・セプテンプンクタータはヒトに寄生せず、長く体内に留まる可能性も低く、発症した人から他の人へ感染する可能性もないと考えられています。
♪KeyWord粘液胞子虫♪
世界に2000種以上おり、クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物に近いことがわかっています。大きさが10μm程度の胞子を多数作り、胞子は極嚢細胞という袋と胞子原形質細胞、それらをつつみこむ胞子殻細胞からなります。魚類を宿主として寄生します。魚類に寄生しても宿主魚に対しては無害なことが多く、人体に対してもこれまでは影響がないと言われてきました。
クドアがなぞの食中毒とされていた平成21年6月から平成23年3月までの間に、厚生労働省が全国調査した結果、原因不明の一時的な食中毒は198件確認されました。このうち135件の食事メニューにヒラメが含まれていました。またクドアによる食中毒を正式に集計するようになった平成23年6月から同年12月までの間に、33件の食中毒が報告されています。
平成21年に愛媛県で起こったヒラメを原因とする食中毒では100名以上の患者を出し、この件を通じて以下のようなクドア食中毒の特徴が明らかになりました。
クドアの検査方法は
1.顕微鏡検査、2.リアルタイムPCR法(♪KeyWord)の2つの方法があります。当所では1.2.いずれの検査も行うことができます。ここでは、顕微鏡を使った検査方法をご紹介します。
1.シャーレにヒラメをおき、検査用水を入れてメッシュ(網)でつぶします。
検査用水を追加して、さらに目の細かいメッシュに通します。
2.遠心分離を行います。上澄みをすて下に残った残渣を顕微鏡で観察します。
3.特殊なガラス上でクドア胞子を数え、ヒラメ1gあたりのクドア胞子数を算出します。
♪KeyWordリアルタイムPCR法♪
遺伝子検査の一種。クドアのもつ遺伝子の特定の塩基配列を標的として増やし、増えると同時に蛍光を発する物質の量を測ることで、試料の中にどの位の量のクドア遺伝子があるかを測定できる検査方法。
クドア食中毒を予防するには、以下の2つの方法が有効です。
しかし、ヒラメは刺身などの生食を楽しむ食材であるので、冷凍や加熱をするとせっかくの味や風味を損なってしまうため、あまり現実的な方法ではないかもしれません。
そこで、農林水産省を中心にクドアが寄生した養殖ヒラメの出荷を防ぐための取り組みも始まっています。詳しくは農林水産省ホームページをご覧下さい。
クドア・セプテンプンクタータはまだ発見されたばかりの種類なので、さまざまな面において知られていないことが多く、さらなる研究が必要です。以下に今後の課題を挙げました。
クドアの生態や生活サイクル、病原性などが今後わかっていくと、養殖場での予防方法や新しい検査方法の開発などにつながり、消費者が安心しておいしいヒラメを食べることができると考えています。
浜松市保健環境研究所では、ご紹介した検査方法や新しい検査技術を随時取り入れながら、今後もクドア食中毒の検査研究に取り組んでいきます。
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